激しい嵐に見舞われた船が今にも荒波に飲み込まれそうになり、誰もが最期を覚悟したその瞬間、奇跡的に波が引き、一筋の光が差し込む。
そんな絶望的な状況から、かろうじて生き延びることを、
「九死に一生を得る」(きゅうしにいっしょうをえる)と言います。
意味・教訓
「九死に一生を得る」とは、ほとんど助かる見込みのない絶望的な危機から、かろうじて命を救い出すことを意味します。
十のうち九までが死に直面するような絶体絶命の状況において、残されたわずか一の生存の可能性を掴み取った際に使われます。
- 九死(きゅうし):十のうち九までが死ぬこと。
- 一生(いっしょう):一度の生。ここでは「わずかな生存の機会」を指す。
語源・由来
「九死に一生を得る」の由来は、中国の歴史書である『史記』(しき)の「淮陰侯列伝」に見られる記述だとされています。
もともとは「十死一生」という言葉で、「十回死ぬほどの危険がある中で、一度だけ生き残る」という意味で使われていました。
その後、数字の「十」が「九」に変化し、より一般的な表現として定着しました。
「九」という数字は、単なる数としてではなく「限りなく死に近い状態」を強調するために用いられています。
使い方・例文
本当に命を落としかねない、重大な事故や災害、病気からの生還という文脈で使用するのが適切です。
例文
- 巨大な土砂崩れが発生したが、間一髪でトンネルを抜け出し、九死に一生を得た。
- 医師からも絶望的だと言われた難病から、新薬の投与で九死に一生を得ることができた。
- 遭難した山中で数日間さまよったが、通りかかった救助隊に発見され、まさに九死に一生を得た。
- 墜落した機体から無傷で助け出された彼は、九死に一生を得た人物として注目された。
誤用・注意点
「九死に一生を得る」は、生死に関わる深刻な場面に限定して使うべき言葉です。
例えば、「宿題を忘れたが、先生が休みで助かった」や「財布を落としたが見つかった」といった、命に別状のない日常的な出来事に対して使うのは、言葉の重みを損なう誤用となります。
また、「万死に一生を得る」という言葉も存在しますが、こちらは「万分の一の可能性」を指すため、より絶望的な度合いが強い場合に用いられます。
類義語・関連語
「九死に一生を得る」と似た、危機を脱した様子を表す言葉には以下のものがあります。
- 命拾い(いのちびろい):
死ぬはずのところを助かること。 - 虎口を逃れる(ここうをのがれる):
虎の口のような、きわめて危険な場所や状況から逃れること。 - 危機一髪(ききいっぱつ):
髪の毛一本ほどの、きわめて危ない瀬戸際で難を免れること。 - 万死に一生を得る(ばんしにいっしょうをえる):
万に一つの助かる見込みもない中から、奇跡的に助かること。 - 薄氷を踏む(はくひょうをふむ):
非常に危険な状況に身を置くこと。(※危機そのものを指す言葉)
対義語
「九死に一生を得る」とは対照的な、もはや助かる見込みのない状態を示す言葉です。
英語表現
「九死に一生を得る」を英語で表現する場合、以下の定型句がよく使われます。
Have a narrow escape
直訳すると「狭い逃げ道を通る」となり、そこから転じて「かろうじて逃れる」「九死に一生を得る」という意味になります。
- 例文:
He had a narrow escape from the burning building.
(彼は燃え盛るビルから、九死に一生を得た。)
Escape by the skin of one’s teeth
聖書に由来する表現で、「歯の皮(表面)一枚の差で逃れる」という意味です。
髪の毛一本の差で助かる「危機一髪」のニュアンスに近い英語です。
- 例文:
The climbers escaped by the skin of their teeth just before the avalanche.
(登山家たちは雪崩の直前、九死に一生を得た。)
まとめ
「九死に一生を得る」は、単なる運の良さを表す言葉ではありません。
極限の絶望に直面したとき、それでも諦めなかった、あるいは人知を超えた力が働いて命が繋がったという、崇高さすら感じさせる言葉です。
私たちの平穏な日常においては、この言葉を実際に使う機会は少ないかもしれません。
しかし、かつて人々がこうした言葉を生み出し、命の尊さを語り継いできた背景を知ることは、今ある命をより大切に感じるきっかけになることでしょう。






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