意味
「虎口を逃れる(ここうをのがれる)」とは、文字通りには「虎の口」を逃れることを指し、一度入り込めば生きては戻れないほど恐ろしい場所、あるいは「死の淵」からかろうじて脱するという意味です。
そこから命からがら逃げ出すという、切迫した状況を表しています。
語源・由来
「虎口を逃れる」の由来は、中国の歴史書『史記』の「劉敬叔孫通列伝」に見える故事にあるとされています。
秦の時代、反乱の知らせを受けた二世皇帝が学者たちに意見を求めると、三十人余りの学者が「反乱であり、急いで兵を出して討つべきだ」と答え、皇帝は怒って顔色を変えました。
そこへ学者の叔孫通が「ただの盗賊にすぎない」と答えると皇帝は喜び、改めて学者たちに尋ねて、反乱だと答えた者を言うべきでないことを言った罪で役人に引き渡しました。
叔孫通は褒美を与えられて博士に任じられましたが、宮殿から宿舎に戻ると、へつらいを責める仲間に「危うく虎の口から逃れられないところだった」と答え、そのまま逃げ去りました。
また、単に逃げるだけでなく「虎口を逃れて竜穴に入る(一つの災難を逃れても、また別の災難に遭う)」といった派生表現もあります。
使い方・例文
単に「面倒なことから逃げた」という程度では使わず、人生の進退に関わるような重大な局面や、身体的な危機から脱した際に用いられます。
- 崩落の直前に車を走らせ、虎口を逃れる。
- 先輩の助けにより、取引停止の虎口を逃れた。
- 詐欺の罠に気づき、危ういところで虎口を逃れる。
- 捜索隊に発見され、冬の雪山でようやく虎口を逃れた。
誤用・注意点
「虎口(ここう)」を「こぐち」と読み間違えないよう注意が必要です。
お城の出入り口を指す「虎口(こぐち)」という建築用語もありますが、ことわざとして「危険な場所」を指す場合は「ここう」と読むのが一般的です。
また、「虎口」自体が「きわめて危険な場所」という意味を持つため、単に「危ない場所」と言いたい時に「虎口を逃れる」と使うのは誤りです。
あくまで「そこから逃げ出した」という動作までを含めた表現です。
類義語・関連語
「虎口を逃れる」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 九死に一生を得る(きゅうしにいっしょうをえる):
十のうち九までは死ぬと思われるほどの危難から、かろうじて助かること。 - 危機一髪(ききいっぱつ):
髪の毛一本ほどの差で、きわめて危険な状態に陥りそうな瞬間。 - 死中に活を求める(しちゅうにかつをもとめる):
絶望的な状況の中で、なんとか生き延びる道を必死に探すこと。
対義語
「虎口を逃れる」とは対照的な意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 虎口に入る(ここうにいる):
自ら進んで非常に危険な場所や状況に飛び込むこと。 - 飛んで火に入る夏の虫(とんでひにいるなつのむし):
自ら災いの中に飛び込み、自滅することのたとえ。
「虎口を逃れる」と「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の違い
よく混同される「虎穴に入らずんば虎子を得ず」とは、指している場所の性質が異なります。
「虎口」は単に死に直結する恐ろしい場所ですが、「虎穴」はリスクはあるがリターン(虎の子)もある場所です。
純粋な意味の反対(危険から出る↔危険に入る)を考える場合は、「虎口に入る」が最も適した対義語と言えます。
英語表現
「虎口を逃れる」を英語で表現する場合、以下の定型句が適しています。
a narrow escape
「間一髪の脱出」
生死を分けるような危機から、かろうじて逃げ延びることを指す最も一般的な表現です。
It was a narrow escape from the sinking ship.
(沈没船から間一髪で逃げ出すことができた。)
孔子が盗跖から虎口を逃れた話が荘子にある
『史記』のほかに、『荘子』盗跖篇にも「虎口」が危険のたとえとして出てきます。
孔子は大盗賊の盗跖を説き伏せに出かけ、逆に激しく罵られて追い返されました。
帰り道で出会った柳下季に、孔子は次のように語っています。
丘所謂無病而自灸也,疾走料虎頭,編虎須,幾不免虎口哉
(わたしは病気でもないのに自分に灸をすえたようなものだ。走っていって虎の頭をなで、虎のひげを編み、あやうく虎の口から逃れられないところだった)
盗跖のもとを出た孔子は、車の手綱を三度も取り落とし、顔色は火の消えた灰のようだったと書かれています。











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