人生には、後戻りできないと分かっていても、大きな決断を迫られる瞬間が何度か訪れます。
マイホームの購入、独立開業、あるいは一世一代のプロポーズ。
失敗すれば失うものも大きいけれど、思い切ってその一歩を踏み出す時の、必死の覚悟と勢いを表す言葉が「清水の舞台から飛び降りる」(きよみずのぶたいからとびおりる)です。
現代では単なる「たとえ話」として使われていますが、実はその昔、本当に飛び降りて願掛けをした人たちが数多くいたという、衝撃的な歴史を持つ言葉でもあります。
意味

「清水の舞台から飛び降りる」とは、失敗を恐れず、必死の覚悟で大きな決断を実行することのたとえです。
京都にある清水寺(きよみずでら)の本堂から張り出した高い舞台から、身を投げるほどの強い決意を意味します。
- 清水の舞台:京都・音羽山清水寺にある本堂の舞台。高さは約13メートル(4階建てのビルに相当)あります。
- 飛び降りる:命がけで実行する。
「もし助かれば願いが叶い、もし死んでも観音様のもと(極楽浄土)へ行ける」という信仰に基づき、生死をかけた賭けに出る心境を表しています。
語源・由来
この言葉の由来は、江戸時代に実在した「命がけの願掛け」の風習にあります。
現在では信じがたいことですが、江戸時代には、自身の切実な願い(病気平癒や商売繁盛など)を叶えるために、実際に清水の舞台から飛び降りる人が後を絶ちませんでした。
清水寺に残る記録『清水寺成就院日記』などの調査によると、元禄7年(1694年)から慶応元年(1864年)までの間に、記録に残っているだけで234人もの人が飛び降りたとされています。
当時の人々にとって、この行為は自殺志願ではなく、「観音様に命を預けて願いを託す」という、究極の信仰心の表れでした。
「清水の観音様に命を預けて飛べば、命も助かり願いも叶う」と信じられていたのです。
この命がけの風習が、後に「思い切った決断」を意味する言葉として定着しました。
使い方・例文
現代では、命をかけるような場面ではなく、高額な買い物や、人生の転機となる決断をする際によく使われます。
「清水の舞台から〜」と言うだけで、並々ならぬ覚悟や、後戻りできない緊張感を相手に伝えることができます。
例文
- ずっと憧れていた高級車を、「清水の舞台から飛び降りる」つもりで購入した。
- 安定した公務員の職を捨て、「清水の舞台から飛び降りる」覚悟で起業した。
- 彼女にプロポーズするのは、僕にとってまさに「清水の舞台から飛び降りる」ような心境だった。
- 「清水の舞台から飛び降りる」気持ちで、全財産を投資につぎ込んだ。
類義語・関連語
「清水の舞台から飛び降りる」と似た意味を持つ言葉には、強い決意や勝負に出る様子を表す表現があります。
- 乾坤一擲(けんこんいってき):
運命をかけた大勝負をすること。
「乾坤」は天と地、「一擲」はサイコロを一度投げること。のるかそるかの大博打を指します。 - 一世一代(いっせいちだい):
人の一生のうちで、二度とないような重大なこと。
「一世一代の大勝負」のように使います。 - 背水の陣(はいすいのじん):
川などを背にして、退けば溺れる(逃げ場がない)状況で必死に戦うこと。 - 賽は投げられた(さいはなげられた):
「一度乗り出した以上、もう後戻りはできない」という断固たる決意。
古代ローマの英雄カエサルの言葉です。
対義語
「清水の舞台から飛び降りる」とは対照的な意味を持つ言葉は、極めて慎重な様子を表します。
- 石橋を叩いて渡る(いしばしをたたいてわたる):
堅固な石の橋でさえ、壊れないか叩いて確かめてから渡るように、用心の上にも用心を重ねること。 - 及び腰(およびごし):
自信がなくて、おっかなびっくりな様子。中途半端な態度。
英語表現
英語にも、後戻りできない決断や、思い切った行動を表す似たような慣用句が存在します。
take the plunge
- 意味:「思い切ってやってみる」「断行する」
- 解説:”plunge” は「飛び込む」という意味。冷たい水や深い場所に思い切って飛び込む様子から、ためらいを捨てて決断することを指します。
- 例文:
We decided to take the plunge and get married.
(私たちは思い切って結婚することにした。)
cross the Rubicon
- 意味:「ルビコン川を渡る(後戻りできない決断をする)」
- 解説:カエサルの故事(賽は投げられた)に由来する表現で、重大な決断を下すことを意味します。
- 例文:
He crossed the Rubicon.
(彼は後戻りできない決断を下した。)
豆知識:実際の生存率は?
「清水の舞台から飛び降りる」というと、必死の覚悟=死を意味するように思えますが、実は江戸時代に飛び降りた人々の生存率は意外に高かったことが分かっています。
清水寺の記録(『清水寺成就院日記』)を分析した研究によると、飛び降りた234人のうち、亡くなったのは34人。
つまり、生存率は約85%でした。
なぜ助かったのか?
当時の舞台の下には、現在よりも多くの樹木が生い茂り、地面も柔らかい土だったため、それらがクッションの役割を果たしたと考えられています。
その後の結末
この危険な風習は、明治時代に入ると政府によって問題視され、明治5年(1872年)に「飛び降り禁止令」が出されました。
その際、再発防止のために舞台に柵が設けられ、現在のように景色を楽しむだけの場所となりました。
「死ぬ気でやれば(意外と)なんとかなる」という教訓が含まれている……のかもしれませんが、現代のコンクリート地面では助かる見込みはありませんので、決意を示す言葉として使うだけにとどめましょう。
まとめ
「清水の舞台から飛び降りる」は、人生の岐路において、恐怖や不安を乗り越えて一歩踏み出す勇気を表す言葉です。
その背景には、かつて本当に願いを叶えるために空へ身を投げた人々の、凄まじいエネルギーと信仰心が秘められています。
もし、あなたが人生で大きな決断に迷った時は、この言葉を思い出してみてください。先人たちの「思い切りの良さ」が、あなたの背中を少しだけ押してくれるかもしれません。







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