自分を犠牲にしてでも、誰かのために懸命に働きたいと思った経験。
あるいは、組織やチームのために泥臭い仕事を一手に引き受けた経験。
そのような、骨身を惜しまず尽くす姿勢を指して、「牛馬の労」(ぎゅうばのろう)と言うことがあります。
スマートな働き方が推奨される現代においても、ここぞという場面で汗を流す献身的な態度は、人の心を動かす力を持っています。
意味
「牛馬の労」とは、牛や馬のようになったかのように、心身の力を尽くしてよく働くことです。
重い荷物を運んだり、田畑を耕したりする牛や馬の労苦になぞらえて、大変な苦労や労働を厭わずに他人のために尽くす様子を表します。
- 牛馬(ぎゅうば):牛と馬。古くから人のために使役されてきた家畜。
- 労(ろう):心や体を使って働くこと。骨折り。ねぎらい。
単に「忙しい」というだけでなく、「自分の苦労を顧みず、相手や目的のために奉仕する」というニュアンスが強い言葉です。
選挙の演説などで「皆さんのお役に立つために」という決意表明として使われることもあります。
語源・由来
「牛馬の労」の由来は、特定の歴史的な物語(故事)に基づくものではなく、古くからの人間と家畜との関わりそのものにあります。
かつて、機械がなかった時代において、牛や馬は農業や運搬に欠かせない重要な労働力でした。
文句も言わずに重い荷物を背負い、荒れた土地を耕し続ける彼らのひたむきで過酷な労働の様子から、人のために身を粉にして尽くすことを「牛馬」に例えるようになったと考えられます。
使い方・例文
「牛馬の労」は、主に自分の働きをへりくだって表現する場合や、他人の献身的な働きに感謝する場合に使われます。
ビジネスシーンで「どんな苦労も厭わない」という覚悟を示す際や、縁の下の力持ちとして組織を支えた人を称える際などに適しています。
例文
- 今回のプロジェクト成功のためなら、私は「牛馬の労」も厭わない覚悟です。
- 彼は会社の創業期に「牛馬の労」をとり、今の発展の礎を築いた功労者だ。
- PTAの役員として「牛馬の労」を惜しまず活動してくれた彼女には、感謝の言葉しかありません。
誤用・注意点
この言葉を使用する際は、「誰に対して使うか」に注意が必要です。
本来、自分を動物(牛馬)に例えてへりくだる言葉であるため、目上の人や他人に対して「牛馬の労をとるように」と命じるのは大変失礼にあたります。
これは「文句を言わずに家畜のように働け」と強要しているのと同義になりかねないため、あくまで「自分の決意」や「過去の献身への感謝」の文脈で使うようにしましょう。
類義語・関連語
「牛馬の労」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 犬馬の労(けんばのろう):
主君や他人のために力を尽くすこと。「犬」は主人に忠実であることから、特に目上の人への忠誠心や謙譲のニュアンスが強く含まれます。 - 粉骨砕身(ふんこつさいしん):
骨を粉にし、身を砕くほどに、力の限り努力すること。 - 汗馬の労(かんばのろう):
戦場で馬に汗をかかせるほど奔走すること。転じて、物事の成功のために陰で苦労や尽力をすること。
「牛馬」と「犬馬」の違い
「牛馬の労」と「犬馬の労」は混同されやすいですが、ニュアンスに微差があります。
- 牛馬の労:
「労働の過酷さ・量」に焦点。重労働を厭わない献身。 - 犬馬の労:
「主人への忠義・忠誠」に焦点。主君のために尽くす心。
一般的に、目上の人への忠誠を誓う場合は「犬馬の労」が好まれますが、泥臭い実務を担う覚悟を示す場合は「牛馬の労」も自然に使われます。
対義語
「牛馬の労」とは対照的な意味を持つ言葉は以下の通りです。
- 無為徒食(むいとしょく):
何もしないでぶらぶらと遊び暮らし、ただ飯を食うこと。 - 職務怠慢(しょくむたいまん):
やるべき仕事や任務を怠けること。
英語表現
「牛馬の労」を英語で表現する場合、動物を使った比喩がよく用いられます。
work like a horse
- 意味:「馬のように働く(身を粉にして働く)」
- 解説:日本語の「牛馬」と同様に、精力的に、または重労働をこなして働く様子を表す一般的なイディオムです。work like a dog(犬のようにあくせく働く)とも言います。
- 例文:
He works like a horse to support his family.
(彼は家族を養うために、身を粉にして働いている。)
「牛馬の労」についての少し深堀り
言葉の背景について、少し深掘りしてみましょう。
「牛馬」という言葉は、現代では「牛馬の如くこき使われる」といったネガティブな文脈(いわゆるブラック企業の労働環境など)で連想されることもあります。
しかし、ことわざの「牛は牛連れ、馬は馬連れ」にあるように、これらは古くから人々の生活に寄り添ってきた身近な存在でした。
「牛馬の労」と言う場合、単なる「苦役」という意味だけでなく、「実直さ」「勤勉さ」というポジティブな美徳が含まれています。
だからこそ、選挙の候補者やリーダーたちが「口先だけでなく行動で示す」という意思表示として、好んで「牛馬の労を〜」と口にするのです。
まとめ
「牛馬の労」は、牛や馬のように骨身を惜しまず、ひたむきに働くことを表す言葉です。
自分を大きく見せるのではなく、あえて「牛馬」に例えて奉仕の精神を示すこの言葉は、口先だけではない「行動力」や「誠実さ」を相手に伝えることができます。
誰かのために汗を流すことの尊さを再確認したいとき、この言葉を思い出してみるとよいことでしょう。



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