気まずい会話が聞こえてきた時や、面倒な頼み事をされそうな時、とっさに眠っているふりをしてやり過ごした経験はありませんか?
狸寝入りとは、周囲の状況を把握していながら、あえて寝たふりをすることで難を逃れようとする処世術を指す言葉です。
「狸寝入り」の意味
眠っていないのに、眠っているふりをすること。
単に寝たふりをするだけでなく、自分にとって都合の悪い状況や、関わりたくない場面を避けるために、意識がないことを装ってやり過ごそうとするニュアンスが含まれます。
「狸寝入り」の語源・由来
この言葉は、動物のタヌキの非常に臆病な性質に由来しています。
タヌキは警戒心が強く、猟師の銃声や突然の物音に驚くと、そのショックで一時的に気絶(仮死状態)してしまうことがあります。
猟師が「仕留めた」と思って近づいたり持ち運んだりしている間に、タヌキは意識を取り戻し、隙を見て逃げ出してしまいます。
昔の人々は、この「気絶して動かない様子」と「その後すぐに逃げ出す様子」を見て、「タヌキは人間を油断させるために、わざと寝たふり(死んだふり)をして騙しているのだ」と考えました。
このことから、人を欺くために寝たふりをすることを「狸寝入り」と呼ぶようになったとされています。
「狸寝入り」の使い方・例文
主に、起きていることがバレると責任を追及されたり、面倒なことに巻き込まれたりする場面で、防御策として使われます。
例文
- 帰宅が遅くなり妻に理由を問い詰められそうになったので、慌てて布団に潜り込み狸寝入りを決め込んだ。
- 面倒な仕事を押し付けられそうになった同僚は、デスクで狸寝入りをして気配を消していた。
- 子供が狸寝入りをしているのは分かっていたが、その寝顔が可愛いのでそのまま頭を撫でてやった。
「狸寝入り」の類義語
- 空寝(そらね):
寝ていないのに寝たふりをすること。また、寝ていて寝言を言うこと。「狸寝入り」とほぼ同じ意味だが、タヌキという比喩を含まない直接的な表現。
平安時代の文学作品(『源氏物語』など)でも使われている古い言葉。
「狸寝入り」の英語表現
英語圏にも、動物の習性に例えた全く同じ発想の慣用句が存在します。
play possum
- 意味:「死んだふりをする(寝たふりをする)」
- 解説:ポッサム(オポッサム)は、北米などに生息するフクロネズミの一種です。
タヌキと同様に、敵に襲われると「死んだふり(擬死)」をして身を守る習性があるため、この表現が生まれました。 - 例文:
I knew he was just playing possum to avoid doing the dishes.
(彼が皿洗いを避けるために、ただ寝たふりをしていることは分かっていた。)
feign sleep
- 意味:「眠りを装う」
- 解説:「feign(フェイン)」は「~のふりをする」という動詞です。動物の比喩を使わない、説明的で一般的な表現です。
「狸寝入り」に関する豆知識
タヌキは演技派?それともパニック?
由来の項で触れた通り、タヌキが動かなくなるのは、恐怖による「擬死(ぎし)」と呼ばれる防衛本能(または失神)であるという説が有力です。
つまり、タヌキ自身は高度な知能で人間を騙そうと演技をしているわけではなく、驚きのあまり体が固まってしまっているだけなのです。
意識を取り戻した時に、たまたまその場から逃げ出した行動が、人間から見ると「まんまと騙された」ように映ったのでしょう。この人間の解釈(誤解)が、言葉として定着したと言えます。
まとめ
狸寝入りは、都合の悪い状況から身を守るために「寝たふり」をする行為のことです。
臆病なタヌキが驚いて気絶してしまう習性を、昔の人が「人を騙すための演技」と捉えたことに由来します。
真正面から向き合うことが難しい時、一時的にその場をやり過ごすための小さな知恵として、この言葉や行動が役立つ場面もあることでしょう。







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