狸寝入り

慣用句
狸寝入り(たぬきねいり)

6文字の言葉た・だ」から始まる言葉
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狸寝入り 【個別】ことわざ・慣用句・四字熟語

「あ、まずい!寝たふりしちゃえ…」
誰しも一度くらい、そんな風に思った経験があるかもしれませんね。

この、意図的に寝たふりをする行為を指す「狸寝入り」という言葉。
一体なぜ「狸(たぬき)」なのでしょうか?

この記事では「狸寝入り」の正確な意味から、気になる語源、使い方、そして関連する言葉まで、分かりやすく解説していきます。

「狸寝入り」の意味

「狸寝入り」とは、眠っているふりをすること、いわゆる空寝(そらね)を指す慣用句です。

特に、自分にとって都合の悪い状況をやり過ごしたり、相手を油断させたり、あるいは単に面倒なことから逃れたりするために、意識ははっきりしているのに眠っているかのように装う行為を指します。

単に物理的に寝たふりをすることだけでなく、比喩的に「その場にいないふりをする」「気づかないふりをする」「知らんぷりをする」といった意味合いで使われることもあります。

「狸寝入り」の語源 – なぜ「狸」なのか?

「狸寝入り」の語源については、いくつかの説がありますが、はっきりとした定説はありません。

よく言われるのは、タヌキの習性に関連する説です。
タヌキは敵に出会うなど危険が迫ると、体を硬直させて動かなくなり、死んだふり(擬死:ぎし)をすることがあると言われています。
この、敵をやり過ごすための習性が「寝たふり」と結びついて「狸寝入り」という言葉が生まれたとする説です。
ただし、この擬死は意図的な「演技」というよりは、極度の緊張による生理的な反応とされ、人間の「寝たふり」とは少し異なります。

また、昔の猟師が、捕まえたと思ったタヌキが実は寝たふりをしていて、油断した隙に逃げられた、という経験から生まれたとする説もあります。

いずれにしても、昔からタヌキが持つ「人を化かす」「ずる賢い」といったイメージと「寝たふり」というごまかしの行為が結びついて、この言葉が定着したと考えられます。

「狸寝入り」が使われる場面と例文

「狸寝入り」は、以下のような状況で使われます。

  • 叱られたり、面倒なことを頼まれたりするのを避けたい時
  • その場に居合わせたくない、関わりたくない時
  • 相手を油断させて、何かを企んでいる時(やや稀なケース)
  • 単純に、起きていることを悟られたくない時

基本的には、その場をやり過ごすためや、ごまかすための消極的な行為として描写されることが多いです。

例文

  • 先生に指名されそうになったので、とっさに狸寝入りをした。
  • 妻に小言を言われそうになり、つい狸寝入りでやり過ごそうとしてしまった。
  • 弟は都合が悪くなると、すぐ狸寝入りをして話を聞かないふりをする。
  • 何度呼びかけても返事がない。これはきっと狸寝入りに違いない。

使う上でのちょっとした注意

「狸寝入り」は、あくまで「寝たふりをしている」状態を指します。
本当に疲れていたり、ぐっすり眠ってしまったりしている場合には使いません。

(誤)彼は疲れて狸寝入りしてしまった。
(正)彼は疲れて熟睡してしまった。 / 彼は疲れて眠ってしまった。

「狸寝入り」の類義語 – 似ている表現

「狸寝入り」と似たような意味を持つ言葉を見てみましょう。

  • 空寝(そらね):寝たふりをすること。「狸寝入り」とほぼ同義で、古くから使われる言葉。
  • 寝たふり:文字通り、寝ているふりをすること。「狸寝入り」をより直接的に表現した言い方。
  • 知らんぷり:知らないふりをすること。寝たふりに限らず、広く無視したり、関心がないように装ったりする態度。
  • 白を切る(しらをきる):知っているのに知らないと強く言い張ること。寝たふりというより、とぼけてごまかすニュアンスが強い。

「狸寝入り」の対義語 – 反対の意味の表現

「狸寝入り」は意識的に寝たふりをすることなので、その反対は「本当に眠っている状態」や「起きている状態」を表す言葉になります。

  • 熟睡:ぐっすりと深く眠っていること。意識のない無防備な睡眠状態であり、意図的な狸寝入りとは対極。
  • 爆睡:非常に深く、ぐっすりと眠ること。「熟睡」をさらに強調した俗語。
  • 起きている:目が覚めている状態。寝たふりをしていない、通常の覚醒状態。
  • 目を開ける:寝たふりをやめて、起きていることを示す動作。

※ 意識的に装う「狸寝入り」に対し、これらは無意識の睡眠や覚醒状態を示すため、対義語と言える。

「狸寝入り」の英語での類似表現

英語で「狸寝入り」に似たニュアンスを持つ表現を紹介します。

  • play possum
    意味:死んだふりをする、寝たふりをする、知らないふりをする。
    由来:オポッサムという動物が危険を感じると死んだふり(擬死)をする習性から来ています。「狸寝入り」に非常に近い定番表現です。
    例文:I think he’s just playing possum. (彼はただ狸寝入りをしているだけだと思う。)
  • pretend to be asleep
    意味:寝ているふりをする。
    解説:「pretend to be 〜」で「〜のふりをする」という意味。文字通り「寝たふりをする」ことを直接的に表現します。
    例文:She pretended to be asleep when I came in. (私が部屋に入ったとき、彼女は狸寝入りをした。)
  • feign sleep (feign = 〜を装う)
    意味:睡眠を装う、寝たふりをする。
    解説:「feign」は「〜を装う、〜のふりをする」という意味のやや硬い言葉ですが「寝たふり」を表す際によく使われます。
    例文:He feigned sleep to avoid the conversation. (彼は会話を避けるために狸寝入りをした。)

まとめ – 「狸寝入り」から見える処世術?

「狸寝入り」とは、眠っているふりをして、都合の悪い状況や面倒なことをやり過ごそうとする行為です。
タヌキの習性やイメージから生まれたとされるこの言葉は、どこかユーモラスな響きも持ちますが、基本的にはごまかしやまやかしといった、あまり良くない状況で使われます。

もちろん、本当に疲れている時に使うのは誤りです。
また、多用すれば「ずるい人」「不誠実な人」というレッテルを貼られかねません。

とはいえ、時には波風を立てないための一時的な方便として「狸寝入り」が有効な場面も…あるかもしれませんね。
状況に応じて適切に使い分けたい(あるいは、使わずに済ませたい)言葉の一つと言えるでしょう。

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