「ここだけの話」として打ち明けたはずの秘密が、いつの間にか周囲の誰もが知る話題になっていた。
そんな経験は、誰にでもあるものです。
どれほど固く口止めをしても、人伝(ひとづて)に広がる言葉の勢いを止めることは、現代のSNS社会であっても非常に困難なことです。
まさに、「人の口に戸は立てられぬ」(ひとのくちにはとはたてられぬ)というわけです。
意味・教訓
「人の口に戸は立てられぬ」とは、世間の噂話は防ごうとしても防ぎきれないという意味です。
家の入り口には戸を立てて人目を遮ることができますが、人間の口には物理的な戸を立てて封じることはできません。
一度漏れた言葉は次々と他人の口へ伝わり、瞬く間に広がってしまうという世の常(つね)を言い表しています。
語源・由来
「人の口に戸は立てられぬ」の由来は、物理的な「戸(扉)」と、形のない「口」を対比させた比喩表現にあります。
家の中を隠したいときには戸を閉めれば済みますが、他人の口は自分の意志で閉ざさせることは不可能です。
この言葉は、江戸時代に庶民の間で親しまれた「江戸いろはかるた」の「ひ」の読み札として採用されたことで、教訓として広く定着しました。
使い方・例文
「人の口に戸は立てられぬ」は、秘密が漏れてしまったことを嘆く場面や、情報の拡散力の強さを指摘する際に使われます。
誰かを直接攻撃するのではなく、「噂とはそういうものだ」という諦めや客観的な視点を持って語られることが多い表現です。
例文
- 隠しておきたかった失敗だったが、「人の口に戸は立てられぬ」で、翌日には町内の噂になっていた。
- 「人の口に戸は立てられぬと言うから、不用意な発言には気をつけなさい」と先生に注意された。
- 社内恋愛を秘密にしていたつもりだが、「人の口に戸は立てられぬ」の通り、周知の事実となっていた。
類義語・関連語
「人の口に戸は立てられぬ」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 世間の口には戸は立てられぬ(せけんのくちにはとはたてられぬ):
世間の人々が勝手に噂をするのを止める方法はないということ。 - 壁に耳あり障子に目あり(かべにみみありしょうじめあり):
密談をしていても、どこで誰が聞いているかわからないという戒め。 - 悪事千里を走る(あくじせんりをはしる):
悪い行いや評判は、あっという間に遠くまで知れ渡ってしまうということ。
対義語
「人の口に戸は立てられぬ」とは対照的な意味を持つ言葉は、明確な定型句としては存在しません。
噂を防げるという内容の慣用句はありませんが、情報を漏らさないための心得として以下の言葉が挙げられます。
英語表現
「人の口に戸は立てられぬ」を英語で表現する場合、以下の定型表現が用いられます。
People will talk.
- 意味:「人々は噂をするものだ」
- 解説:どんなに隠そうとしても、世間の人々はあれこれと話し始めるものである、というニュアンスで使われる最も一般的な表現です。
No lock can hold a tongue.
- 意味:「どんな鍵も、舌(言葉)を留めることはできない」
- 解説:日本語の「戸」を「lock(鍵)」に置き換えた、より比喩的な表現です。
まとめ
人の口から口へと伝わる噂の速さは、いつの時代も人々の想像を超えるものです。
「人の口に戸は立てられぬ」という言葉は、情報の制御がいかに難しいかを教えてくれます。
この言葉を胸に留めておくことは、不用意な発言を慎むだけでなく、根拠のない噂に振り回されないための心の持ちようにもつながることでしょう。





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