意味
「人の口に戸は立てられぬ(ひとのくちにとはたてられぬ)」とは、どんなに隠そうとしても、他人が話す噂までは止められないという意味です。
一度漏れた話は人から人へ伝わり、止める間もなく広がってしまうという世の常を言い表しています。
語源・由来
「戸を立てる」は戸を閉めることで、「閉てる」とも書きます。
家なら戸を閉めて中を隠せますが、人の口に戸を閉めて話を止めることはできない、という見立てです。
江戸初期の『慶長見聞集』に「下人の口に戸はたてられぬ」の形で出てきます。
江戸の町を夜ごとどなって見回る金六という老人を、使用人たちが陰で笑い、そのからかいの言葉が世間中に広まった、という話があります。
作者はこの話を、「下人の口に戸はたてられぬ」と世に言うのはこういうことだろう、と結んでいます。
使い方・例文
「人の口に戸は立てられぬ」は、秘密が漏れてしまったことを嘆く場面や、情報の拡散力の強さを指摘する際に使われます。
「うわさになるから気をつけなさい」と、言動を戒めるときにも使います。
例文
- 隠しておきたい失敗だったが、人の口に戸は立てられぬで翌日には噂になっていた。
- 「人の口に戸は立てられぬ、不用意な発言に気をつけなさい」と注意された。
- 社内恋愛は秘密のつもりだったが、人の口に戸は立てられぬで周知の事実だ。
類義語・関連語
「人の口に戸は立てられぬ」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 世間の口には戸は立てられぬ(せけんのくちにはとはたてられぬ):
世間の人々が勝手に噂をするのを止める方法はないということ。 - 壁に耳あり障子に目あり(かべにみみありしょうじにめあり):
密談をしていても、どこで誰が聞いているかわからないという戒め。 - 悪事千里を走る(あくじせんりをはしる):
悪い行いや評判は、あっという間に遠くまで知れ渡ってしまうということ。
対義語
「人の口に戸は立てられぬ」の対義語にあたる決まった言い回しはありません。
うわさの元を自分から作らない、という心得を言う言葉には次のものがあります。
- 口は災いの元(くちはわざわいのもと):
うかつな発言は自分自身に災いを招くため、慎むべきだという戒め。
英語表現
「人の口に戸は立てられぬ」を英語で表現する場合、以下の定型表現が用いられます。
People will talk
直訳は「人々は噂をするものだ」で、どんなに隠そうとしても世間の人々はあれこれと話し始めるものだ、というニュアンスで使われる最も一般的な表現。
We tried to keep the engagement quiet, but people will talk, and the whole office knew by Monday.
(婚約は内密にしていたが、人の口に戸は立てられぬで、月曜には社内中に知れ渡っていた。)
近松の浄瑠璃にも出る「人の口に戸は立てられぬ」
近松門左衛門の浄瑠璃『最明寺殿百人上臈』の下之巻に、この言い回しが登場します。
最明寺殿(北条時頼)が座禅にこもっている間、御台所(時頼の妻)が執権の装束を着て名代として政務を執っている、という場面です。
国々へ触れを伝える使いの者が、世間のうわさを次のように語ります。
さは申ながら人のくちには戸がたてられず
(そうは申しても、人の口に戸は立てられない)
このあと、世間が「めん鳥がときをつくるか(めんどりが時を告げるのか)」と、女性が政務を執ることをあざけっていると続きます。
めんどりが時を告げるのは、女が権勢をふるうと家が傾くという、中国の『書経』以来の、女性を低く見たたとえです。
世間はこのたとえを持ち出して、御台所の政務を当てこすっていたわけです。










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