「下手の横好き」(へたのよこずき)
どれだけ練習しても上達しない。才能がないことは自分でも分かっている。それなのに、楽しくてやめられない――。
そんな、実力以上に熱中してしまう趣味や活動を持っている人は多いものです。
上手・下手という結果よりも、「好き」という気持ちが先行している状態を表すのが、この言葉です。
意味
「下手の横好き」とは、「下手なくせに、その物事が大好きで熱心であること」という意味です。
技術や成果が伴わないにもかかわらず、本人は気にせず熱心に取り組んでいる様子を指します。
基本的には、自分の趣味をへりくだって言う場合や、親しい人の熱中ぶりをからかい半分(あるいは親しみを込めて)表現する場合に使われます。
- 下手(へた):技術が劣っていること。
- 横好き(よこずき):道理に合わない、あるいは分不相応にむやみやたらに好むこと。
語源・由来
「下手の横好き」の由来は、「横」という文字が持つ意味にあります。
本来、「横」という字には「水平」という意味のほかに、「正統ではない」「道理から外れている」「勝手気まま」という意味が含まれています(例:横車、横紙破り、横恋慕)。
そこから転じて、以下のようなニュアンスで使われるようになりました。
- 本業(正道)から外れた、道楽や趣味にうつつを抜かすこと。
- 実力に見合わない、分不相応な物事を好むこと。
つまり、単に「横から好きになる」という意味ではなく、「本来の道ではないことに、みだりに熱中する」という少しネガティブな意味合いが語源となっています。
現在では、「下手だけど好き」という微笑ましいニュアンスで定着しています。
使い方・例文
主に、自分の趣味について謙遜して話すときや、親しい間柄で相手の熱中ぶりを話題にする際に使われます。
例文
- 「下手の横好き」で恥ずかしいのですが、週末は必ずゴルフ場に通っています。
- 父の日曜大工は「下手の横好き」だが、本人は楽しそうに椅子を作っている。
- まさに「下手の横好き」と言うべきか、彼は音痴なのにカラオケに行くとマイクを離さない。
文学作品・メディアでの使用例
『謡曲と画題』(上村松園)
明治から昭和にかけて活躍した日本画家・上村松園が、自身の趣味である「謡曲(ようきょく)」について語った随筆の一節です。自身の腕前を謙遜しつつも、心洗われるような楽しさを語っています。
下手の横好きと言いますか、私は趣味のうちでは謡曲を第一としています。
ずっと以前から金剛巌先生について習っていますが今もって上達しません。
べつだん上手になろうともしないせいか、十年一日のごとく同じ下手さをつづけている次第です。
誤用・注意点
目上の人への使用は厳禁
この言葉には「下手である」という断定が含まれています。
たとえ相手が「いやあ、下手の横好きでね」と謙遜していたとしても、「本当に下手の横好きですね」と同調するのは大変失礼にあたります。
目上の人の趣味に対しては、「熱心でいらっしゃいますね」「多趣味で素晴らしいですね」と言い換えるのがマナーです。
類義語・関連語
「下手の横好き」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 下手の物好き(へたのものずき):
「横好き」とほぼ同じ意味。下手なくせに、むやみにその物事を好むこと。「下手の悪好き(へたのわるすき)」とも言います。 - 道楽(どうらく):
本業以外の趣味に熱中すること。酒や博打など、悪い遊びを指す場合もあるため使い分けが必要。
対義語
「下手の横好き」とは対照的な意味を持つ言葉は、以下の通りです。
- 好きこそものの上手なれ(すきこそもののじょうずなれ):
好きなことは熱心に取り組むため、自然と上達するものだという教訓。
「下手の横好き」とは逆に、好きであることが上達に直結するというポジティブな意味。 - 餅は餅屋(もちはもちや):
素人が手を出さず、専門家に任せるのが一番良いということ。
素人の熱中(横好き)とは対照的な考え方。
英語表現
「下手の横好き」を英語で表現する場合、直訳的な定型句はありませんが、以下のようにニュアンスを伝えることができます。
enthusiastic amateur
- 意味:「熱心な素人」
- 解説:技術はプロに及ばないが、情熱だけは人一倍あるというニュアンスで、「下手の横好き」に近い肯定的な響きを持ちます。
- 例文:
He is an enthusiastic amateur painter.
(彼は下手の横好きの画家だ〔熱心な日曜画家だ〕。)
What one lacks in skill, one makes up for in enthusiasm.
- 意味:「技術に欠ける部分を、熱意で埋め合わせている」
- 解説:ことわざ的なフレーズではありませんが、状況を説明するのによく使われる表現です。
「横」がつく言葉の豆知識
「下手の横好き」の「横」には、「道理から外れる」「強引」といった少し悪い意味があると解説しました。日本語には、この「横」を使ったネガティブな慣用句が意外と多く存在します。
- 横車を押す(よこぐるまをおす):道理に合わないことを無理に押し通すこと。
- 横槍を入れる(よこやりをいれる):第三者が脇から口を出して、話を妨げること。
- 横紙破り(よこがみやぶり):自分勝手に無理を通すこと。(紙を繊維の目に逆らって横に破ることから)
こうして見ると、「下手の横好き」も本来は「物好きで困ったものだ」という呆れのニュアンスが強かったのかもしれません。
まとめ
「下手の横好き」は、結果が伴わなくても、純粋にその行為を楽しむ姿勢を表す言葉です。
「上手にならなければ意味がない」と成果ばかりを求めがちな現代において、この言葉は「ただ好きだからやる」という、趣味の原点を思い出させてくれます。
自分の趣味を謙遜するときや、不器用ながらも何かに打ち込んでいる人を温かく見守るとき、この言葉を使ってみてはいかがでしょうか。





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