「盛年重ねて来たらず」とは? – まずは基本的な意味から
「盛年重ねて来たらず(せいねんかさねてきたらず)」という言葉を聞いたことはありますか? 少し硬い響きかもしれませんが、これは私たちの人生にとって非常に大切な教訓を秘めた、古くから伝わる格言です。
核心となる意味と教訓
この言葉の核心的な意味は、「若い元気な盛りは、二度とやって来るものではない」ということです。
そして、そこから派生する教訓は、「だからこそ、若い貴重な時間を無駄にせず、勉学や仕事、あるいは自分が価値を置くものに励むべきだ」という強いメッセージです。
人生における時間は有限であり、特に活力に満ち溢れた若い時期は、あっという間に過ぎ去ってしまいます。
後になって「あの時もっと頑張っておけばよかった」「時間を無駄にしてしまった」と後悔しないために、今この瞬間を大切に生きることの重要性を、この言葉は教えてくれています。
語句の成り立ち
- 盛年: 若く元気盛んな年頃。青年期。
- 重ねて: 再び。もう一度。
- 来たらず: やってこない。「ず」は打ち消しの助動詞。
つまり、直訳すると「若い盛んな時期は、もう一度やって来ることはない」となります。これは、後述する中国の詩人、陶淵明の詩の一節が元になっています。
由来と背景 – 誰の言葉?いつ生まれた?
この印象的な言葉は、どこから来たのでしょうか。そのルーツは、中国の古い詩にあります。
陶淵明の詩「雑詩」
「盛年重ねて来たらず」は、中国・東晋時代の著名な詩人、陶淵明が詠んだ「雑詩 其の一」という漢詩の一部です。
人生無根蔕 人生根蔕無く(じんせいこんていなく)
飄如陌上塵 飄として陌上の塵の如し(ひょうとしてはくじょうのちりのごとし)
分散逐風轉 分散して風を逐ひて轉ず(ぶんさんしてかぜをおいててんず)
此已非常身 此れ已に常の身に非ず(これすでにつねのみにあらず)
落地爲兄弟 地に落ちては兄弟と爲る(ちにおちてはけいていとなる)
何必骨肉親 何ぞ必ずしも骨肉の親のみならんや(なんぞかならずしもこつにくのしんのみならんや)
得歡當作樂 歡を得ては當に樂しみをを爲すべし(かんをえてはまさにたのしみををなすべし)
斗酒聚比鄰 斗酒もて比鄰を聚む(としゅもてひりんをあつむ)
盛年不重來 盛年は重ねて來たらず(せいねんかさねてきたらず)
一日難再晨 一日に再び晨なり難し(いちじつにふたたびあしたなりがたし)
及時當勉勵 時に及んで當に勉勵すべし(ときにおよんでまさにべんれいすべし)
歳月不待人 歳月は人を待たず(さいげつはひとをまたず)
この詩全体では、人生の儚さ、人との出会いの大切さ、そして時間の貴重さが詠われています。
「盛年重ねて来たらず」に続く「一日に再び晨なり難し」は、「一日のうちに朝が二度来ることはない」という意味で、これもまた時間の経過が一方通行であることを強調しています。
最後の「時に及んで当に勉励すべし、歳月は人を待たず」は、「時を逃さず努力しなさい、年月は人を待ってはくれないのだから」と、詩全体の結論として行動を促しています。
日本への伝来と影響
陶淵明の詩は、早くから日本に伝わり、多くの知識人や文学者に影響を与えました。
「盛年重ねて来たらず」や「歳月は人を待たず」といったフレーズは、漢詩の素養としてだけでなく、人生の指針となる普遍的な教訓として、広く受け入れられてきました。
学校教育などで触れる機会もあり、現代においても多くの人の心に響く言葉として生き続けています。
現代における「盛年重ねて来たらず」の活かし方
この古い格言は、現代を生きる私たちにとっても多くの示唆を与えてくれます。
心構えとしての重要性
情報が溢れ、変化の激しい現代社会では、つい目の前のことに追われ、長期的な視点や自己投資を怠りがちです。
「盛年重ねて来たらず」という言葉は、そんな私たちに「今しかできないこと」「将来のために今やっておくべきこと」に目を向けさせるきっかけとなります。
- 自己成長: 若いうちに知識やスキルを身につけることは、将来の可能性を大きく広げます。
- 挑戦: 失敗を恐れずに新しいことに挑戦できるのは、若さの特権とも言えます。
- 人間関係: 友人や恩師との出会い、様々な経験を通じて人間性を豊かにすることも、若い時期の大切な営みです。
もちろん、「盛年」だけが重要というわけではありません。どの年代にもそれぞれの価値と可能性があります。しかし、特にエネルギーや吸収力、回復力に満ちた若い時期は、人生の基盤を作る上でかけがえのない時間であることは確かです。この言葉を胸に、日々の時間を意識的に使うことが大切です。
具体的な使い方と独自例文
この言葉は、自分自身を励ます時や、若い世代に対してアドバイスを送る際などに使うことができます。
- 「若い頃は体力も時間もある。『盛年重ねて来たらず』と言うし、今のうちに色々なことに挑戦しておくといいよ。」
- 「資格試験の勉強は大変だけど、『盛年重ねて来たらず』。今頑張っておけば、きっと将来役に立つはずだ。」
- 「つい怠惰に過ごしてしまいがちだが、盛年重ねて来たらず。もう少し時間を有効に使わなければ。」
(自分への戒めとして) - 「学生時代は本当に貴重な時間だ。『盛年重ねて来たらず』、後悔しないように勉学にも遊びにも全力で取り組みなさい。」
このように、単に時間を惜しむだけでなく、今を大切にして前向きに行動することを促すニュアンスで使われることが多いです。
似た意味を持つ言葉・反対の意味を持つ言葉
「盛年重ねて来たらず」と似た、あるいは対照的な意味を持つ言葉を知ることで、そのニュアンスをより深く理解できます。
類義語(光陰矢の如し、歳月人を待たず など)とそのニュアンス
- 光陰矢の如し: 時間の経過が非常に速いことのたとえ。「光陰」は月日、時間のこと。
「盛年重ねて来たらず」が若い時期の一度きり性を強調するのに対し、「光陰矢の如し」は時間の速さに焦点を当てています。 - 歳月人を待たず: 年月は人の都合などお構いなしに過ぎ去っていく、だから時間を無駄にしてはいけない、という意味。「盛年重ねて来たらず」の元となった陶淵明の詩の結びにも使われており、時間の非情さと努力の奨励という点で非常に近い意味を持ちます。
- 少年老い易く学成り難し(しょうねんおいやすくがくなりがたし): 若い時代はあっという間に過ぎ去るが、学問を成就するのは容易ではない。だから若いうちから勉学に励むべきだ、という意味。
朱熹(しゅき)の作とされる詩の一節。「盛年重ねて来たらず」とほぼ同じ趣旨で、特に学問に焦点を当てています。
対義語(大器晩成 など)とそのニュアンス
直接的な対義語は少ないですが、人生の時間に対する異なる視点を示す言葉はあります。
- 大器晩成: 大きな器(=偉大な人物)は完成するまでに時間がかかる、という意味。
若いうちに成功しなくても、後になって大成することもある、という考え方を示します。
「盛年重ねて来たらず」が若い時期の重要性を説くのに対し、「大器晩成」は長い時間軸での可能性を示唆します。
ただし、必ずしも若い時期の努力を否定するものではありません。
英語ではどう表現する?
「盛年重ねて来たらず」の精神を英語で表現する場合、いくつかのことわざやフレーズが考えられます。
- Time and tide wait for no man.
(時間と潮の流れは人を待たない)- 「歳月は人を待たず」に非常に近い意味で、時間の非情さと機会を逃さないことの重要性を伝えます。
- Youth does not return. / Youth comes but once in a lifetime.
(若さは戻らない/若さは人生で一度しか訪れない)- 「盛年重ねて来たらず」の直訳に近い表現です。
- Make hay while the sun shines.
(日の照るうちに干し草を作れ)- 好機を逃さず、できるときにやるべきことをやれ、という意味の慣用句です。時間を有効に使うという点で共通します。
- Seize the day.
(その日を掴め)- ラテン語の「Carpe diem(カルペ・ディエム)」の英訳で、今この瞬間を大切に生きよ、という意味です。
これらの表現は、文化的な背景は異なりますが、「盛年重ねて来たらず」が持つ「時間を大切にし、今を生きる」という核心的なメッセージを伝えることができます。
まとめ – 若い時間を大切に生きるために
「盛年重ねて来たらず」は、単に若い時代が二度と来ないという事実を述べるだけでなく、だからこそ今を精一杯生き、努力することの価値を力強く教えてくれる言葉です。
陶淵明が生きた時代から千数百年を経た現代においても、この言葉が色褪せないのは、時間の有限性と、若い時期のかけがえのなさが、人間にとって普遍的なテーマだからでしょう。
もちろん、人生のどのステージにも輝きはあります。
しかし、若い日々のエネルギーと可能性を意識し、目標に向かって努力すること、様々な経験を積むことは、間違いなく未来の自分への大きな投資となります。
「盛年重ねて来たらず」を心に留め、後悔のない、充実した日々を送りたいものです。
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