物事が驚くほどの勢いで進んだり、よどみない弁舌を聞いたりした際、その様子を的確に表現したいと感じることがあります。
「一瀉千里(いっしゃせんり)」は、まさにそのような状況を示す四字熟語です。その意味や正しい使い方、由来、類似表現などを具体的に解説します。
「一瀉千里」の意味・教訓
「一瀉千里」には、大きく分けて二つの意味があります。
- 物事が非常にはやく進み、はかどること。
- 文章や弁舌(話し方)がよどみなく、すらすらと流れること。
どちらの意味も、川の水が非常に速い勢いで一気に流れ下る情景が元になっています。
「千里」は「非常に長い距離」の比喩であり、途中で滞ることのない圧倒的なスピード感やスムーズさが、この言葉の核心です。
「一瀉千里」の語源 – 漢字の成り立ち
「一瀉千里」は、それぞれの漢字が持つ意味を組み合わせることで成り立っています。
- 一(いっ):一度に。一気に。
- 瀉(しゃ):水が勢いよく流れ下る。注ぐ。
- 千(せん):数が多いこと。ここでは非常に長い距離。
- 里(り):距離の単位。
この言葉は、中国・清代の『福恵全書(ふくけいぜんしょ)』という書物にある「険しい谷間を行く小舟が、あっという間に千里もの距離を流れ下る」という趣旨の一節に由来するとされています。
長江(揚子江)のような大河が、広大な平野を一気に流れ下る壮大なイメージが元になっています。
使用される場面と例文
「一瀉千里」は、物事の進捗が非常に速い場面や、弁舌が巧みな様子を賞賛する場面などで使われます。
例文
- 「新しいリーダーが就任して以来、滞っていたプロジェクトが「一瀉千里」の勢いで進み始めた。」
- 「彼はその複雑な事件の概要を、まるで見てきたかのように「一瀉千里」に語ってみせた。」
- 「難解だと思っていた理論も、彼の明快な講義を聞いて「一瀉千里」に理解が進んだ。」
文学作品やメディアでの使用例
近代文学でも、「一瀉千里」の表現は用いられています。
それから後は早かった。早田の頭脳(あたま)は「一瀉千里」に活動し出した。
(中略)
すべてが解決され、すべてが予期され、すべてが整頓されて来た。(出典:有島武郎『或る女』)
ここでは、主人公(早田)の頭脳が非常に活発に働き、物事が一気に解決・整理されていく様子が鮮やかに描かれています。
類義語・言い換え表現
「一瀉千里」と似た状況で使われる言葉を紹介します。
- 破竹の勢い(はちくのいきおい):
竹が割れるように、止めることができないほどの激しい勢い。主に戦闘や競争での進撃に使われる。 - 一気呵成(いっきかせい):
物事を中断せず、一息に仕上げること。スピード感に加え「完成させる」点に焦点が当たる。 - 立て板に水(たていたにみず):
弁舌がよどみなく流暢なこと。「一瀉千里」の第二の意味(弁舌)と非常に近い表現。
対義語
物事が進まない、または滞る様子を表す言葉が対義語となります。
- 遅々として進まず(ちちとしてすすまず):
物事の進み方が非常に遅い様子。 - 一進一退(いっしんいったい):
進んだり後退したりして、なかなか進展しないこと。 - しどろもどろ:
話し方が取り乱れていて、要領を得ない様子。「一瀉千里」の(弁舌)に対する対義語。
英語での類似表現
「一瀉千里」のニュアンスに近い英語表現を紹介します。
make rapid progress
- 意味:「急速に進歩(進展)する」。
- 解説:物事が非常に速く進む様子、まさに「一瀉千里」の第一の意味(物事の進捗)を表すのに適した表現です。
- 例文:
The construction project is making rapid progress.
(その建設プロジェクトは一瀉千里の勢いで進んでいる。)
speak fluently / eloquently
- 意味:「流暢に話す」「雄弁に話す」。
- 解説:「一瀉千里」の第二の意味(弁舌)を表す際に使えます。
- 例文:
She spoke fluently about the complex issue.
(彼女はその複雑な問題について一瀉千里に語った。)
「一瀉千里」に関する豆知識
「一瀉千里」の「瀉」という漢字は、さんずい(水)に「写(うつす)」を組み合わせています。水が(高い所から低い所へ)移る、つまり「勢いよく流れ出る」という意味を持ちます。
この「流れ出る」「排出する」という意味から、漢方などでは体内の不要なものや熱を取り除く薬を「瀉剤(しゃざい)」(いわゆる下剤など)と呼ぶことにもつながっています。
大河の流れも体内の流れも、「一気に流れ出る」という点で共通のイメージを持っているのは興味深い点です。
まとめ – 一瀉千里の勢いをつかむ
「一瀉千里(いっしゃせんり)」は、物事が一気にはかどる様子や、弁舌がよどみない様子を、大河の流れにたとえたダイナミックな四字熟語です。
仕事や勉強が思うように進まない時もありますが、準備やきっかけ一つで、物事が「一瀉千里」に進み出すこともあります。
また、よどみなく話せることは、日々の積み重ねと明確な思考の表れとも言えます。この言葉が持つ勢いの良さを、ぜひ日々の生活や表現の中に取り入れてみたいですね。





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