「あの人は完璧に見えるけれど、たった一つだけ惜しい癖がある…」
「この作品は素晴らしいのに、ごく小さな傷が一つだけ付いている…」
このように、ほとんど完全無欠で立派なものに、ほんのわずかな欠点がある状況に出会ったことはありませんか?
「白璧の微瑕(はくへきのびか)」は、まさにそのような、ほとんど完全なものにある「惜しい点」を指す言葉です。
「白璧の微瑕」の意味・教訓
「白璧の微瑕」とは、「白く美しい宝玉(白璧)に付いた、ごくわずかな(微)きず(瑕)」というのが元の意味です。
これが転じて、「ほとんど完璧に素晴らしい人や物事に、ほんのわずかな欠点があること」のたとえとして使われます。
この言葉の核心は、欠点を非難することではなく、むしろ「それさえなければ完璧なのに、実に惜しい」という、残念がる気持ちや愛惜の念を込めて使われる点にあります。
「白璧の微瑕」の語源
この言葉は、中国の故事成語です。
南北朝時代の昭明太子(しょうめいたいし)が、有名な詩人である陶淵明(とうえんめい)の作品集の序文(『陶淵明集序』)で、次のように評したことに由来します。
「白璧の微瑕なる者は、惟(た)だ二つの閑情の賦(かんじょうのふ)一編に在るのみ」
(陶淵明の作品は、まるで白く完璧な宝玉のようだが、ごくわずかな傷(欠点)があるとすれば、それは『閑情の賦』という一つの詩だけだ)
陶淵明の作品群という「完璧なもの(白璧)」に対し、『閑情の賦』という一つの作品だけが「わずかな欠点(微瑕)」だ、と評したのです。
この故事から、「完璧なものにある、わずかな惜しい点」を指す言葉として定着しました。
「白璧の微瑕」の構成
この四字熟語は、以下の漢字で構成されています。
- 白(はく):白い。
- 璧(へき):中心に穴のあいた、平たい円盤状の宝玉(ほうぎょく)。
- 微(び):ごくわずかな。
- 瑕(か):きず。欠点。
これらを合わせ、「白く美しい宝玉にある、ごくわずかな傷」という意味になります。
使用される場面と例文
「白璧の微瑕」は、人や物事を高く評価し、ほぼ完璧であると認めた上で、その唯一と言える「惜しい点」を指摘する際に使われます。
例文
- 「彼は成績優秀、スポーツ万能、人柄も良いが、字が汚いのが「白璧の微瑕」だ。」
- 「この名画は保存状態も完璧だが、額縁に一筋の小さな傷があるのが「白璧の微瑕」と言える。」
- 「あの偉大な経営者も、晩年に一つの事業で失敗した。まさに「白璧の微瑕」である。」
- 「君の企画書は素晴らしいが、誤字が一つだけあったのが「白璧の微瑕」だね。」
類義語 – 「玉に瑕」との違い
「白璧の微瑕」とほぼ同じ意味で使われる、より一般的な言葉があります。
- 玉に瑕(たまにきず):
(同上)美しい玉にわずかな傷があることから、完璧なものにある、ほんの少しの欠点。
■ニュアンスの違い
意味や使い方は、ほぼ同じです。「白璧の微瑕」のほうが、故事成語としての由来がはっきりしており、より漢語的で格調高い、硬い表現と言えます。
日常会話では「玉に瑕」、改まった文章やスピーチでは「白璧の微瑕」が選ばれる傾向があります。
対義語
「白璧の微瑕」(ほぼ完璧だが少し欠点がある)とは正反対の、「欠点がまったくない」または「欠点だらけである」という言葉が対義語となります。
- 完全無欠(かんぜんむけつ):
欠点や不足がまったくないこと。完璧であるさま。 - 完璧(かんぺき):
(同上) - 百孔千瘡(ひゃっこうせんそう):
(逆の対義語)無数の穴や傷があること。欠点だらけで、ぼろぼろであるさま。 - 瑕に玉(きずにたま):
(逆の対義語)欠点だらけの中に、わずかに良いところがあること。
英語での類似表現
「白璧の微瑕」や「玉に瑕」の「わずかな欠点」というニュアンスに近い英語表現を紹介します。
A fly in the ointment
- 直訳:「塗り薬(ointment)の中の一匹のハエ(fly)」
- 意味:素晴らしいもの(薬)を台無しにしてしまう、たった一つのわずらわしい欠点(ハエ)のこと。「玉に瑕」の英語表現としてよく使われます。
- 例文:
The party was great. The only fly in the ointment was the bad weather.
(パーティーは最高だった。唯一の「白璧の微瑕(残念な点)」は天気が悪かったことだ。)
まとめ – 「白璧の微瑕」から学ぶ知恵
「白璧の微瑕」は、物事や人物を称賛する際の、非常に奥ゆかしい表現です。
この言葉が単なる欠点の指摘と違うのは、「白璧(完璧な宝玉)」であるという大前提に基づいている点です。
相手の素晴らしい点を十分に認めた上で、惜しむ気持ちと共に「わずかな傷」に言及する。この表現には、相手への深い敬意と理解が込められています。
何事も完璧ではないからこそ、その「微瑕」さえもが、その人や物の個性として愛おしく思えるのかもしれませんね。



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