一つ穴を塞げば別の綻びが生じ、修復の手が追いつかない。
気づけばあちこちに傷や欠陥が広がり、もはや原形をとどめないほど崩れ果てた状態。
そのような、見る影もなく傷だらけになってしまった様子を
「百孔千瘡」(ひゃっこうせんそう)と言います。
意味
あちこちに穴が開き、傷だらけになって収拾がつかない状態を指す四字熟語です。
物理的な破損だけでなく、制度、計画、あるいは理論などが欠点だらけで、修復困難なほど損なわれていることを比喩的に表現します。
- 百・千:数が多いことの強調。
- 孔(こう):あな。
- 瘡(そう):きず、できもの。
語源・由来
中国・唐代の文豪である韓愈(かんゆ)が記した書簡『与孟尚書書(孟尚書に与うるの書)』に由来します。
当時、仏教や道教が隆盛を極める一方で、伝統的な儒教の教えが廃れていく現状がありました。
韓愈はこの手紙の中で、儒教の正道が「百孔千瘡(百の穴と千の傷)」のように損なわれてしまったと強い危機感を表現しました。
この一節から、物事や状態がひどく損なわれていることを指す言葉として定着しました。
使い方・例文
単に「古い」「少し壊れている」という程度ではなく、機能や信頼が失われた深刻な欠陥に対して使われます。
- この古い橋はもはや百孔千瘡の状態だ。
- 彼の主張は百孔千瘡で全く筋が通っていない。
- 百孔千瘡の計画書は使い物にならない。
誤用・注意点
「百孔千瘡」は「満身創痍(まんしんそうい)」と混同されやすいですが、使い分けが必要です。
「満身創痍」は人間が負った肉体的・精神的なダメージによく使われますが、「百孔千瘡」は主に物、制度、計画、議論など、形あるものや仕組みが壊れている際に向いています。
「再生不能なほどひどい」という強い否定の響きを持つため、他人の努力の結果に対して安易に使うと失礼にあたるため注意が必要です。
類義語・関連語
「百孔千瘡」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 千瘡百孔(せんそうひゃっこう):
「百孔千瘡」と全く同じ意味。言葉の順序を入れ替えた表現。 - 満身創痍(まんしんそうい):
体中が傷だらけであること。転じて、徹底的に痛めつけられた状態。 - 支離滅裂(しりめつれつ):
まとまりがなくバラバラで、筋道が全く通っていないこと。
対義語
「百孔千瘡」とは対照的な意味を持つ言葉は以下の通りです。
- 完全無欠(かんぜんむけつ):
欠点や不足が全くなく、どこから見ても完璧で整っている状態。 - 十全十美(じゅうぜんじゅうび):
少しの欠点もなく、すべてが完全に整っていること。 - 金城鉄壁(きんじょうてっぺき):
きわめて堅固で、付け入る隙がまったくないこと。
英語表現
「百孔千瘡」を英語で表現する場合、以下のフレーズが適しています。
riddled with holes
意味:穴だらけである、欠陥だらけである
物理的な穴だけでなく、理論や計画が矛盾だらけで使い物にならない時によく使われるイディオムです。
- 例文:
His argument was riddled with holes.
彼の主張は百孔千瘡だった。
full of flaws
意味:欠点だらけの
flaw(ひび、欠陥)がfull(いっぱい)であるという、直接的な表現です。
- 例文:
The initial plan was full of flaws.
当初の計画は百孔千瘡だった。
韓愈が伝えたかったこと
「百孔千瘡」を記した韓愈は、単なる比喩として「穴だらけ」と表現したわけではありません。
彼が向けた言葉の矛先は、形骸化し本来の姿を失っていく儒教への、本気の怒りと危機感でした。
この痛烈な表現には、現状の綻びを直視し、失われた生命力を取り戻そうとする切実な警鐘が込められていたのです。
まとめ
「百孔千瘡」は、収拾がつかないほどあちこちに欠陥が生じ、ボロボロになった状態を表す言葉です。
しかしその本質は、ただの嘆きではありません。
小手先の修復を重ねるよりも、一度立ち止まって根本から見直す。この言葉はそのきっかけを、力強く与えてくれます。



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