「あの平凡な親から、あんなに優秀な子が育つなんて…」
黒い烏(からす)から、白い糞(ふん)が出る。
「烏の白糞(からすのしろくそ)」は、この一見あり得ないような対比から、「平凡な親から優れた子供が生まれること」を指すことわざです。
一般的に「蛙の子は蛙(かえるのこはかえる)」と言われるように、子は親に似るものとされます。
このことわざは、その常識に反して、親とは似ても似つかない立派な才能を持った子が生まれた驚きを表しています。
「烏の白糞」の意味・教訓
「烏の白糞」とは、「平凡な親(黒い烏)から、その親には似つかわしくないほど優れた子供(白い糞)が生まれること」のたとえです。
この言葉の核心は、親と子の才能や性質のギャップ(落差)にあります。
「白糞」という言葉には、現代の私たちが持つ不潔なイメージではなく、黒い烏から出てくる「白いもの」という、意外性や希少性のニュアンスが込められています。
「烏の白糞」の語源
このことわざの明確な故事や由来は特定されていませんが、『世間胸算用(せけんむねさんよう)』といった江戸時代の浮世草子にも登場する古い表現です。
「烏(からす)」はその黒い姿から、しばしば平凡なものや、時には不吉なものの象徴とされます。
一方で、その烏が出すフンは、実際には(尿酸に由来するため)白い部分が目立ちます。
この「黒い親から、白いものが生まれる」という日常の観察から、「平凡な親から、似ても似つかない優れた子が生まれる」という比喩表現として定着したと考えられます。
使用される場面と例文
主に、親の平凡さを知っている周囲の人が、その子供の並外れた才能や優秀さを見て、驚きや感嘆をもって使う場面が典型的です。
例文
- 「あのおとなしいご両親から、あんな弁の立つ子が育つとは。まさに「烏の白糞」だ。」
- 「彼は平凡な家の出だが、一代で大企業を築いた。「烏の白糞」とはこのことだ。」
類義語・言い換え表現
「烏の白糞」と同様に、「平凡な親から優れた子が生まれる」という意味を持つことわざを紹介します。
- 鳶が鷹を生む(とんびがたかをうむ):
平凡な鳥である鳶(とんび)が、優秀な鳥である鷹(たか)を生むこと。最も一般的に使われる類義語です。 - 竹の子の親勝り(たけのこのおやまさり):
竹の子が親である竹よりも高く成長することから、子供が親よりも優れていること。
関連語 – 「ありえないこと」のたとえ
「烏」と「白」の組み合わせは、「ありえないこと」のたとえとしても使われますが、「烏の白糞」とは意味が異なります。
- 烏の頭が白くなる(からすのかしらがしろくなる):
黒いカラスの頭が白くなることはあり得ない、という意味から、「決してあり得ないこと」のたとえ。(故事成語)
※「烏の白糞」は「(意外だが)現実に優れた子が生まれた」という肯定的な結果を指すのに対し、「烏の頭が〜」は「あり得ない」という状況そのものを指します。
対義語
「烏の白糞」(親と子が似ていない)とは正反対の、「子は親に似るものだ」という意味を持つ言葉が対義語となります。
- 蛙の子は蛙(かえるのこはかえる):
子供の才能や性質は、親に似るものだ(特に平凡な点が似る)ということ。 - 瓜の蔓に茄子はならぬ(うりのつるになすびはならぬ):
(同上)原因があるからこそその結果が生じるのであり、平凡な親からは平凡な子しか生まれないということ。
英語での類似表現
「烏の白糞」や「鳶が鷹を生む」に直接対応する英語のことわざは多くありませんが、状況を説明する表現はあります。
A swan from a goose.
- 直訳:「ガチョウから白鳥が(生まれる)」
- 意味:平凡な親(ガチョウ)から、優れた子(白鳥)が生まれることのたとえとして使われることがあります。
He is a cut above his parents.
- 直訳:「彼は両親より一段上だ。」
- 意味:子供が親よりも優れていることを示す、一般的な表現です。
まとめ – 「烏の白糞」から学ぶ知恵
「烏の白糞」は、現代の感覚では少し違和感のある言葉かもしれませんが、「鳶が鷹を生む」と同じく、子の才能が親を超えることへの驚きと喜びを表したことわざです。
生物学的には「蛙の子は蛙」かもしれませんが、人間の可能性は遺伝だけでは決まりません。
環境や本人の努力によって、子は親をはるかに超える「白い輝き」を放つことがある。
この言葉は、そんな人間の可能性の面白さを示しているようですね。



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