ごく普通の家庭から、驚くような才能を持った子供が現れる。あるいは、自分の子供が思いがけず優秀な成績を収めて、「私の子にしては出来すぎだ」と不思議に思う。
そんな「親の想像を超える子の成長」を、空を飛ぶ鳥たちにたとえて
「鳶が鷹を産む」(とびがたかをうむ)といいます。
褒め言葉として使われる一方で、使い方を間違えると相手の親に対して非常に失礼になってしまう言葉でもあります。
この言葉の正しい意味と、人間関係を円滑にするための注意点を解説します。
意味
「鳶が鷹を産む」とは、平凡な親から、優れた才能や容姿を持つ子供が生まれることのたとえです。
ここでの「鳶(トビ)」は、どこにでもいるありふれた親(庶民や凡人)を象徴し、「鷹(タカ)」は、特別に優れた能力を持つ子供(英才)を象徴しています。
血筋や家柄に関係なく、個人の資質によって素晴らしい人物が現れることを表す言葉です。
語源・由来
この言葉は、鳥類の「トビ(鳶)」と「タカ(鷹)」の、かつての日本における評価やイメージの格差に由来します。
両者は生物学的には同じタカ科の鳥であり、姿形も似ていますが、その扱われ方は大きく異なっていました。
「鷹」は古くから鷹狩りに用いられ、武士や貴族に愛される勇猛で高貴な鳥とされてきました。
一方、「鳶」は残飯や動物の死骸をあさることもあり、人間にとって身近すぎる、ありふれた平凡な鳥と見なされていました。
このことから、「平凡なもの(鳶)から、高貴で優れたもの(鷹)が生まれるはずがない」という常識を覆す驚きを表現する比喩として使われるようになりました。
誤用・注意点
この言葉を使用する際、最も注意しなければならないのが「誰に対して使うか」という点です。
他人の家族に使うのは「失礼」
他人の子供が優秀であることを褒めようとして、「まさに鳶が鷹を産むですね」と言うのは、原則としてタブー(失礼)です。
なぜなら、これは「親御さんは平凡(鳶)ですが、お子さんは優秀(鷹)ですね」と言っているのと同じだからです。
親を「鳶」呼ばわりして貶めることになるため、目上の人はもちろん、親しい間柄であっても避けるべきでしょう。
自分の家族に使うのは「謙遜」
逆に、自分の子供が他人から褒められた際に、「いえいえ、鳶が鷹を産むでして、たまたまですよ」と返すのは、正しい使い方(謙遜)です。
自分を「鳶(平凡)」へりくだることで、相手の称賛を和らげて受け止めることができます。
使い方・例文
基本的には、自分の子供についての謙遜、または第三者が噂話として(客観的な事実として)使う言葉です。
例文
- 息子が名門大学に合格したなんて信じられない。鳶が鷹を産むとはこのことだ。
(親が自分の子について語る場合) - あのごく普通の夫婦から、あんな天才ピアニストが生まれるなんて、まさに鳶が鷹を産むだね。
(第三者が噂する場合) - 「お嬢さん、素晴らしい成績ですね」「とんでもない、鳶が鷹を産むで、親の私たちが一番驚いているんですよ」
(謙遜として使う場合)
類義語・関連語
「鳶が鷹を産む」と似た、子が親よりも優れていることを表す言葉です。
- 竹の子の親勝り(たけのこのおやまさり):
筍の成長が早く、すぐに親竹を追い抜いてしまうことから、子が親以上の能力を持つこと。
ポジティブな意味合いが強く、褒め言葉として使いやすい表現です。 - 出藍の誉れ(しゅつらんのほまれ):
弟子が師匠よりも優れること。
親子関係ではありませんが、「教え導く者(親・師)を超える」という点で共通します。 - 氏より育ち(うじよりそだち):
家柄や血筋(氏)よりも、育った環境や本人の努力(育ち)のほうが人間形成には重要だということ。
対義語
「鳶が鷹を産む」とは逆に、「平凡な親からは平凡な子しか生まれない」あるいは「非凡な親からは非凡な子が生まれる」という意味の言葉です。
- 蛙の子は蛙(かえるのこはかえる):
カエルの子はオタマジャクシで形は違っても、やがてカエルになる。
子は親に似るものであり、凡人の子はやはり凡人だという意味。
「鳶が鷹を産む」の正反対の意味として最もよく使われます。 - 瓜の蔓に茄子はならぬ(うりのつるになすびはならぬ):
平凡な親から非凡な子が生まれることはないというたとえ。
血筋や遺伝の強さを説く言葉です。
英語表現
英語にも「平凡な親から優秀な子が生まれる」というニュアンスの表現が存在します。
A black hen lays a white egg.
- 直訳:黒いニワトリが白い卵を産む。
- 意味:「平凡な(あるいは見た目の悪い)親から、立派な子供が生まれる」
- 解説:この場合の「黒」は不吉や平凡さの象徴、「白」は純粋さや優秀さの象徴として対比されています。「鳶が鷹」と非常に近い構造の比喩です。
鳥にまつわる豆知識
ことわざでは「平凡」の代名詞にされてしまった「鳶(トビ)」ですが、実は生物学的な分類では、「鷹(タカ)」と同じ「タカ目タカ科」に属しています。
つまり、鳶も広い意味では鷹の仲間なのです。
実際、トビは非常に視力が良く、上空高くから地上の獲物を見つける能力に長けています。
「鳶が鷹を産む」は、人間が勝手に決めた「ブランドイメージ(鷹は高級、鳶は庶民)」による対比であり、鳥としてのポテンシャルには、実はそれほど大きな差はないのかもしれません。
そう考えると、「親と子は別の人間(個性)である」というこのことわざの奥深さが、より感じられるのではないでしょうか。
まとめ
「鳶が鷹を産む」は、平凡な親から優秀な子供が生まれることのたとえです。
家柄や遺伝だけが全てではなく、子供自身の可能性は無限大であることを教えてくれます。
ただし、この言葉には「親は平凡である」という前提が含まれています。
他人の家庭に対して使うと、「親御さんは大したことないのに」という皮肉に聞こえてしまうため、あくまで「自分たちへの謙遜」として使うのが大人のマナーと言えるでしょう。







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