ふとした瞬間に、子供の話し方や仕草、あるいは頑固な一面を見て、「本当にお父さん(お母さん)にそっくりだ」と感じたことはありませんか。
「親に似ぬ子は鬼の子(おやににぬこはおにのこ)」ということわざは、そうした親子の強い結びつきや血縁の不思議さを、少しドキッとするような言葉で表現しています。
この言葉は、子が親に似ることは当然である、という古くからの考え方を示しています。
「親に似ぬ子は鬼の子」の意味・教訓
「親に似ぬ子は鬼の子」とは、「子供は(容姿や性格、才能など)親に似るものだ」という意味を強調したことわざです。
もし親に似ていない子供がいるならば、それは人間の子ではなく、不思議な力を持つ「鬼」の子だからだ、という極端な言い方をすることで、「子は親に似るのが当たり前」という事実を強く主張しています。
良い面も悪い面も含めて、子供は親から多くのものを受け継ぐという、血縁のつながりの強さを示す言葉です。
「親に似ぬ子は鬼の子」の語源
このことわざの正確な語源は定かではありませんが、古くから人々の間で言われてきた経験則に基づく俚言(りげん:世間で言い習わされてきた言葉)だと考えられています。
昔の人々にとって、子が親に似ることは自明の理でした。科学的な知識がない時代、もし親と似ていない子が生まれれば、それは人間の理解を超える「鬼」のような超自然的な存在の仕業だと考えられることもありました。
このように「鬼の子」という強い言葉を使うことで、「親に似ない子はいない」という経験的な真実を、逆説的に強調したのです。
使用される場面と例文
現代では、子供の容姿や性格、才能、時には癖や欠点までもが親とそっくりであることを、感心したり、冗談めかして指摘したりする場面で使われます。
例文
- 「あの子の負けず嫌いなところ、本当にお父さんそっくり。まさに「親に似ぬ子は鬼の子」だね。」
- 「息子が自分と同じで朝寝坊なのを見て、「親に似ぬ子は鬼の子」とはよく言ったものだと苦笑いした。」
- 「彼女の歌声は、歌手だったお母さん譲りだ。「親に似ぬ子は鬼の子」ですね。」
- 「あんなに優しいご両親なのに、あの子は少し意地悪だ。「親に似ぬ子は鬼の子」というが…。(※少し皮肉や疑問を込めた用法)」
類義語・言い換え表現
「親に似ぬ子は鬼の子」と似た意味を持つ、「子は親に似る」ということを示すことわざです。
- 蛙の子は蛙(かえるのこはかえる):
平凡な親から生まれた子はやはり平凡である、という意。血筋は争えないという点で共通しますが、やや否定的なニュアンスで使われることも多いです。 - 瓜の蔓に茄子はならぬ(うりのつるになすびはならぬ):
血筋はごまかせない、平凡な親からは平凡な子しか生まれないというたとえ。「蛙の子は蛙」とほぼ同義です。 - この親にしてこの子あり(このおやにしてこのこあり):
(良くも悪くも)このような素晴らしい(または、ひどい)親だから、このような素晴らしい(または、ひどい)子供が生まれるのだ、と感心・納得する言葉。
対義語
「子は親に似る」とは反対に、「平凡な親から優れた子が生まれる」または「子が親を超える」という意味の言葉です。
- 鳶が鷹を生む(とんびがたかをうむ):
平凡な親から、非常に優れた才能を持つ子供が生まれることのたとえ。 - 竹の子の親勝り(たけのこのおやまさり):
子が親よりも才能や能力、地位などが優れていることのたとえ。 - 出藍の誉れ(しゅつらんのほまれ):
弟子が師匠よりも優れること。転じて、子が親よりも優れる場合にも使われます。
英語での類似表現
「子は親に似る」という考え方は万国共通で、多くの類似表現が存在します。
The apple doesn’t fall far from the tree.
- 直訳:リンゴは木から遠くには落ちない。
- 意味:「子は親(の性格や能力)に似るものだ」。最も一般的に使われる表現の一つです。
- 例文:
Her daughter is a great musician, just like her. The apple doesn’t fall far from the tree.
(彼女の娘は、彼女そっくりの素晴らしい音楽家だ。まさに子は親に似る、だね。)
Like father, like son. / Like mother, like daughter.
- 意味:「この父にしてこの子あり」「この母にしてこの娘あり」。
- 親子のそっくりな様子を端的に表す表現です。
- 例文:
The boy loves fishing, just like his dad. Like father, like son.
(その少年は父親そっくりで釣りが大好きだ。この父にしてこの子あり、だ。)
A chip off the old block.
- 直訳:古い(親の)カタマリから削り出されたカケラ。
- 意味:(特に息子が父親に)容姿や性格がそっくりであること。
- 例文:
He argues exactly like his father. He’s a chip off the old block.
(彼の議論の仕方は父親そっくりだ。まさしく瓜二つだ。)
「親に似ぬ子は鬼の子」に関する豆知識
ことわざでは「親に似ぬ子」はいないと強調されますが、現実には「お父さんにもお母さんにも似ていないな」と感じる子もいます。
これは、親のどちらかではなく、祖父母や、さらに昔の先祖の持っていた特徴が、世代を飛んで現れる「隔世遺伝(かくせいいでん)」という現象によるものかもしれません。
「親に似ぬ子は鬼の子」ということわざは、科学的な厳密さよりも、「それほどまでに血のつながりは強く、子は親に似るものだ」という、昔の人々の実感や経験則を大げさに表現したものと言えるでしょう。
使用上の注意点
「親に似ぬ子は鬼の子」は、「鬼」という非常に強い言葉を含むため、現代では使い方に注意が必要です。
- 差別的なニュアンス:
文字通り「親に似ていない=普通ではない」と捉えられると、非常に差別的な響きを持ちます。
特に、養子縁組の家庭や複雑な家族構成の方々の前で使うことは、相手を深く傷つける可能性があるため、絶対に避けるべきです。 - 否定的・侮辱的な使用:
親の悪い癖や欠点が子に似ている場合に使うと、親子双方を侮辱する意図に取られかねません。
気心の知れた身内や友人間で、明らかな類似点を冗談めかして言う程度に留め、公の場やデリケートな文脈での使用は控えるのが賢明です。
まとめ – 親子の絆を再確認する言葉
「親に似ぬ子は鬼の子」は、「鬼」という刺激的な言葉を用いて、「子は親に似るものだ」という真実を強く印象付けることわざです。
現代の感覚では少し古い表現かもしれませんが、自分では意識していなかった癖や考え方が親とそっくりだと気づいた時、この言葉が持つ「血のつながりの不思議さ」を実感するかもしれません。
時代が変わっても、親から子へと受け継がれていくものの大きさを感じさせてくれる言葉ですね。



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