「酒は百薬の長(さけはひゃくやくのちょう)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。お酒の席や健康の話題などで、しばしば耳にする有名なことわざです。
この言葉は、適度なお酒はどんな薬にもまさるほど健康に良い、という意味を持っています。
しかし、本当にそうなのでしょうか。この言葉の正しい意味や背景、そして現代における使い方について解説します。
「酒は百薬の長」の意味・教訓
「酒は百薬の長」とは、「適量のお酒は、多くの薬にも勝るほど健康に良いものである」という意味のことわざです。
「百薬」は多くの薬、たくさんの薬を意味し、「長」はその中で最も優れたもの、第一のもの(トップ)を指します。
この言葉は、お酒が持つ良い側面を強調しています。適度な飲酒は血行を良くしたり、ストレスを和らげたり、食欲を増進させたりする効果が期待できることから、健康維持に役立つとされてきました。
ただし、これはあくまで「適量であれば」という前提条件が暗黙のうちに含まれている点に注意が必要です。
「酒は百薬の長」の語源
この言葉の由来は、古代中国の歴史書『漢書(かんじょ)』の「食貨志(しょっかし)」に遡ります。
そこには「夫れ塩は食肴の将、酒は百薬の長、嘉会の友」(塩は食物の中で最も重要であり、酒は多くの薬の中で最も優れ、楽しい集まりの友である)という一節があります。
これは、新(しん)王朝を建てた為政者・王莽(おうもう)が、財源確保のために塩や酒などを国の専売制にする際、その価値を民衆にアピールし、政策を正当化するために用いた言葉とされています。
そのため、民衆の間から自然発生したことわざというよりは、政策的な意図を持って作られた、現代の「キャッチコピー」に近い側面があったとする説が有力です。
「酒は百薬の長」の使い方と例文
「酒は百薬の長」は、お酒の良い面を肯定的に表現したい時や、適度な飲酒を勧めたい時、あるいは自分がお酒を飲むことを正当化する(言い訳する)ような場面で使われます。
日常会話や宴席などで、「お酒も適量なら体に良い」というニュアンスで用いられることが多いです。
例文
- 「父は毎晩の晩酌を欠かさないが、『「酒は百薬の長」だから』と言って楽しそうだ。」
- 「あまり飲みすぎるのは良くないが、昔から「酒は百薬の長」とも言う。少しだけ付き合うよ。」
- 「医者から「酒は百薬の長」とも言いますが、ほどほどにしてくださいと釘を刺された。」
類義語・関連語
「酒は百薬の長」と似た意味を持つ言葉や、お酒に関連する表現を紹介します。
- 酒は憂いの玉箒(さけはうれいのたまははき):
お酒は、心の憂いや悩みをきれいに払い去ってくれる、ほうきのようなものであるというたとえ。 - 酒は天の美禄(さけはてんのびろく):
お酒は天から賜った素晴らしい恵み(給料・贈り物)であるという意味。 - 百薬の長(ひゃくやくのちょう):
「酒は」を省略した形。「酒は百薬の長」の短縮形として使われる。
対義語
「酒は百薬の長」とは反対に、お酒の害や危険性を示すことわざです。
- 酒は百毒の長(さけはひゃくどくのちょう):
「百薬の長」をもじった言葉。お酒は適量なら薬になるかもしれないが、飲み過ぎればどんな毒よりも体に害を与える、一番の毒物になるという戒め。 - 酒は諸悪の根源(さけはしょあくのこんげん):
お酒は、さまざまな悪事や失敗を引き起こす根本的な原因であるという意味。 - 酒は気違い水(さけはきちがいみず):
お酒は、飲むと正気を失わせ、常軌を逸した言動をとらせる恐ろしい飲み物であるというたとえ。
英語での類似表現
「酒は百薬の長」のニュアンスに近い英語表現を紹介します。
Good wine makes good blood.
- 意味:「良いワインは良い血を作る」
- 解説:文字通り、適度な(良い)ワインは健康に良い、血行を良くするといった意味で使われる英語のことわざです。
- 例文:
My grandfather enjoys a glass of red wine every night, saying, “Good wine makes good blood.”
(私の祖父は「良いワインは良い血を作る」と言いながら、毎晩赤ワインを一杯楽しんでいる)
A little wine is a good medicine.
- 意味:「少量のワインは良い薬である」
- 解説:「酒は百薬の長」の「適量ならば」というニュアンスを「A little (少量の)」で表現した、より直接的な表現です。
- 例文:
*Don’t worry about having one drink. *A little wine is a good medicine.
(一杯飲むくらい心配いらないよ。少量のワインは良い薬だ)
まとめ – 「酒は百薬の長」から学ぶ知恵
「酒は百薬の長」は、適度なお酒が心身の健康に良い影響を与えることを示すことわざです。古くから、お酒が人々のストレスを和らげ、コミュニケーションを円滑にする役割を果たしてきたことを表しています。
しかし、この言葉には「適量であれば」という大切な前提が隠されています。対義語である「酒は百毒の長」が示すように、一線を越えれば薬どころか最も恐ろしい毒にもなり得ます。
お酒の良い面を享受しつつも、その危険性を忘れずに、節度を持って楽しむことが現代を生きる私たちにとっての知恵と言えるでしょう。




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