意味
「秋の扇(あきのおうぎ)」とは、秋になって使われなくなった扇のことで、転じて男性の愛を失って見捨てられた女性のたとえです。
夏場には手放せなかった扇が、秋の涼風とともに不要になる様子を、かつて寵愛された人が冷遇される境遇に重ねています。
単なる不用品という事実だけでなく、寵愛が失われた後の、わびしさややりきれない寂しさといった響きを含みます。
- 秋(あき):物事の盛りや役割が終わる時期。
- 扇(おうぎ):風を起こして涼を取るための道具。
語源・由来
中国・前漢の宮廷にいた班婕妤が残した詩『怨歌行』に由来します。
成帝という皇帝に大切にされていた班婕妤ですが、別の女性が勢いを持つようになると、次第に皇帝は彼女に会いに来なくなりました。
彼女はその悲しみを、夏が終わって不要になった扇に重ねて次のように詠みました。
新裂齊紈素、鮮潔如霜雪。
裁為合歡扇、團團似明月。
出入君懷袖、動搖微風發。
常恐秋節至、涼風奪炎熱。
棄捐篋笥中、恩情中道絶。
(斉の国の白い練り絹を新しく裁つと、霜や雪のように白く清らかでした。それで合歓の扇を作ると、満月のようにまるい形になりました。扇は主君の懐や袖を出入りし、揺らせばそよ風が起こります。いつも恐れているのは、秋が来て、涼しい風が暑さを奪ってしまうことです。そうなれば扇は箱の中に捨て置かれ、主君の情けも途中で絶えてしまいます。)
自分の境遇を道具の扱いに例えたこの詩から、「秋の扇」は寵愛を失って見捨てられた女性のたとえとなりました。
使い方・例文
- 新しい妃が迎えられると、かつて寵愛を受けた女性は秋の扇となり、顧みられなくなった。
- 夏の間は手放せなかった扇も、涼しくなれば秋の扇として箱にしまわれる。
- 愛を失った彼女は、自らを秋の扇に例えて悲しんだ。
類義語・関連語
「秋の扇」に近い言葉には、次のものがあります。
- 夏炉冬扇(かろとうせん):
時期外れで全く役に立たない物事のたとえ。夏の暖炉と冬の扇を意味する。
「秋の扇」と「夏炉冬扇」の違い
どちらも季節外れの扇に関わる言葉ですが、「夏炉冬扇」が時期外れで役に立たない物事一般のたとえであるのに対し、「秋の扇」は寵愛を失って見捨てられた女性のたとえです。
対義語
「秋の扇」の対義語には、次の言葉があります。
- 掌中の珠(しょうちゅうのたま):
非常に大切にされているもののたとえ。
英語表現
fallen from favor
寵愛や支持を失った状態を表す表現。
After the emperor took a new consort, the empress found that she had fallen from favor.
(皇帝が新しい妃を迎えると、皇后は秋の扇となり、寵愛を失った。)
「秋の扇」のもとの詩に詠まれたのは丸い絹の扇
班婕妤の詩は、白い絹を裁って扇を作り、その形を「團團として明月に似たり」(まるく満月のようだ)とたとえています。
「扇」の字はもとの詩にも使われていますが、その扇は折りたたみ式ではなく、丸いうちわでした。
折りたたみ式の扇は日本で生まれたとされ、平安時代から広く使われました。
日本では「秋の扇」は秋の季語にもなっており、「捨て扇」「忘れ扇」とも呼ばれます。












コメント