夏が過ぎ、涼しい風が吹き始めると、あれほど活躍していた扇(おうぎ)は使われなくなり、仕舞い込まれてしまいます。
「秋の扇(あきのおうぎ)」とは、まさにその情景から生まれた言葉です。この言葉が持つ意味や背景、そして現代での使われ方について解説します。
「秋の扇」の意味・教訓
「秋の扇」とは、時節が過ぎて不用になったもののたとえです。
特に、かつては大切にされ、寵愛(ちょうあい)を受けていた人が、相手の心変わりなどによって見向きもされなくなること、見捨てられてしまうことを指す場合が多くあります。
主に、愛情が冷めてしまった男女関係、特に寵愛を失った女性の寂しい境遇を表す比喩として用いられてきました。
「秋の扇」の語源
この言葉は、中国・前漢の時代に、成帝(せいてい)の寵愛を失った班婕妤(はんしょうよ)という女性が詠んだ『怨歌行(えんかこう)』という詩に由来するとされています。
彼女は、秋になって使われなくなった扇に、寵愛を失った自らの身の上をなぞらえました。
この詩が日本に伝わり、「秋(あき)」と「飽き(あき)」をかける形で、使われなくなったものや飽きられてしまった人を指す言葉として定着しました。
「秋の扇」の使い方と例文
現代では、恋愛関係に限らず、流行が過ぎて忘れられたものや、かつては重宝されたのに時代遅れになった技術、組織内で評価されなくなった人など、広い意味で「価値を失い、顧みられなくなったもの」の比喩として使われます。
例文
- 「あれほど一世を風靡(ふうび)した彼も、今や秋の扇だ。」
- 「新しい技術の登場により、旧来のシステムは秋の扇となってしまった。」
- 「社長交代後、あれほど信頼されていた部長が秋の扇のように扱われている。」
類義語・関連語
- 夏炉冬扇(かろとうせん):
夏の火鉢と冬の扇。時節外れで役に立たないもののたとえ。「秋の扇」と非常によく似た意味を持つ故事成語。 - 糟糠の妻(そうこうのつま):
貧しい時から苦労を共にしてきた妻。見捨てられやすい存在として、「秋の扇」と似た文脈で使われることがある。 - 用済み(ようずみ):
役に立たなくなり、不要になること。 - お払い箱(おはらいばこ):
不要なものとして捨てられたり、解雇されたりすること。より口語的な表現。
対義語
- 掌中の珠(しょうちゅうのたま):
手の中の大切な珠。最も大切にしているもの、特に愛する妻や子のたとえ。 - 寵愛一身にあり(ちょうあいいっしんにあり):
多くの人からの愛情や、特定の人からの格別な愛を一身に集めていること。 - 時の人(ときのひと):
その時、世間の注目の的となっている人。 - 引く手あまた:
多くの人から誘いや引き合いがあること。
英語での類似表現
a cast-off lover
- 意味:「見捨てられた恋人」
- 解説:「cast off」は「(不要なものを)捨てる、見捨てる」という意味の句動詞です。「秋の扇」が指す、寵愛を失った人の状況に近い表現です。
- 例文:
She felt like a cast-off lover after he suddenly stopped calling.
(彼からの電話が突然途絶え、彼女は自分が「秋の扇」のように感じた。)
fallen from favor
- 意味:「寵愛を失った、人気が落ちた」
- 解説:「favor」は「好意、寵愛」を意味し、「fallen from(~から落ちた)」と組み合わせることで、権力者や大衆からの人気・支持を失った状態を表します。
- 例文:
The once-popular politician has now fallen from favor with the public.
(かつて人気だったその政治家は、今や大衆の支持を失っている。)
「秋の扇」に関する豆知識
「秋の扇」は、「秋の団扇(あきのうちわ)」とも言われます。
扇(扇子)は折りたためるもの、団扇はたためない円形や四角形のものを指すのが一般的ですが、この言葉の由来となった班婕妤の詩で詠まれたのは、絹張りの丸い団扇(円扇)だったとされています。そのため、どちらの表現も使われます。
使用上の注意点
「秋の扇」は、もともと寵愛を失った女性の悲しみを表す言葉であるため、人(特に女性)に対して直接的に使うと、非常に失礼にあたる可能性があります。
「彼は秋の扇だ」といった使われ方はしますが、相手の境遇を揶揄(やゆ)したり、見下したりするニュアンスを含むことがあるため、文脈や相手を選ぶ、注意が必要な表現です。
まとめ – 「秋の扇」から学ぶ知恵
「秋の扇」は、夏の盛りにはあれほど必要とされた扇が、秋の訪れと共に忘れ去られる姿に、人の世の無常や、関心・愛情の移ろいやすさを重ねた言葉です。
流行や他人の評価は、季節が移ろうように変化しやすいものです。この言葉は、そうした変化の儚さ(はかなさ)と、時に残酷さを伴う現実を私たちに伝えています。





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