意味
「馬鹿に付ける薬はない(ばかにつけるくすりはない)」とは、どれほど優れた手段を用いても愚かさを治すことはできないという意味です。
病気や怪我を治すための「塗る薬(軟膏など)」を解決策の比喩とし、手元にはもう対処する手段が残されていないという諦めの状況にたとえています。
語源・由来
1690年(元禄3年)に出版された江戸時代の咄本『枝珊瑚珠』の中に、「馬鹿にはつける薬がないといへば」という記述が見られます。
病気や怪我には薬があっても、愚かさにはつける薬がない、という言い回しです。
使い方・例文
「馬鹿につける薬はない」は、他人の愚行に対する強い呆れや、自分自身の失敗に対する自虐を表す場面で使われます。
- 何度注意しても同じ失敗を繰り返す同僚に、馬鹿につける薬はないと諦めの境地。
- また詐欺に引っかかったと聞いて、馬鹿につける薬はないと深いため息。
- 大一番の試験前夜に徹夜でゲームとは、我ながら馬鹿につける薬はないの一言。
小説での使用例
森鴎外の短編小説『鶏』に、この言い回しが出てきます。
下働きの婆あさんは、馬の世話をする別当が卵をごまかしていると主人の石田にほのめかしますが、石田は少しも取り合いません。
じれったくなった婆あさんが、石田のことをあきらめる場面です。
婆あさんはじれったくてたまらない。今度は別当に知れても好いから怒って貰いたいような気がする。そしてとうとう馬鹿に附ける薬はないとあきらめた。
(森鴎外『鶏』)
使用の注意点
「馬鹿」という直接的な罵倒語を含んでいるため、他者に向かって直接使用することは強い侮辱となります。
さらに「つける薬がない」という改善の見込みを絶つ言葉が続くことで、相手の人間性や将来性を完全に否定する意味合いを持ちます。
目上の人や公的な場での使用が厳禁であることはもちろん、部下や子供への指導の場で用いると、相手の自尊心を深く傷つけ、人間関係を決定的に壊すおそれがあるため注意が必要です。
類義語・関連語
「馬鹿につける薬はない」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 馬鹿は死ななきゃ治らない(ばかはしななきゃなおらない):
愚かな性質は一生涯変わることはなく、死んで生まれ変わらない限り直らないというたとえ。 - 阿呆につける薬はない(あほにつけるくすりはない):
関西地方を中心に使用される、対象を阿呆に置き換えた同義語。 - 朽木は雕るべからず(きゅうぼくはほるべからず):
腐った木に彫刻ができないように、根性が腐っている者は教育しても無駄であるという教え。 - 匙を投げる(さじをなげる):
医者が治療を諦めることから転じ、物事の解決や救済の見込みがなくなり断念する行為。
英語表現
You can’t fix stupid
意味:愚かさは修正や矯正ができないという、改善の見込みへの諦め。
He invested all his savings in an obvious scam. You can’t fix stupid.
(明らかな詐欺に全財産を注ぎ込んだ。馬鹿につける薬はない。)
Once a fool, always a fool
意味:一度愚か者であった者は、生涯いつまでも愚か者であるという性質の固定化。
生まれつきの性質は変わらないとする点で「三つ子の魂百まで」に通じる表現。
He never learns from his failures; once a fool, always a fool.
(失敗から学ばない彼には、馬鹿につける薬はない。)
明治の笑いの本は「馬鹿につける薬」の作り方を載せた
明治13年(1880年)に出た『滑稽節用集』は、昔の国語辞書「節用集」の形をまねて、俗な言葉やしゃれを並べた笑いの本です。
その中に「馬鹿につける薬方」(馬鹿につける薬の作り方)という項目があります。
材料は「文字」「算術」「説教」「勉強」の四つで、これを細かい粉にして毎日飲ませれば、たいていの馬鹿は利口になる、と書かれています。
どの材料も時間をかけて身につけるものばかりで、飲めばすぐ効く薬などないという落ちです。
「馬鹿に付ける薬はない」を裏返して、薬の形で見せた冗談です。










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