来る者は拒まず、去る者は追わず

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ことわざ
来る者は拒まず、去る者は追わず
(くるものはこばまず、さるものはおわず)
短縮形:来る者は拒まず/去る者は追わず
異形:去る者は追わず、来る者は拒まず

18文字の言葉く・ぐ」から始まる言葉

「人付き合いで疲れてしまった」「誰かが離れていくのが怖い」。対人関係の悩みは尽きないものです。そんなとき、ふと耳にするのがこの言葉ではないでしょうか。

一見すると、少し冷たく、ドライな印象を受けるかもしれません。
しかし、この言葉の真意は「無関心」ではなく、相手の意思を尊重する究極の優しさと、自分自身の心を平穏に保つための知恵にあります。

来る者は拒まず、去る者は追わず
この言葉が持つ本来の意味や、意外な「教育論」としてのルーツ、そして現代の人間関係における活かし方について解説します。

「来る者は拒まず、去る者は追わず」の意味・教訓

「来る者は拒まず、去る者は追わず(くるものはこばまず、さるものはおわず)」とは、自分を慕って寄ってくる人は誰でも受け入れ、逆に自分の元を離れていこうとする人は無理に引き留めない、という執着しない心構えを表す言葉です。

この言葉の核心は、相手の自由意志の尊重にあります。

  • 来る者は拒まず:分け隔てなく、広く門戸を開いて受け入れる(寛容さ)。
  • 去る者は追わず:相手の決断を尊重し、未練がましく引き留めたり支配したりしない(潔さ)。

人間関係において、相手を自分の思い通りにコントロールしようとすると苦しみが生まれます。
この言葉は、自然な縁の流れに身を任せることで、互いに無理のない健全な関係を築くための教訓として使われます。

「来る者は拒まず、去る者は追わず」の語源・由来

この言葉の由来は、古代中国の思想家・孟子(もうし)の言行録である『孟子』尽心・下(じんしん・げ)にあります。

実はこの言葉、元々は恋愛や友情の話ではなく、「教育・学び」に対する姿勢を説いたものでした。

当時の孟子のもとには、多くの弟子が教えを請いにやってきました。
孟子は、「学ぶ意欲があって来る者はどんな身分の人でも受け入れるが、去っていく者は無理に引き留めない」というスタンスを貫いていました。

原文では「去る者は追わず、来る者は拒まず」(往く者は追わず、来たる者は拒まず)という順序で記されています。
「学びたいという純粋な志」だけを基準にし、形式や過去にとらわれない孟子の教育者としての公平な態度が、この言葉の起源です。

「来る者は拒まず、去る者は追わず」の使い方・例文

現代では教育の場に限らず、恋愛、友人関係、ビジネスなど、あらゆる人間関係のスタンスとして使われます。

例文

  • 「彼は誰に対してもフラットで、まさに『来る者は拒まず、去る者は追わず』といった性格だ。」
  • 「退職する社員を無理に引き留めるのはお互いのためにならない。『来る者は拒まず、去る者は追わず』の精神で送り出そう。」
  • 「かつては友人が離れていくことに悩んだが、今は『来る者は拒まず、去る者は追わず』と考えるようになって心が軽くなった。」

文学作品での使用例

去る者は追わず、来る者は拒まず。
(太宰治『右大臣実朝』)

太宰治の小説『右大臣実朝』の中で、主人公の実朝(さねとも)の心情を表す言葉として登場します。
孤独や虚無感を抱えながらも、運命を淡々と受け入れる実朝の姿勢が、この言葉を通して描かれています。

「来る者は拒まず、去る者は追わず」の誤用・注意点

「冷たい人」と思われるリスク

この言葉は「自分からは積極的に関わらない」「どうでもいい」という消極的・冷淡な態度と誤解されやすい側面があります。

特に、恋愛や親しい関係において、相手が「引き留めてほしい」「話し合いたい」と思っている場面でこの言葉を使うと、「私には価値がないのか」と相手を傷つける可能性があります。

あくまで「相手の意思を尊重する」という意味であり、「自分からは一切努力しない」「愛情がない」という意味ではないことを理解しておく必要があります。

「来る者は拒まず、去る者は追わず」の類義語・関連語

  • 門戸開放(もんこかいほう):
    制限を設けず、誰でも自由に出入りさせること。主に「来る者は拒まず」の側面に近い言葉。
  • 会うは別れの始め(あうはわかれのはじめ):
    出会った人とは必ず別れる時が来る。無常観を表す言葉。「去る者は追わず」の前提となる考え方。

「来る者は拒まず、去る者は追わず」の対義語

「積極的に相手を求める」「去る人を引き留める」という意味の言葉が対義語となります。

  • 三顧の礼(さんこのれい):
    目上の人が、ある人物に仕事についてもらうために、何度も足を運んで礼を尽くしてお願いすること。「来るのを待つ」のではなく、自ら熱心に迎えに行く姿勢。
  • 執着(しゅうちゃく):
    一つのことに心がとらわれて離れないこと。ことわざではありませんが、「去る者は追わず」の正反対の心理状態。

「来る者は拒まず、去る者は追わず」の英語表現

Open door policy

  • 意味:「門戸開放政策」
  • 解説:ビジネスや政治でよく使われますが、「誰でも受け入れる」というニュアンスで使えます。

Those who come are welcome, those who leave are not pursued.

  • 意味:「来る人は歓迎し、去る人は追わない」
  • 解説:日本語のことわざをそのまま英訳した説明的な表現です。

If you love someone, set them free.

  • 意味:「誰かを愛しているなら、その人を自由に解き放て」
  • 解説:スティングの楽曲でも有名なフレーズ。「去る者は追わず」の精神を、愛の観点から説いた英語圏のポピュラーな格言です。「戻ってくればあなたのもの、戻らなければ最初からあなたのものではなかった」と続きます。

「来る者は拒まず、去る者は追わず」に関する豆知識

順番が逆になることもある?

日本では「来る者は〜」から始まるのが一般的ですが、由来である『孟子』では「往く者は追わず、来たる者は拒まず」と、「去る」ほうが先に記述されています。

これは、孟子が「去っていく弟子」に対して特に寛容であった(去る自由を重んじた)ことの表れとも、あるいは「去る者を追わないからこそ、新しく来る者を純粋に受け入れられる」という心の整理の順序を表しているとも解釈できます。

まとめ – 心の風通しを良くする知恵

「来る者は拒まず、去る者は追わず」。この言葉は、人間関係における精神的な自立を促す言葉です。

誰かに依存したり、相手を所有物のように扱ったりするのではなく、一人の人間として尊重する。そうすることで、自分自身の心も執着から解放され、軽やかになります。

寂しさを我慢する言葉ではなく、「良き縁は、自然体のときにこそ結ばれる」と信じるための、前向きなスローガンと言えるでしょう。

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