風邪を引けば薬を飲み、骨を折ればギプスをする。体の不調であれば、現代の医療や自身の治癒力で治せることがほとんどです。
しかし、「短気な性格」や「浪費癖」、「だらしない生活習慣」となるとどうでしょうか。
何度「直そう」と決意しても、気がつけば元の木阿弥……という経験は誰にでもあるものです。
病は治るが癖は治らぬとは、身体の病気は治療できても、その人の身に染み付いた悪癖や性格上の欠点は、容易には直らないという、人間の本質を突いた言葉です。
「病は治るが癖は治らぬ」の意味・教訓
医師や薬の力で治せる病気よりも、その人の性質として定着してしまった癖のほうが、矯正するのははるかに難しいという教訓です。
- 習慣の頑固さ:
長年繰り返して身についた習慣や、持って生まれた性格は、本人の「直したい」という意志だけではなかなか変えられないこと。 - 人を変えることの困難:
他人の悪い点を指摘して直させようとしても、徒労に終わることが多いという諦めのニュアンス。
ここでの「癖」とは、単なる「貧乏ゆすり」のような動作の癖だけでなく、偏屈、短気、怠惰、酒癖、浪費といった、その人の生き方や人格に関わる根深い欠点を指すことが多いです。
「病は治るが癖は治らぬ」の語源・由来
この言葉に特定の出典(歴史的な書物や物語)はありません。古くからの日本の生活の中で生まれたことわざ(民衆の知恵)です。
昔の人々にとって、病気は命に関わる重大事でしたが、養生すれば回復する希望がありました。
しかし、人の「性根(しょうね)」や「悪癖」は、どれだけ周囲が説教をしても、本人が痛い目を見ても、喉元過ぎれば熱さを忘れて繰り返してしまうものです。
年齢を重ねるごとに頑固になっていく人間の性質を見て、「心のねじれを治すのは、体の病を治すよりも難しい」と嘆いた実感から定着した言葉です。
「病は治るが癖は治らぬ」の使い方・例文
基本的には、「人の性格や悪癖は簡単には変わらない」という事実を指摘する場面で使われます。
自分自身の悪癖を反省して「次こそは」と自戒するために使うこともありますが、多くの場合は、他人の変わらない態度に対して「あの人はもう変わらないだろう」と諦める際や、悪癖を持つ人に対する批判として使われます。
例文
- 「彼はまたギャンブルに手を出したらしい。あれほど懲りたはずなのに、病は治るが癖は治らぬとはこのことだ。」
- 「口を開けば人の悪口ばかり。注意しても無駄だよ、病は治るが癖は治らぬと言うからね。」
- 「病は治るが癖は治らぬと言うけれど、この短気な性格だけはなんとかして直したいものだ。」
「病は治るが癖は治らぬ」の類義語
「変わらない性質」や「習慣の強さ」を表す言葉は数多く存在します。
それだけ、昔の人にとっても「人を変えること」は永遠の課題だったことが分かります。
- 三つ子の魂百まで(みつごのたましいひゃくまで):
幼い頃(3歳頃)に形成された性格や性質は、100歳になっても変わらないということ。 - 雀百まで踊り忘れず(すずめひゃくまでおどりわすれず):
雀が飛び跳ねるように歩く癖は死ぬまで直らないことから、若くして身についた習慣は一生抜けないというたとえ。 - 噛む馬は終いまで噛む(かむうまはしまいまでかむ):
人に噛みつく癖のある馬は、死ぬときまでその癖が直らない。悪癖は容易に直らないことのたとえ。
「病は治るが癖は治らぬ」の対義語
「人は変われる」「習慣は変えられる」というニュアンスを持つ言葉が対義語となります。
- 男子三日会わざれば刮目して見よ(だんしみっかあわざればかつもくしてみよ):
日々努力している人は、たった三日会わないだけでも大きく成長しているものだ。人は変われるというポジティブな意味合い。『三国志演義』に由来。
※「男子」とありますが、現代では性別に関わらず使われます。 - 氏より育ち(うじよりそだち):
家柄や血筋(生まれつきの性質)よりも、育てられ方や環境のほうが人間形成に大きな影響を与えるということ。「持って生まれたものは変わらない(病は〜)」に対するアンチテーゼ的な言葉。
「病は治るが癖は治らぬ」の英語表現
英語圏にも、染み付いた習慣の強さを表す有名なフレーズがあります。
Old habits die hard.
- 意味:「古い習慣はなかなか消えない」
- 解説:長年の習慣を断ち切ることの難しさを表す、最も一般的な表現です。日本語の「病は治るが〜」とほぼ同じ感覚で使えます。
- 例文:
I tried to quit smoking, but old habits die hard.
(禁煙しようとしたが、古い習慣はなかなかやめられない。)
A leopard cannot change its spots.
- 直訳:ヒョウはその斑点を変えることはできない
- 意味:「持って生まれた性質は変えられない」
- 解説:聖書(エレミヤ書)に由来する表現。本人がどれだけ変えようとしても、生まれ持った本性や悪癖は変えられないという、より強い「決定論」や「諦め」のニュアンスを含みます。
まとめ
病は治るが癖は治らぬは、身体の不調よりも、心や行動に染み付いた習慣を直すほうが困難であると説く言葉です。
この言葉は、他人に対して使うときは「変わらない相手への諦め」になりますが、自分に対して使うときは「それほど根深いものだと自覚して、生半可な覚悟では直らない」という強い戒めになります。
もし直したい悪癖があるなら、特効薬はないと心得て、じっくりと向き合う必要があるでしょう。









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