年末が近づき「来年はこんなことをしたい」と夢を語り合う人間の姿を、どこか遠くから嘲笑する存在を描いたのが、
「来年の事を言えば鬼が笑う」(らいねんのことをいえばおにがわらう)です。
意味
人間には予測できない未来のことを、あたかも確定しているかのように語る様子を滑稽だとする比喩です。
転じて、将来のことは何が起こるか分からないのだから、あれこれ言っても始まらないという意味で使われます。
単に未来の計画を否定するだけでなく、自分の夢物語を照れ隠しで話す際などに、会話のクッション言葉として重宝される表現でもあります。
- 来年(らいねん):まだ来ていない不確実な未来。
- 鬼(おに):人知を超越した存在。
- 笑う(わらう):人間の浅はかさを滑稽に思い嘲笑する様子。
語源・由来
「来年の事を言えば鬼が笑う」という言葉は、特定の人物による発言などの明確な出典はありませんが、江戸時代に京都や大坂(上方)で親しまれた「上方いろはかるた」の「ら」の札に採用されたことで、広く庶民に定着したと伝えられています。
なぜ神様や仏様ではなく「鬼」が笑うのかについては、地獄で閻魔大王(えんまだいおう)に仕える鬼たちが人間の寿命が記された帳簿(閻魔帳)の内容を知っており、「こいつは来年まで生きていないのに」と冷ややかに嘲笑したという説があります。
また、強靭な肉体と長い寿命を持つ鬼から見て、明日のことさえ予測できない人間が得意げに未来を語る姿が滑稽に映ったからだという説も存在します。
使い方・例文
「来年の事を言えば鬼が笑う」は、文字通りの「来年」に限定されず、数ヶ月先の予定から遠い将来の夢まで、あらゆる「不確実な未来」に対して広く使われます。
日常会話では、非現実的だと思われるような自分自身の長期的な夢や目標を語る際に、謙遜の前置きとして使用される言葉です。
- まだ受かってもいないのに旅行の計画とは、来年の事を言えば鬼が笑うぞ。
- 来年の事を言えば鬼が笑うと言うが、いつかは独立して自分の店を持ちたいんだ。
- 来年の事を言えば鬼が笑うかもしれないが、老後は海外でのんびり暮らすつもりだ。
類義語・関連語
「来年の事を言えば鬼が笑う」と同様に、未来の不確実性を表す言葉には以下のようなものがあります。
- 明日の事を言えば鬼が笑う(あしたのことをいえばおにがわらう):
「来年」を「明日」に置き換え、直近の未来さえ分からないという切迫感を強調した言葉。 - 一寸先は闇(いっすんさきはやみ):
ほんの少し先のことも全く予測できず、予期せぬ災難が起こり得るということ。 - 捕らぬ狸の皮算用(とらぬたぬきのかわざんよう):
手に入れてもいないものを当てにして、あれこれと利益の計画を立てる愚かさ。
「来年の事を言えば鬼が笑う」と類義語の違い
これらの言葉はどれも未来が不確実であることを示していますが、焦点が当たる対象や使われる状況に明確な違いがあります。
| 語句 | 焦点が当たる対象 | 使える状況 |
|---|---|---|
| 来年の事を言えば鬼が笑う | 将来の計画や夢 | 自分の目標を謙遜して語る時 |
| 一寸先は闇 | 予期せぬ災難や不幸 | 突発的なトラブルを警戒する時 |
| 捕らぬ狸の皮算用 | 金銭や利益 | 不確実な利益を当てにする時 |
対義語
「来年の事を言えば鬼が笑う」とは反対に、未来への準備や予測の重要性を説く言葉には以下のようなものがあります。
- 備えあれば憂いなし(そなえあればうれいなし):
普段から準備を整えておけば、いざという時に心配しなくて済むという教え。 - 転ばぬ先の杖(ころばぬさきのつえ):
失敗しないように、前もって十分な用心をしておくこと。
英語表現
Don’t count your chickens before they hatch
まだ確定していないことを当てにして先走ることへの戒めであり、未来の計画を得意げに語る滑稽さというニュアンスに最も近い表現。
Don’t count your chickens before they hatch — you haven’t even applied yet.
(まだ応募もしていないのに皮算用はよくない。)
Man proposes, God disposes
人間がどれだけ計画を立てても、最終的に決めるのは人智を超えた力だという意味の言葉。
Man proposes, God disposes — our carefully laid plans fell apart overnight.
(人事を尽くして天命を待つというが、綿密な計画も一晩で崩れた。)
「鬼が笑う」は西洋では「神が笑う」
日本のことわざでは「鬼」が人間の計画を笑いますが、英語圏にも「Man proposes, God disposes(人間が計画を立てても、決めるのは神だ)」というよく似た表現が存在します。
日本では、寿命を管理する地獄の「鬼」が人間の浅はかさを冷ややかに嘲笑するという仏教的な死生観が背景にあります。
一方の西洋では、人間の運命を絶対的に支配する「神」の意志の前では、個人の計画など無力であるという一神教的な世界観が反映されています。
文化や時代が異なる環境において、「超越的な存在が人間の計画を笑う」という構図がほぼ同じ形で定着しています。







コメント