死馬の骨を買う

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ことわざ 慣用句 故事成語
死馬の骨を買う
(しばのほねをかう)

8文字の言葉し・じ」から始まる言葉
死馬の骨を買う 【個別】ことわざ・慣用句・四字熟語

何か大きな成果を得たいと考えたとき、一見すると無駄に思えるような投資や、地道な努力を迫られることがあります。
「そんなことに価値があるのか」と周囲が首をかしげるような行動が、実は最高の結果を引き寄せる呼び水になる。

そんな、優れた人材や貴重なものを手に入れるための賢明な策を言い表した言葉が、
「死馬の骨を買う」(しばのほねをかう)です。

目先の損得を超えた先にある、本質を見抜く知恵を紐解いていきましょう。

意味・教訓

「死馬の骨を買う」とは、優れた人材を招くために、まずは手近な凡人を厚遇して、賢者が集まるのを待つという意味の言葉です。

また、そこから転じて「一見価値のないものを高く買うことで、本当に価値のあるものを手に入れようとする熱意を示す」という意味でも使われます。
単なる「無駄遣い」ではなく、自分の本気度を周囲に知らしめ、より大きな目的を果たすための高度な戦略を指す教訓です。

語源・由来

「死馬の骨を買う」の由来は、中国の戦国時代を記録した歴史書『戦国策(せんごくさく)』にある燕(えん)の国の逸話です。

燕の昭王(しょうおう)が「名馬が欲しい」と願った際、ある家臣が死んだ名馬の骨を五百金という大金で買い取ってきました。
昭王は「死んだ馬に価値はない」と怒りましたが、家臣はこう答えました。
「死んだ馬の骨ですら高く買う王だと知れば、人々は『生きている名馬ならどれほど高く売れるか』と考え、向こうから馬を連れてくるはずです」

この言葉通り、わずか一年足らずで王のもとには三頭もの名馬が届けられたと伝えられています。

使い方・例文

「死馬の骨を買う」は、優れた人材を集めたり、大きな目的を達成したりするための「呼び水」として、あえて無駄に見える投資をする場面で使われます。
単なる浪費ではなく、自分の誠意や本気度を周囲に示す戦略的な振る舞いを指す際に適しています。

例文

  • 有能な人材を募るため、まずは未経験者を厚遇するのは、まさに「死馬の骨を買う」ような先行投資だ。
  • 誰もいない広場で一人演奏を始めた彼は、「死馬の骨を買う」つもりで仲間が集まるのを待った。
  • 「まずは部室を綺麗に整えて、死馬の骨を買うの精神で新入部員を迎えよう」と部長が言った。
  • 廃業寸前の店をあえて高値で買い取ったのは、「死馬の骨を買う」ことで地域再生の熱意を示すためだ。

文学作品・メディアでの使用例

この言葉は、歴史小説や、組織運営の知略を描く物語の中で、リーダーの決断を象徴するフレーズとして登場します。

『十八史略』(作者不詳)
中国の歴史を簡潔にまとめたこの書物には、燕の昭王と郭隗(かくかい)のやり取りの中で、このエピソードが教訓として記されています。

古の人の、五百金を以て死馬の骨を買う者有り。

類義語・関連語

「死馬の骨を買う」と似た意味を持つ言葉には、人材を重んじる姿勢や戦略的な呼び水に関するものがあります。

  • 先ず隗より始めよ(まずかいよりはじめよ):
    「死馬の骨を買う」と同じエピソードの中で、郭隗が昭王に説いた言葉。まずは身近な者から優遇せよという意味。
  • 三顧の礼(さんこのれい):
    優れた人材を招くために、礼を尽くして何度も訪問すること。
  • 海老で鯛を釣る(えびでたいをつる):
    わずかな元手で、大きな利益を得ること。戦略的な側面で似ているが、「死馬の骨を買う」の方が熱意の証明に重きを置く。

対義語

「死馬の骨を買う」と明確に対をなす定型のことわざは稀ですが、対照的な考え方を示す表現を挙げます。

  • 門前払い(もんぜんばらい):
    訪ねてきた人を、相手にせず追い返すこと。熱意を全く見せない態度の対比。
  • 目先の利益に走る(めさきのりえきにはしる):
    将来の大きな成果よりも、今すぐ手に入る利益を優先すること。

英語表現

「死馬の骨を買う」の「小さな犠牲で大きな成果を得る」という戦略的ニュアンスに近い表現を紹介します。

To throw a sprat to catch a mackerel.

  • 意味:「小魚(スプラット)を投げて、サバを釣る」
  • 解説:日本語の「海老で鯛を釣る」に近いですが、より大きな成果を狙って戦略的に動く際に使われる英語のことわざです。
  • 例文:
    Investing in this small ad is like throwing a sprat to catch a mackerel.
    (この小さな広告に投資するのは、大きな反響を狙った布石だ。)

500金は高いのか?

エピソードの中で、家臣が死んだ馬の骨に支払った「五百金」という金額。
これが現代の価値でどれほどなのかは諸説ありますが、当時の感覚では「文字通り国を揺るがすほどの法外な高値」であったとされています。

この法外な金額こそがポイントです。
「そこそこの値段」で買っても、噂は広まりません。
「あそこの王様は、死んだ馬の骨に、なんと五百金も出したらしいぞ!」という、耳を疑うようなニュース性が、千里を走る名馬を持つ飼い主たちの心を動かしたのです。
現代のマーケティングで言うところの「インパクトのある広告」や「ブランディング」の先駆けとも言える、非常に高度な心理作戦だったことが分かります。

まとめ

「死馬の骨を買う」という言葉は、一見すると不合理な行動の中に、実は深い戦略が隠されていることを教えてくれます。

本気で何かを変えたい、あるいは本物の仲間を集めたいと願うなら、まずは自分の「熱意」を形にして見せることが必要です。
それは周囲から見れば無駄に見えるかもしれませんが、その誠意こそが、最終的に最高の結果を連れてくる呼び水になることでしょう。
目先の損得にとらわれず、大きな目的のために「まず自らが差し出す」という姿勢は、時代を超えて通用する知恵と言えるかもしれません。

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