うたた寝をしているわずかな間に、まる一生分の栄華や没落を見尽くしてしまうような、儚くも壮大な夢を指すのが、「邯鄲の夢」(かんたんのゆめ)です。
意味
「邯鄲の夢」とは、人の世の栄枯盛衰が、極めてはかないことのたとえです。
人生をかけて手に入れた地位や富も、目が覚めればほんの一瞬の出来事に過ぎなかったという、虚しさを伴う場面で使われます。
- 邯鄲(かんたん):中国戦国時代、趙の都だった町の名。
- 夢(ゆめ):一生分の栄華を見た眠りの中の出来事。
語源・由来
「邯鄲の夢」は、中国唐代の作家・沈既済(しんきせい)が書いた伝奇小説『枕中記(ちんちゅうき)』に由来します。
物語では、趙の都・邯鄲を旅していた貧しい青年・盧生(ろせい)が、仙人・呂翁(りょおう)と出会い、栄華が思いのままになるという不思議な枕を借ります。
盧生がその枕でうたた寝をすると、夢の中で科挙に及第して出世を重ね、50年余りにわたる富貴と栄華の一生を送りました。
ところが目を覚ましてみると、宿の主人が炊いていた黄粱(こうりょう、粟の一種)の飯さえまだ煮えていない、ごくわずかな時間しか経っていなかったのです。
この故事から、「邯鄲の夢」のほかにも「黄粱の夢」「邯鄲の枕」「盧生の夢」など、複数の呼び名が生まれました。
使い方・例文
「邯鄲の夢」は、努力して手にした地位や成功が、後から振り返るとあっけないものだったと気づいた場面で使われます。
- 一代で築いた財産も、今となっては邯鄲の夢のようだ。
- 学生時代の栄光など、邯鄲の夢に過ぎなかったと悟る。
- 政界での栄達も、振り返れば邯鄲の夢であった。
- 一夜にして手にした富は、まさに邯鄲の夢だった。
類義語・関連語
「邯鄲の夢」と同じく、人生や栄華のはかなさを説く言葉には以下のようなものがあります。
- 黄粱の夢(こうりょうのゆめ):
同じ故事に基づく、邯鄲の夢の別名。 - 南柯の夢(なんかのゆめ):
蟻の国で見た栄華が、実は夢だったと知る故事。 - 槿花一朝の夢(きんかいっちょうのゆめ):
ムクゲの花に例えた、栄華の短さのたとえ。
英語表現
a flash in the pan
一時的に注目を集めても、すぐに消えてしまう成功や人物を指す口語表現。
His overnight success turned out to be a flash in the pan.
(彼が一夜にして得た成功は、まさに邯鄲の夢だった。)
here today, gone tomorrow
今日はあっても明日にはない、という物事の儚さを表す慣用句。
Fame in this industry is here today, gone tomorrow.
(この業界の名声は、邯鄲の夢のようにはかない。)
一つの物語から生まれた、いくつもの呼び名
『枕中記』というひとつの物語から、「邯鄲の夢」のほかにも「黄粱の夢」「一炊の夢」「邯鄲の枕」「盧生の夢」など、複数の呼び名が並行して生まれました。
「黄粱の夢」は炊かれていた粟粥に、「邯鄲の枕」は栄華を見せた不思議な枕に、「盧生の夢」は夢を見た青年自身に、それぞれ注目した呼び方です。
同じ出来事でも、物語のどの場面や道具に目を留めるかによって、複数の言葉が並行して定着していったことがわかります。
中国だけでなく日本の古典文学でも、この故事はしばしば引用の題材とされてきました。









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