根本的な解決にはなっていないと知りながら、差し迫った窮地を切り抜けるために一時的な手段を講じる。
そんな危うい対応を、「その場しのぎ」と言います。
一時の猶予を稼ぐための知恵か、それとも破滅への先送りか。
日本語には、この微妙な心理や状況を描き出す豊かな表現が数多く存在します。
- 根本解決を避け、表面だけを取り繕う表現
- 弥縫策(びほうさく)
- 糊塗(こと)
- 臭いものに蓋をする(くさいものにふたをする)
- 対症療法(たいしょうりょうほう)
- 準備不足を補うために、土壇場で急ぐ表現
- 態度や言葉でその場の追及をかわす表現
- 姑息(こそく)
- お茶を濁す(おちゃをにごす)
- 逃げ口上(にげこうじょう)
- 一時逃れ(いちときのがれ)
- 計画性がなく、その時々の状況で動く表現
- 英語表現
- まとめ
根本解決を避け、表面だけを取り繕う表現
問題の本質から目を背け、とりあえず見栄えを整えたり、不都合を隠したりする際に使われる言葉です。
弥縫策(びほうさく)
「弥」も「縫」も、つくろうという意味を持ちます。
衣服のほころびを一時的に縫い合わせることから、失敗や欠点などを表面だけ取り繕うための、間に合わせの策略を指します。
あくまで一時しのぎであり、時間が経てばまた別の場所から問題が露呈するような、不完全な対策を揶揄する際に使われます。
糊塗(こと)
糊(のり)を塗って、表面の汚れや傷を覆い隠すことです。
そこから、物事の真相を隠し、その場を一時的にごまかして何事もなかったかのように見せることを表します。
「真実を糊塗する」といった表現で、不誠実な対応を批判する文脈でよく用いられます。
臭いものに蓋をする(くさいものにふたをする)
嫌な臭いのするものの元を断つのではなく、単に蓋をして、周囲に臭わないようにすることです。
不都合なことや、醜聞が外部に漏れないよう、一時的な処置で隠蔽しようとする様子を指します。
江戸いろはかるたの読み札としても広く親しまれており、根本的な解決を先送りにする日本的な振る舞いを表す際によく使われます。
対症療法(たいしょうりょうほう)
もともとは医療用語で、病気の原因を取り除くのではなく、熱や痛みなどの表面的な症状を抑えるための治療法を指します。
これが転じて、ビジネスや日常生活において、発生している問題の根本原因を究明せず、目に見える現象だけを鎮めようとする一時的な対応を例えるようになりました。
準備不足を補うために、土壇場で急ぐ表現
事前の備えを怠った結果、期限が迫ってから慌てて体裁を整える状況を表す言葉です。
泥縄(どろなわ)
「泥棒を捕らえて縄を綯う」の略です。
泥棒を捕まえてから、縛るための縄を編み始めるという、あまりにも遅すぎる対応を皮肉った言葉です。
事態が起きてから慌てて準備を始める計画性のなさを指し、尾張いろはかるた等にも採用され定着しました。
付け焼刃(つけやきば)
切れ味の悪い刀に、鋼の刃を一時的に接合して、いかにも切れそうに見せかけた刀のことです。
そこから、その場をしのぐために急いで身につけた知識や技術、にわか仕込みの準備を指します。
急造の刃は一度使えばすぐに剥がれ落ちてしまうことから、長続きしないことの例えでもあります。
一夜漬け(いちやづけ)
野菜を一晩だけ塩に漬けて、翌朝には食べられるようにした漬物のことです。
そこから、試験の前夜などに寝る間を惜しんで、急激に知識を詰め込む様子を指すようになりました。
短期間で成果を出そうとするものの、すぐに忘れてしまうような「その場しのぎ」の典型的な例として使われます。
急場凌ぎ(きゅうばしのぎ)
差し迫った状況や、予期せぬ事態に対して、あり合わせのもので何とかその場を切り抜けることです。
「急場」とは差し迫った場所や時を指し、十分な準備ができない中で、ひとまずの処置をして落ち着かせるというニュアンスが含まれます。
間に合わせ(まにあわせ)
その場をやり過ごすために、手近にある適当なもので代用することです。
完璧な解決策ではないものの、欠けているよりはマシ、という妥協の産物を指します。
「間に合わせの資料」のように、質よりもスピードや一時的な充足を優先した際に用いられます。
態度や言葉でその場の追及をかわす表現
具体的な対策を講じるのではなく、振る舞いや言い回しによって責任や非難から逃れる様子を表す言葉です。
姑息(こそく)
「姑」はしばらく、「息」は休むという意味があり、本来は「一時の猶予を得る」「一時しのぎ」を意味する言葉です。
現代では「卑怯(ひきょう)な」という意味で使われることが多いですが、本来は根本的な解決を避け、その場を無事にやり過ごそうとする態度を指します。
中国の古典『礼記』に由来する、歴史ある表現です。
お茶を濁す(おちゃをにごす)
適当なことを言ったり、表面的な取り繕いをしたりして、その場をごまかすことです。
茶道の作法を知らない人が、抹茶をただかき回して濁らせ、それらしく見せたことが由来とされています。
質問に対して核心を突いた回答を避け、適当な話題で場を収めようとする様子によく使われます。
逃げ口上(にげこうじょう)
責任を逃れたり、自分に不利な状況から脱したりするために使う、都合の良い言い訳のことです。
相手からの追及をかわすために、あらかじめ用意しておいたかのような、不自然で言い逃れがましい言葉を指します。
一時逃れ(いちときのがれ)
その瞬間の非難や苦しみ、責任を逃れるために、いい加減な嘘をついたり取り繕ったりすることです。
後で事態が悪化すると分かっていても、今の苦境から逃れたいという、人間の弱さや場当たり的な心理を強調する際に使われます。
計画性がなく、その時々の状況で動く表現
将来の見通しを持たず、目の前の出来事に対して反射的に対応する様子を表す言葉です。
場当たり的(ばあたりてき)
将来の計画や一貫した方針を持たず、その時の状況や気分だけで物事を行う様子です。
演劇において、台本通りではなくその場の状況に応じて演技を変える「場当たり」が語源とされています。
先を見越した戦略がなく、その一瞬が良ければいいという無計画な振る舞いを指します。
行き当たりばったり
これといった計画もなく、成り行きに任せて行動することです。
「行き当たった」ところに「ばったり」と身を任せる、という語感通り、結果がどうなろうとも運を天に任せて進む様子を表します。
自由奔放な旅のスタイルを指すこともあれば、無責任な仕事ぶりを批判する際にも使われます。
当座を凌ぐ(とうざをしのぐ)
差し当たっての現在を何とか切り抜けることです。
「当座」とは、今この瞬間や、極めて近い将来を指します。
将来的な展望は全く立っていないものの、ひとまずは目先の危機を回避し、静観するという状態を表します。
英語表現
「その場しのぎ」というニュアンスを英語で表現する場合、状況に応じていくつかの定型表現があります。
Stopgap
「隙間を埋めるもの」
壁などの穴を塞ぐ一時的な詰め物が語源です。正式な解決策や、後任者が決まるまでの「一時しのぎ」の措置や代役を指す名詞として広く使われます。
- 例文:
This policy is just a stopgap measure to handle the crisis.
(この政策は、危機を乗り切るための一時しのぎの措置にすぎない。)
Quick fix
「手っ取り早い解決策」
あまり手間をかけず、すぐに問題を解決する方法です。
非常に便利な言葉ですが、「根本的な解決にはなっていない」「安易な逃げ」という批判的な響きを伴います。
- 例文:
There is no quick fix for the country’s economic problems.
(その国の経済問題に、その場しのぎの解決策はない。)
Band-aid solution
「絆創膏(ばんそうこう)による解決」
傷口に絆創膏を貼るだけの、表面的な手当てのことです。
大規模な手術が必要なほどの問題に対し、表面だけを覆って済ませようとする不適切な対応を揶揄する表現です。
- 例文:
We need a permanent strategy, not a Band-aid solution.
(私たちに必要なのは恒久的な戦略であり、その場しのぎの解決策ではない。)
まとめ
「その場しのぎ」に関連する言葉を紐解くと、そこには「余裕のなさ」と、それゆえの「人間の脆さ」が共通して流れています。
時には急場を凌ぐための「間に合わせ」が必要な場面もあるでしょう。
しかし、それが習慣化し、「糊塗」や「弥縫策」を繰り返すことになれば、信頼を失うだけでなく、問題はより大きく複雑になってしまいます。
これらの言葉を知ることは、今の自分が取っている行動が、単なる「泥縄」になっていないかを客観的に見つめる鏡になります。
一時の安らぎを求めるのか、未来を見据えるのか。言葉の重みが、正しい判断を促す一助となることでしょう。









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