対話において発信の技術に偏り、受信の姿勢が欠落している状態を表すのが、
「話し上手の聞き下手」(はなしじょうずのききべた)です。
意味
「話し上手の聞き下手」とは、自分の考えを伝える技術は優れている反面、相手の話に耳を傾ける姿勢に欠けているという戒めです。
会話が弾んでいるように見えても、実際は一方的な持論の展開になっており、対等な関係を築けていないという否定的なニュアンスを含みます。
- 話し上手(はなしじょうず):話術が巧みで、自分の意見を的確に伝えられる人。
- 聞き下手(ききべた):相手の話を受け止めたり、引き出したりするのが苦手な人。
語源・由来
「話し上手の聞き下手」は、太田全斎が寛政9年(1797年)に著した語彙集『諺苑』に登場する言葉です。
当時の日本では、よどみなく一方的に言葉を連ねる弁舌の巧みさが「話し上手」としてもてはやされていました。
自分ばかりが語る人は往々にして他人の声に耳を貸さないため、その偏った対話の姿勢を戒める表現として広く使われました。
のちに誕生した「話し上手は聞き上手」ということわざと対になって現代に伝わっています。
使い方・例文
「話し上手の聞き下手」は、話は面白いがやや一方的だと感じる場面で使われます。
- あの企画マンは話し上手の聞き下手で、顧客の要望を全く引き出せていない。
- 彼は話し上手の聞き下手なので、深い悩みを相談する相手としては向かない。
相手を褒める際の誤用
「話し上手」という肯定的な言葉が含まれていますが、句全体としては会話の偏りを指摘する否定的な評価になります。
そのため、相手の会話力を褒めるつもりで「あなたは話し上手の聞き下手ですね」と伝えるのは明らかな誤用です。
類義語・関連語
「話し上手の聞き下手」と同様に、一方的な意思疎通のあり方を表す言葉には以下のようなものがあります。
- 聞き下手(ききべた):
相手の話を受け止めるのが苦手な性質。ただし「話し上手」の側面がなく部分的一致。 - 我田引水(がでんいんすい):
何でも自分に都合よく引き寄せる様。比喩的に近い場面で使われる。
対義語
「話し上手の聞き下手」と対照的な意味を持つ言葉には以下のようなものがあります。
- 聞き上手(ききじょうず):
相手の話を適切に受け止め、気持ちよく語らせる能力。
英語表現
「話し上手の聞き下手」を英語で表す場合、以下の表現が適しています。
a good talker but a poor listener
話すのは得意だが聞くのは苦手という性質を、対比を用いて直接的に表した表現。
He is a good talker but a poor listener.
(彼は話し上手の聞き下手です。)
「話し上手」への評価が、ことわざで180度変わった
のちに生まれた「話し上手は聞き上手」ということわざは、「本当に話の上手な人は、相手の言葉を引き出すのも上手である」という意味を持ちます。
同じ「話し上手」という言葉を含みながら、一方は戒め、もう一方は称賛として正反対の評価を与えられている点は特徴的です。
二つのことわざが対になって残っていることから、江戸時代には一方的な弁舌が「話し上手」と認識されていたことがうかがえます。








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