意味
「一髪千鈞を引く」は、細さと重さの落差を並べて危うさを言い表した言葉です。
髪の毛一本で千鈞という途方もない重さのものを引く、つまりきわめて危険なことをするというたとえに使われます。
「千鈞の重みのある言葉」のように、重さの単位で程度の大きさを示す言い方は今も残っています。
- 一髪(いっぱつ):髪の毛一筋。
- 千鈞(せんきん):目方がきわめて重いこと。
語源・由来
「一髪千鈞を引く」は、唐の文人である韓愈が書いた「与孟尚書書」という手紙の一節から出た言葉です。
孟尚書という相手に宛てたこの手紙で、韓愈は、漢の時代からこのかた学者たちが儒教の教えの穴をつぎはぎで埋めてきたものの、乱れるたびに失われてきたと述べます。
そのうえで「其の危きこと一髪の千鈞を引くが如し」、つまり「その危うさは髪の毛一本で千鈞の重さを引くようなものだ」と書き継ぎました。
「鈞」は重さの単位で、一鈞は三十斤にあたります。
千鈞はその千倍の三万斤で、髪の毛一本が受け止められる重さではありません。
使い方・例文
「一髪千鈞を引く」は、支えが細すぎて、いつ崩れてもおかしくない状況を評するときに使われます。
- 資金繰りは一髪千鈞を引くありさまで、月末を越せるか分からない。
- 一人の熟練工に頼りきった工程は、まさに一髪千鈞を引くものだ。
- 停戦の合意は一髪千鈞を引く危うさのまま続いている。
類義語・関連語
「一髪千鈞を引く」と同じように、崩れる寸前の危うさを表す言葉には以下のようなものがあります。
- 危機一髪(ききいっぱつ):
髪の毛一本ほどの違いで危険に陥りそうな、際どい状態。 - 累卵の危(るいらんのあやうき):
積み上げた卵のように、いつ崩れてもおかしくない不安定な状態。 - 風前の灯火(ふうぜんのともしび):
今にも消えてしまいそうな、頼りない状態。 - 薄氷を踏む(はくひょうをふむ):
薄い氷の上を歩くように、失敗の許されない場に臨むこと。
「一髪千鈞を引く」と「危機一髪」の違い
どちらも髪の毛一本を持ち出して危うさを言い表しますが、髪の毛が受け持つ役割が違います。
「一髪千鈞を引く」では髪の毛が重すぎるものを支える側にあり、「危機一髪」では危険とのわずかな隔たりを示す物差しになっています。
| 語句 | 髪の毛が表すもの | 指す場面 |
|---|---|---|
| 一髪千鈞を引く (いっぱつせんきんをひく) | 支えの細さ | 重すぎるものを細い支えに託している状態 |
| 危機一髪 (ききいっぱつ) | 隔たりの小ささ | 危険とすれすれの瞬間 |
英語表現
hang by a thread
細い糸一本でぶら下がっているように、いつ失われてもおかしくない状態を指す言い方。
After the fire, the future of the company hung by a thread.
(火災のあと、その会社の先行きは危うい状態にありました。)
on a knife-edge
刃の上に載っているように、どちらに転ぶか分からない張りつめた状況を表す言い方。
The negotiations were on a knife-edge until the last minute.
(交渉は最後の最後まで危うい状態が続きました。)
「一髪」が指すもうひとつの景色
「一髪」には、危うさとはまったく別の使い道があります。
「一髪」は「遠くの山々の景色が、一本の髪の毛のようにかすかに見えること」も指し、「青山一髪」という言い方があります。
この言い方は、宋の詩人蘇軾の「澄邁駅通潮閣」という詩に出てきます。
水平線の上に細く横たわって見える山の姿を、髪の毛一筋になぞらえた言い方です。









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