意味
「親しき仲にも礼儀あり」とは、非常に親密な間柄であっても、守るべき最低限の礼儀や節度があるという意味です。
遠慮がなくなるほど親しい関係になると、相手への配慮が欠けたり、プライバシーに踏み込みすぎたりしがちです。
しかし、良好な関係を長く続けるためには、相手を一人の独立した人間として尊重し、礼儀をわきまえた態度で接することが不可欠であるという教訓を含んでいます。
語源・由来
「親しき仲にも礼儀あり」という言葉の明確な出典となる古典籍はありませんが、古くから日本で大切にされてきた精神性が言葉となったものです。
由来の一つとして、江戸時代中期の武士の心得を記した『葉隠』(はがくれ)の一節が挙げられます。
そこには「礼儀は親しき中にも隔てをなすものなり」という言葉があり、親密だからこそあえて「隔て(けじめ)」を設けることの大切さが説かれています。
また、中国の古典『荘子』にある「君子の交わりは淡きこと水の如し」という、優れた人物同士の付き合いは水のようにさっぱりとしているからこそ長続きするという思想も、このことわざの根底に流れています。
特定の作者によるものではなく、こうした歴史的な礼節の概念が、庶民の知恵として簡潔なフレーズにまとまったものと考えられます。
使い方・例文
相手との親密さに甘えて、失礼な振る舞いをしそうになった時や、実際にトラブルになりそうな場面での戒めとして使われます。
例文
- どんなに仲の良い兄弟であっても、親しき仲にも礼儀ありを忘れてはいけない。
- 親戚の叔父に対しても、親しき仲にも礼儀ありで言葉遣いには気を配る。
- 親しき仲にも礼儀ありというし、親友から借りた金であっても即座に返す。
誤用・注意点
この言葉における「礼儀」とは、儀式のような堅苦しい作法ではなく、相手を不快にさせないための「節度」や「マナー」を指します。
そのため、親友に対して常に敬語を使ったり、過度に距離を置いたりすることを推奨するものではありません。
あまりに形式にこだわりすぎると、かえって他人行儀で冷たい印象を与えてしまうため、相手との関係性に合わせた「親しみの中のけじめ」を見極めることが重要です。
類義語・関連語
「親しき仲にも礼儀あり」と似た意味を持つ言葉には、境界線や距離感の重要性を説くものが多くあります。
- 親しき仲に垣をせよ(したしきなかにかきをせよ):
親しい間柄でも、互いのプライバシーや領域を尊重し、踏み込みすぎないようにせよという教え。 - 礼も過ぎれば無礼になる(れいもすぎればぶれいになる):
丁寧すぎる態度は、かえって他人行儀で相手に不快感を与えるという意味。
対義語
「親しき仲にも礼儀あり」とは対照的な、形式を無視する場面や、配慮が欠如した状態を指す言葉です。
- 無礼講(ぶれいこう):
身分や立場を気にせず、形式を抜きにして楽しむ宴会のこと。 - 無遠慮(ぶえんりょ):
相手への配慮がなく、慎みのない態度や振る舞い。
英語表現
「親しき仲にも礼儀あり」を英語で表現する場合、境界線の重要性や、親しみがもたらす弊害に着目した表現が選ばれます。
Good fences make good neighbors
「良いフェンスが良い隣人を作る」
適切な境界線があるからこそ、隣人(身近な人)との関係が円滑に保たれるという意味です。
We respect each other’s privacy. Good fences make good neighbors, after all.
(私たちは互いのプライバシーを尊重している。結局、親しき仲にも礼儀ありだ。)
Familiarity breeds contempt
「親しすぎると軽蔑が生まれる」
あまりに慣れ親しみすぎると、相手への敬意を失い、軽んじるようになるという意味です。
Don’t be too rude to your friends. Remember, familiarity breeds contempt.
(友人に無礼な態度をとってはいけない。親しき仲にも礼儀あり、だよ。)
明治以降に広まった言い方
明治時代以降の教科書や家庭教育を通じて、道徳的な教訓として広く定着した言葉だと言われています。
語源で触れた『葉隠』の「礼儀は親しき中にも隔てをなすものなり」のように、同じ趣旨の言い方は江戸時代から見えます。
現在の「親しき仲にも礼儀あり」という形に定まったのは、それより新しいことになります。












コメント
己に克ちて礼にかえるを仁となす。孔子。礼は忠信の薄にして乱の首なり。と老子にはいう