老いたる馬は道を忘れず

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ことわざ 故事成語
老いたる馬は道を忘れず
(おいたるうまはみちをわすれず)
短縮形:老馬の智
異形:老馬道を忘れず

14文字の言葉」から始まる言葉

新しい技術や知識が次々と生まれる現代でも、長く現場に立ち続けた人の「勘」や「経験則」に助けられる瞬間があります。
老いたる馬は道を忘れず(おいたるうまはみちをわすれず)」は、長い年月を経て培われた経験や知恵の価値を説くことわざです。

なぜ「老いた馬」なのか。その背景にある歴史的なエピソードと共に、言葉の意味や現代での活かし方を解説します。

「老いたる馬は道を忘れず」の意味・教訓

「老いたる馬は道を忘れず」とは、経験を積んだ人は、物事の道理や判断を誤らないというたとえです。
また、年長者の知恵や経験は尊いものであり、困ったときにはそれを活用すべきだという教訓を含みます。

  • 老いたる馬:長く生き、多くの経験を積んだ馬。転じて、経験豊富な老人やベテラン。
  • 道を忘れず:かつて通った道を覚えている。転じて、正しい解決策や進むべき方向を知っていること。

体力や瞬発力では若者に劣るかもしれませんが、複雑な状況下での判断力や、過去の失敗から学んだ危機回避能力において、経験者は優れた力を持っていることを表しています。

「老いたる馬は道を忘れず」の語源・由来

この言葉の出典は、中国、戦国時代の思想書『韓非子(かんぴし)』の「説林(せつりん)上」にある故事です。

あらすじ
春秋時代、斉(せい)の宰相である名軍師・管仲(かんちゅう)と、大臣の湿朋(しっぽう)は、主君である桓公(かんこう)に従い、孤竹国(こちくこく)という国への遠征に出かけました。

戦いは長引き、春に出発した軍が帰る頃には冬になっていました。雪深い山中で軍勢は道に迷い、どちらへ進めばよいか分からなくなってしまいます。絶体絶命の危機です。

その時、管仲がこう言いました。

老馬の智用うべきなり(老いた馬の知恵を借りるべきだ)」

そして、軍の中から年老いた馬を選んで解き放ち、その馬の後について行かせました。すると、老馬は迷うことなく雪の下にある道を見つけ出し、軍勢は無事に山を脱出することができたのです。

この故事から、「老馬の智(ろうばのち)」という言葉が生まれ、そこから「老いたる馬は道を忘れず」ということわざとして広まりました。

「老いたる馬は道を忘れず」の使い方・例文

現代では、ベテランのスキルを称賛する場合や、経験者の意見を尊重すべき場面で使われます。また、年配者が自分の経験を謙遜しつつも、自信を持って提供する場合にも使えます。

例文

  • どんなにAIが進化しても、トラブル対応における彼の直感は正しい。まさに老いたる馬は道を忘れずだ。
  • 新規プロジェクトが行き詰まった時、相談に乗ってくれたのは定年退職した元上司だった。老いたる馬は道を忘れず、そのアドバイスで突破口が開けた。
  • 老いたる馬は道を忘れずと言いますから、私の古い経験でも何かの役に立つかもしれません」

文学作品での使用例

  • 老いたる馬は道を忘れずとか申しますから、何ぞ御用に立ちますれば、老骨に鞭ちましても勉強致しましょう」
    (中里介山『大菩薩峠』)

「老いたる馬は道を忘れず」の類義語・関連語

経験の価値を説く言葉は他にもあります。

  • 亀の甲より年の功(かめのこうよりとしのこう):
    年長者の経験や知恵は尊いものであるということ。
    ※最も一般的で親しみやすい表現です。
  • 老馬の智(ろうばのち):
    「老いたる馬は道を忘れず」の元となった四字熟語。経験豊かな人の知恵。
  • 昔取った杵柄(むかしとったきねづか):
    若い頃に身につけた技量や腕前は、年をとっても衰えないこと。
    ※「老いたる馬〜」が判断力や知識に焦点を当てるのに対し、「昔取った〜」は身体的な技術に対して使われることが多いです。
  • 一日の長(いちじつのちょう):
    知識や技能などが、他人よりも少し優れていること。また、年齢が少し上であること。

「老いたる馬は道を忘れず」の英語表現

英語圏にも、年長者の知恵や経験を評価する似たような表現があります。

An old horse knows the way.

  • 意味:「老馬は道を知っている」
  • 解説:日本語のことわざとほぼ同じ意味で使われる表現です。

Experience is the mother of wisdom.

  • 意味:「経験は知恵の母」
  • 解説:知恵は経験から生まれるという、普遍的な真理を説く格言です。

The devil knows many things because he is old.

  • 意味:「悪魔は年をとっているからこそ、多くのことを知っている」
  • 解説:スペインやラテン語由来のことわざ。悪魔が賢いのは、邪悪だからではなく、単に長く生きているからだ(=経験こそが知識の源泉だ)という面白い視点の表現です。

「老いたる馬は道を忘れず」に関する豆知識

セットで語られる「蟻」の知恵

実は『韓非子』の同じエピソードには、老馬だけでなく「蟻(あり)」も登場します。

道に迷ったときは「老馬の智」を借りて脱出しましたが、行軍中に水がなくて困ったとき、もう一人の賢臣である湿朋(しっぽう)がこう言いました。
「蟻は冬には山の南側に、夏には山の北側に巣を作る。蟻塚の下には必ず水脈があるはずだ」
掘ってみると、その通り水が出てきて軍は救われました。

『韓非子』では、この二つの話を並べて「管仲や湿朋のような賢人でさえ、困った時には動物や昆虫の知恵(=自然の理や、専門的な本能)を師とすることを恥じなかった。なのに現代の人間は、聖人の知恵を学ぶことを恥じている。なんと愚かなことか」と説いています。

単に「年寄りを敬え」という話ではなく、「分からないことは、それを知っている存在(たとえそれが馬や蟻であっても)から謙虚に学ぶ姿勢が大切だ」というのが、本来の深い教訓なのです。

まとめ – 経験という「道しるべ」

「老いたる馬は道を忘れず」は、単なる年功序列を勧める言葉ではありません。未知の困難に直面したとき、過去の事例や長く生きた者の記憶の中に、解決への「道しるべ」が隠されていることを教えてくれます。

新しいやり方も大切ですが、迷ったときこそ、歴史や先人の知恵(=老馬)に頼ってみる。その謙虚な姿勢こそが、私たちを正しい道へと導いてくれるのです。

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