西の空がオレンジ色に染まり、ゆっくりと山際に太陽が隠れていく時間。
かつての賑わいが嘘のように静まり返った古い商店街や、かつての名家がひっそりと門を閉ざす様子を目にしたとき、人は言いようのない寂しさを覚えるものです。
勢いのあったものが全盛期を過ぎ、衰えていくその様を、
「斜陽」(しゃよう)と言います。
意味
「斜陽」とは、西に傾いた太陽の光のことです。
転じて、かつての勢いや栄華を失い、ひっそりと衰退していく状態を指す比喩として使われます。
単に「衰える」というだけでなく、過去に輝かしい全盛期があったというニュアンスを含んでいるのが特徴です。
語源・由来
「斜陽」という言葉自体は、古くから太陽が傾く様子を表す漢語として存在していました。
現在のように「没落」や「時代の波に取り残されて衰退する」という意味で広く定着したのは、昭和22年(1947年)に発表された太宰治の小説『斜陽』がきっかけです。
敗戦後の日本で、それまでの特権的な地位を失い、没落していく元貴族の姿を描いたこの作品は社会現象となりました。
作品のヒットにより、没落していく人々を指す「斜陽族」という言葉が流行語となり、そこから転じて衰退しつつある産業や組織を「斜陽」と呼ぶようになったのです。
使い方・例文
新しい技術や時代の変化によって、かつての主役がその座を譲っていくような場面で多く用いられます。
例文
- 時代の移り変わりとともに、かつての主力事業も今では「斜陽」の一途を辿っている。
- 祖父が守ってきた古い旅館には、どこか斜陽の美しさが漂っていた。
- 一世を風靡したスターが、誰にも気づかれず斜陽の寂しさの中に消えていった。
文学作品での使用例
この言葉に「没落」という決定的な意味を付与した、日本近代文学の代表作です。
『斜陽』(太宰治)
戦後の価値観の激変に翻弄される母娘を描いています。
かつての華やかさを失いながらも、滅びゆく美学を貫こうとする人々の姿が印象的です。
お母さまは、最後の貴族である。
私たちは、斜陽の民。
類義語・関連語
「斜陽」と似た意味を持つ言葉には、終わりの静けさや勢いの衰えを感じさせるものが選ばれます。
- 落日(らくじつ):
沈む夕日のこと。転じて、物事の終焉や勢力が衰える様子を指す。 - 衰退(すいたい):
勢いが弱まり、衰えること。 - 黄昏(たそがれ):
夕暮れ時のこと。比喩的に、全盛期を過ぎた末期的な状態を指す。
対義語
「斜陽」とは対照的に、勢いよく発展していく様子を表す言葉です。
- 隆盛(りゅうせい):
勢いが盛んで栄えていること。 - 旭日昇天(きょくじつしょうてん):
朝日が天に昇るように、極めて勢いが盛んな様子。
英語表現
「斜陽」を英語で表現する場合、衰退する産業や力が弱まる状態を指すフレーズが一般的です。
sunset industry
- 意味:「斜陽産業」
- 解説:需要が減り、衰退しつつある産業を指す経済用語的な定型表現です。
- 例文:
The government is trying to support workers in sunset industries.
(政府は斜陽産業の労働者を支援しようとしている。)
on the wane
- 意味:「衰えつつある」
- 解説:月が欠けていく様子から転じて、勢いや力が弱まっている状態を指します。
- 例文:
His popularity has been on the wane for several years.
(彼の人気はここ数年、斜陽に向かっている。)
時代を象徴する流行語
小説『斜陽』から生まれた「斜陽族」という言葉は、戦後の日本社会に大きな影を落としました。
かつての華族や地主たちが農地改革や新憲法によって地位を失い、生活に困窮していく姿は、まさに沈みゆく太陽そのものでした。
その後、石原慎太郎の『太陽の季節』から「太陽族」という、若く奔放なエネルギーを持つ世代を指す言葉が生まれたのは、非常に興味深い対比と言えるでしょう。
一つの文学作品が、単なる気象用語を「社会的な没落」の代名詞へと変えた稀有な例です。
まとめ
沈みゆく太陽の光を指す言葉から、時代の変遷に伴う「衰退」の象徴へと定着したこの言葉。
そこには、単なる終わりの宣告だけでなく、かつて確かに存在した栄光への惜別と、滅びゆくものが放つ独特の風情が込められています。
栄枯盛衰は世の常ですが、物事が陰りを見せたとき、その切なさを「斜陽」と呼ぶ日本的な感性は、私たちに時の流れの尊さを教えてくれるのかもしれません。






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