日常のふとした油断が、取り返しのつかない大きな災いを招くことがあります。
静寂が一変し、抗いようのない強大な怒りや危機に直面する。
そんな、危うく恐ろしい行為を、「虎の尾を踏む」(とらのおをふむ)と言います。
意味・教訓
「虎の尾を踏む」とは、きわめて危険な状況に自ら飛び込むことを意味します。
また、並外れて恐ろしい相手に対して、うっかり手出しをしてしまい、大きな災い(しっぺ返し)を招くことのたとえとしても使われます。
語源・由来
「虎の尾を踏む」の語源は、中国最古の古典の一つである『易経』に見られます。
本来は、恐ろしい虎のしっぽを踏んでしまったとしても、噛みつかれさえしなければ物事はうまくいくという、成功へのプロセスや慎重さを説く言葉でした。
日本ではここから「猛獣を怒らせる原因」としての危うさが強調され、現在の意味として定着しました。
虎の尾を履む、人を咥わず、亨る
(とらのおをふむ、ひとをくらわず、とおる)
古くから虎は「圧倒的な恐怖」の象徴でした。
その猛獣の、しかも感覚が鋭く怒りを買いやすい「尾」を刺激するという描写は、人間が犯しうる最大級の不注意を表現するのに適していたと言えるでしょう。
使い方・例文
「虎の尾を踏む」は、平穏な日常が一瞬で危機に変わるような、緊張感のある場面で用いられます。
例文
- 不機嫌な父に小遣いをねだり、虎の尾を踏む結果となった。
- リーダーの不正を暴こうとするのは、虎の尾を踏むような行為だ。
- 強豪チームを無闇に挑発し、虎の尾を踏む。
文学作品・メディアでの使用例
『虎の尾を踏む男達』(黒澤明)
能の「安宅」と歌舞伎の「勧進帳」を題材にした1945年の日本映画です。
源義経一行が、敵の厳しい監視を潜り抜けるという、命がけの逃避行を「虎の尾を踏む」状況に例えています。
(タイトル自体に語句が含まれており、作中の緊張感ある状況を象徴しています)
誤用・注意点
「虎の尾を踏む」は、基本的には自業自得、あるいは無鉄砲な行動による「危機」を指す言葉です。
そのため、以下のようなポジティブな結果には使いません。
- 誤用例:「彼は虎の尾を踏んで、大成功を収めた」
- 正用例:「彼は虎の尾を踏むような危険を承知で、交渉に臨んだ」
また、目上の人の怒りを買う場面で多く使われますが、相手を「虎」に例えることになるため、本人の前で使うのは失礼にあたる可能性があり注意が必要です。
類義語・関連語
「虎の尾を踏む」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 竜の髭を撫でる(りゅうのひげをなでる):
非常に危険な相手に、あえて手出しをすること。 - 逆鱗に触れる(げきりんにふれる):
目上の人を激しく怒らせること。 - 薄氷を踏む(はくひょうをふむ):
きわめて危険な状況にあることのたとえ。 - 危ない橋を渡る(あぶないはしをわたる):
一か八かの危険な手段を用いること。
対義語
「虎の尾を踏む」とは対照的な意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 石橋を叩いて渡る(いしばしをたたいてわたる):
用心の上にさらを用心して、慎重に物事を進めること。 - 転ばぬ先の杖(ころばぬさきのつえ):
失敗しないように、前もって万全の準備をすること。 - 君子危うきに近寄らず(くんしあやうきにちかよらず):
徳のある人は、自分の身を危うくするような場所には近づかないということ。
英語表現
「虎の尾を踏む」を英語で表現する場合、以下の表現が適しています。
Tread on a tiger’s tail
「虎の尾を踏む」という日本語と全く同じ構成の表現です。
「非常に危険なことをする」という意味で、直訳的なニュアンスで通じます。
「危険を冒して相手を怒らせる」
不用意な発言や行動で、力のある相手を激怒させる状況で使われます。
- 例文:
You are treading on a tiger’s tail by criticizing the boss.
(上司を批判するなんて、虎の尾を踏むようなものだ。)
Play with fire
「火遊びをする」という意味から転じて、「身を滅ぼすような危険なことをする」という意味で広く使われます。
「身の危険を顧みず危険なことをする」
深刻な結果を招きかねない無謀な行為を指します。
- 例文:
Investigating the secret is like playing with fire.
(その秘密を探ることは、虎の尾を踏むようなものだ。)
まとめ
「虎の尾を踏む」は、日常の何気ない油断が、取り返しのつかない大きな危機を招くことを教えてくれる言葉です。
相手との力関係や、その場の状況を読み違えることが、どれほど恐ろしい結果につながるか。
この言葉を心に留めておくことで、不用意な一歩を踏み出す前に、ふと立ち止まる冷静さを保てるようになることでしょう。








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