意味
「竜の髭を撫でる(りゅうのひげをなでる)」とは、非常に危険なことに手を出す、あるいは怒らせると恐ろしい相手に不用意に近づくことのたとえです。
想像上の生き物である竜は、古来より強大で神聖な力の象徴とされてきました。
その顔にある髭をわざわざ撫でるという行為は、自ら進んで命を落としかねないほどの無謀な挑戦を意味しています。
語源・由来
「竜の髭を撫でる」は、平安時代の漢詩文集『本朝文粋』に「虎の尾を踏む」と並べた用例があり、鎌倉時代に成立した軍記物語『平家物語』にも出てきます。
巻三「法印問答」に、次の一節があります。
竜の髭をなで、虎の尾をふむ心地はせられけれども
(『平家物語』巻三)
恐ろしい竜の髭を撫でたり虎の尾を踏んだりすることが、きわめて危険な行為の代表として並べて描かれています。
なお、竜の喉元に逆さに生えた鱗に触れると激怒するという「逆鱗」の故事は、中国の古典『韓非子』に見られる別の出典であり、髭にまつわるこの言葉とは起源が異なります。
使い方・例文
「竜の髭を撫でる」は、相手の立場や力量を考えずに、不用意な言動で怒りを買うような場面で使われます。
単なる「危険」ではなく、対象が「逆らうべきではない強者」である場合に用いられるのが特徴です。
例文
- 怒り心頭の父に小遣いの値上げを頼むのは、竜の髭を撫でるようなものだ。
- 厳格な顧問の先生に練習の不満をぶつけるとは、君も竜の髭を撫でる度胸がある。
- あの気難しい取引先に対して無理な要求をするのは、竜の髭を撫でる危うさがある。
「竜の髭を撫でる」と類義語の違い
「危険なことをする」という意味では共通していますが、対象となる相手や、その場のシチュエーションによって使い分けが必要です。
| 語句 | 対象(相手) | ニュアンス | 結末のイメージ |
|---|---|---|---|
| 竜の髭を撫でる | 絶対的な権威者・強者 | 相手の威厳を汚す無謀な挑戦 | 相手の怒りを買い、破滅する |
| 虎の尾を踏む | 恐ろしい存在(上司・強敵) | うっかり、あるいは避けられない極限の危うさ | 猛反撃に遭い、命を落としかねない |
| 逆鱗に触れる | 目上の人・権力者 | 相手が最も嫌がる「地雷」を踏む | 相手が激昂し、手がつけられなくなる |
- 竜の髭を撫でる:自ら進んで相手を刺激する「無鉄砲さ」が強調される。
- 虎の尾を踏む(とらのおをふむ):
一触即発の危機的状況や、うっかり招いた危うさを表す際に最適。 - 逆鱗に触れる(げきりんにふれる):
相手の怒りのスイッチを正確に押してしまったという結果に焦点が当たる。
類義語・関連語
「竜の髭を撫でる」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 虎の尾を踏む(とらのおをふむ):
きわめて危険なことをすること。 - 逆鱗に触れる(げきりんにふれる):
目上の人を激しく怒らせること。 - 危ない橋を渡る(あぶないはしをわたる):
危険な手段をあえて使うこと。 - 火中の栗を拾う(かちゅうのくりをひろう):
他人のために危険なことに手を出すこと。 - 薄氷を踏む(はくひょうをふむ):
非常に危険な状況に身を置くこと。
対義語
「竜の髭を撫でる」とは対照的な、慎重な姿勢を示す言葉は以下の通りです。
- 君子危うきに近寄らず(くんしあやうきにちかよらず):
徳のある人は自分から危険な場所には近づかないということ。 - 触らぬ神に祟りなし(さわらぬかみにたたりなし):
余計な関わりを持たなければ災難に遭うこともないということ。 - 石橋を叩いて渡る(いしばしをたたいてわたる):
用心の上にも用心を重ねること。
英語表現
「竜の髭を撫でる」を英語で表現する場合、以下のような定型句があります。
Beard the lion in his den
「ライオンの巣穴でその髭をつかむ」
非常に危険な場所で、恐ろしい相手に大胆に立ち向かうことを意味します。
It takes a lot of courage to beard the lion in his den and ask for a raise.
(上司の部屋に乗り込んで昇給を頼むのは、相当な勇気がいる。)
Play with fire
「火遊びをする」
転じて、取り返しのつかないような非常に危険なことをすることを指します。
Talking back to the boss now is playing with fire.
(今の部長に口答えをするのは、竜の髭を撫でるようなものだ。)
竜は皇帝の象徴だが、「竜の髭を撫でる」の相手は平清盛
中国の歴史において、竜は皇帝の象徴とされてきました。
皇帝の顔を「竜顔」、衣服を「竜衣」と呼ぶように、竜の字を冠した語で天子にかかわるものを表しました。
ただし『平家物語』で、法印が「竜の髭をなで、虎の尾を踏む心地」で向き合った相手は、天子ではなく平清盛でした。
日本語のこの言い回しは、天子に限らず、怒らせると恐ろしい権力者を相手にする場面で使われています。












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