死んで花実が咲くものか

ことわざ 故事成語
死んで花実が咲くものか(しんではなみがさくものか)

12文字の言葉し・じ」から始まる言葉
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「成功するためなら、寝る間も惜しんで働かなくては」
「将来のために、今はすべてを犠牲にしても構わない」

目標に向かって努力する中で、私たちはつい、自分の健康や命さえも軽視してしまいがちです。
しかし、その先に待つ栄光に、本当に意味はあるのでしょうか。

そんな風に自分の身を削ってまで頑張る人へ、ふと立ち止まるきっかけを与えてくれるのが「死んで花実が咲くものか」ということわざです。
今回は、この力強い言葉に込められた、生きることの尊さを説くメッセージを紐解いていきます。

「死んで花実が咲くものか」の意味・教訓

「死んで花実が咲くものか(しんではなみがさくものか)」とは、死んでしまっては、せっかくの成功も名誉も何の意味もない。生きているからこそ、すべては報われるのだ、という意味のことわざです。

「花実が咲く」とは、努力が実って成功を収めることのたとえです。
このことわざは、どんな立派な花や実も、命を失ってしまっては意味がないと説き、何よりもまず命や健康を大切にすべきだという強いメッセージを伝えています。
過度な自己犠牲に対する、現実的で力強い戒めの言葉です。

「死んで花実が咲くものか」の語源

このことわざは、江戸時代の浄瑠璃・歌舞伎作家である近松門左衛門(ちかまつもんざえもん)の作品『曽根崎心中(そねざきしんじゅう)』の一節が元になったとされています。

物語の中で、主人公の徳兵衛が、友人のために命を捨てて義理を立てるよう迫られる場面があります。
その際、徳兵衛は「死んで花実が咲くものか」という趣旨の言葉で反論します。
つまり、「死んでしまえば、義理も金も名誉も何にもならないじゃないか」と、武士の価値観とは異なる、町人らしい現実的な生命観を吐露するのです。

このセリフが、命あってこその人生だという共感を呼び、ことわざとして広く使われるようになりました。

使用される場面と例文

無茶な働き方をしている人や、危険なことに身を投じようとしている人、将来のために現在を過度に犠牲にしている人をいさめる場面で使われます。

例文

  • 「会社のために体を壊してしまっては元も子もないよ。死んで花実が咲くものか、まずは自分の体を大切にしなさい。」
  • 「危険な儲け話に手を出そうとしている友人に対し、『死んで花実が咲くものか、お金より命が大事だ』と強く説得した。」
  • 「彼は夢を追うあまり、食事もろくにとらない生活を続けている。死んで花実が咲くものかと、周りは心配している。」

類義語・言い換え表現

命や現実的な生活の重要性を説く言葉です。

  • 命あっての物種(いのちあってのものだね):
    何事も命があってこそ可能であり、命が一番大切だということ。意味が非常に近いです。
  • 花より団子(はなよりだんご):
    風流や名誉といった抽象的なものより、実利や食欲など現実的な欲求を優先すること。

対義語

命を懸けてでも、名誉や後世の評価を重んじるべきだ、という価値観を示す言葉が対義語となります。

  • 虎は死して皮を留め、人は死して名を残す(とらはししてかわをとどめ、ひとはししてなをのこす):
    虎が死後も美しい毛皮を残すように、人は死んだ後にこそ良い評判を残すべきだということ。
  • 武士は食わねど高楊枝(ぶしはくわねどたかようじ):
    武士は貧しくて食事をとれなくても、満腹であるかのように楊枝を使い、品格を保つということ。プライドを重んじる姿勢を示します。

英語での類似表現

英語にも、命や健康の価値を説く、似たニュアンスの表現があります。

A live dog is better than a dead lion.

直訳:「生きている犬は、死んだライオンよりましだ。」
意味:たとえみすぼらしくても、生きている方が、立派な死よりも価値があるという教えです。旧約聖書に由来する言葉です。

You can’t take it with you.

直訳:「それを持っていくことはできない。」
意味:富や財産は、死後の世界へは持っていけない、という意味。生きているうちにお金を使うことや、お金より大切なものがあることを示唆します。

まとめ – あなたの「花実」はいつ咲くべきか

「死んで花実が咲くものか」は、近松門左衛門が描いた江戸の町人のリアルな叫びから生まれた、力強い人生賛歌です。これは決して、努力を否定する言葉ではありません。
むしろ、その尊い努力の結晶である「花実」を、あなた自身が笑顔で受け取るために、何よりもまず「今、生きている自分」を大切にしなさい、と教えてくれているのです。

将来の大きな成功も素晴らしいものですが、そのために今日の健康やささやかな幸せをすべて失ってしまっては本末転倒です。
あなたの人生という木に、美しい花と豊かな実がなるように、まずはその根幹である自分自身を労ってあげてはいかがでしょうか。

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