細部にこだわりすぎた結果、かえって全体をダメにしてしまった経験。良かれと思って小さな欠点を直そうとしたのに、土台そのものを壊してしまった後悔。
そのような「本末転倒」な状況を戒める言葉として、「葉を欠いて根を断つ」(はをかいてねをたつ)という表現があります。
この記事では、この言葉の正確な意味や由来、そしてよく似ているけれどニュアンスが異なる類語について、分かりやすく解説します。
意味・教訓
「葉を欠いて根を断つ」とは、「枝葉(末節)を取り除くことに熱中しすぎて、肝心な根(根本・基礎)をダメにしてしまうこと」のたとえです。
植物を育てる際、風通しを良くしたり養分を集中させたりするために、不要な葉を取る(葉を欠く)作業があります。
しかし、「少しでも見栄えを良くしよう」「邪魔な葉を一枚も残さず取ろう」と躍起になりすぎると、植物は光合成ができなくなり、命の源である「根」まで死んでしまいます。
このことから転じて、「小さな欠点や些細な問題を直そうとして、かえって重要な全体を損なうこと」を意味します。
※表記のバリエーション
この言葉には、末尾が異なる表現も存在します。意味はいずれも同じです。
- 「葉を欠いて根を枯らす」(はをかいてねをからす)
※辞書によっては、こちらが見出し語になっていることもあります。
語源・由来
「葉を欠いて根を断つ」の由来は、農作物や園芸における剪定(せんてい)の失敗にあります。
植物にとって、葉は栄養を作るための重要な工場です。
しかし、栽培の過程では、形を整えたり病気を防いだりするために「葉欠き」を行います。
このとき、手段であるはずの「葉を取ること」自体が目的化してしまい、過度に取り去ってしまうと、植物は養分を作れなくなります。
結果として、最も守るべき「根」が衰え、植物全体が枯れて(絶たれて)しまいます。
この園芸上の失敗が、優先順位を見誤り、手段と目的を取り違えることへの戒めとして定着しました。
使い方・例文
「葉を欠いて根を断つ」は、教育、家庭、組織運営など、あらゆる場面での「やりすぎた改善」や「視野の狭いこだわり」に対して使われます。
- 教育・子育て:子供の小さな短所を直そうと叱りすぎて、子供の長所や自己肯定感(根)そのものを潰してしまう状況。
- 家計:わずかな節約のために奔走し、健康を害して医療費がかかったり、家族との時間を失ったりする状況。
- 仕事:資料のレイアウト(枝葉)にこだわりすぎて時間がなくなり、肝心の内容精査ができず企画自体(根)が通らない状況。
例文
- 目先の利益ばかりを追って顧客からの信頼を失うのは、まさに「葉を欠いて根を断つ」行為だ。
- 厳しすぎるルールで部下を縛り付け、チームの士気を下げるのは「葉を欠いて根を断つ」ようなものだ。
- 些細なミスを隠そうとして嘘を重ね、結局すべてを失った彼は、「葉を欠いて根を断つ」の典型と言える。
誤用・注意点
この言葉を使う際に、非常に混同しやすい言葉があります。意味合いが大きく異なるため注意が必要です。
混同注意:「枝を伐りて根を枯らす」
よく似た響きの言葉に「枝を伐りて根を枯らす(えだをきりてねをからす)」がありますが、これは多くの場合、意図的な「戦略」として使われます。
- 葉を欠いて根を断つ:
小さなことにこだわって、意図せず全体をダメにする。(失敗の戒め) - 枝を伐りて根を枯らす:
大木(敵の本体)を倒すために、まず枝(手足となる勢力)を切り落として弱らせる。(攻略の戦略)
前者は「やりすぎによる失敗」、後者は「順序立てた攻略」を指すことが多いため、文脈に合わせて使い分けましょう。
類義語・関連語
「葉を欠いて根を断つ」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 角を矯めて牛を殺す(つのをためてうしをころす):
牛の曲がった角を直そうとして、叩いたり引っ張ったりした結果、牛を死なせてしまうこと。小さな欠点を直そうとして全体をダメにするという意味で、最も近い類義語です。 - 枝を矯めて花を散らす(えだをためてはなをちらす):
枝ぶりを直そうといじりすぎて、肝心の花を散らしてしまうこと。 - 本末転倒(ほんまつてんとう):
物事の根本(重要なこと)と末節(つまらないこと)を取り違えること。 - 木を見て森を見ず(きをみてもりをみず):
細部に気をとられて、全体が見えていないこと。
対義語
「葉を欠いて根を断つ」とは対照的な意味を持つ言葉は以下の通りです。
- 小を捨てて大に就く(しょうをすててだいにつく):
大きな目的や利益のために、小さなことやわずかな損害はあえて犠牲にすること。 - 損して得取れ(そんしてとくとれ):
一時的には損をしても、それが将来の大きな利益につながるようにせよという教え。
英語表現
「葉を欠いて根を断つ」を英語で表現する場合、以下のフレーズが適しています。
Penny wise and pound foolish.
- 意味:「1ペニー(小銭)を賢く使って、1ポンド(大金)を愚かに失う」
- 解説:小さな節約にこだわって、結局大きな損失を出すことを表すことわざです。「安物買いの銭失い」や「一文惜しみの百知らず」に近いニュアンスですが、「細部にこだわって全体を損なう」という文脈でよく使われます。
- 例文:
Buying cheap tools that break easily is penny wise and pound foolish.
(すぐに壊れる安い道具を買うのは、一文惜しみの百知らず[葉を欠いて根を断つ]だ。)
豆知識:園芸における「葉かき」
言葉の由来となった「葉かき」ですが、実際の農業、例えばトマトやキュウリの栽培においては、収穫量を増やすための非常に重要なテクニックです。
古くなった下葉を取り除くことで、風通しを良くし、病気を防ぎ、実に十分な栄養を行き渡らせる効果があります。しかし、重要なのは「適度に行う」こと。
光合成を行う葉を必要以上に取り去ってしまえば、植物はエネルギー不足に陥ります。
「過ぎたるは猶及ばざるが如し」という言葉通り、どんなに正しい手入れ(改善)であっても、限度を超えれば毒になるという自然の摂理が、このことわざには込められています。
まとめ
「葉を欠いて根を断つ」は、部分的な修正やこだわりに熱中するあまり、全体のバランスや根本的な目的を破壊してしまう愚かさを説く言葉です。
完璧を目指すのは良いことですが、その努力が「何のためのものか」を見失っては意味がありません。
ふと作業に没頭しすぎて周りが見えなくなったとき、この言葉を思い出せば、「本当に守るべき根っこ」が何であるかに立ち返ることができることでしょう。





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