どんなに優れた技術を持つ人であっても、ふとした拍子にミスをしてしまうことはあるものです。
また、少し自信過剰になっている時に限って、思わぬ失敗をしてしまうこともあるでしょう。
そんな、達人や実力者の意外な失敗を指す言葉が、
「天狗の飛び損ない」(てんぐのとびそこない)です。
意味
「天狗の飛び損ない」とは、その道に秀でた名人や達人であっても、時には失敗することがあるというたとえです。
- 天狗(てんぐ):
神通力を持ち、空を自由に飛び回るとされる伝説上の怪物。 - 飛び損ない(とびそこない):
飛ぶことに失敗すること。
空を飛ぶことを得意とする天狗でさえ、たまには着地に失敗したり、飛び誤ったりすることがあるという様子から来ています。
基本的には「誰にでも間違いはある」という慰めや擁護の意味で使われますが、「天狗=高慢」というイメージから、慢心して失敗した人への皮肉として使われることもあります。
語源・由来
「天狗の飛び損ない」の由来は、日本古来より伝わる伝説上の生き物「天狗」の並外れた能力に基づいています。
天狗は、背中に翼を持ち、自由自在に空を飛ぶ神通力(超能力)を持つ存在として知られています。
古くから山岳信仰や民話の中で、人知を超えた力を持つ恐ろしくも優れた存在として描かれてきました。
この言葉は、そんな「空を飛ぶプロフェッショナル」である天狗でさえも、万が一には飛び損なうことがあるという想像から生まれました。
「絶対に失敗しないと思われるような達人でも、過ちを犯すことは避けられない」という教訓が、親しみやすい妖怪の姿を借りて表現されています。
使い方・例文
「天狗の飛び損ない」は、専門家や実力者が珍しくミスをした際に使われます。
本人が失敗を悔やんでいる時に「誰にでもあることだ」と慰める文脈で使うこともあれば、得意になって油断している人が失敗した際に「調子に乗るからだ」と戒める文脈で使うこともあります。
例文
- 彼ほどのベテランが計算を間違えるとは、まさに天狗の飛び損ないだ。
- 天狗の飛び損ないと言うし、一度のミスでくよくよすることはないよ。
- 完全無欠に見える部長でも、たまには天狗の飛び損ないがあるものですね。
誤用・注意点
目上の人に対して使う場合は注意が必要です。
「天狗」という言葉には「うぬぼれ屋」「高慢な人」(例:天狗になる)というネガティブな意味合いが含まれています。
そのため、目上の人の失敗をフォローするつもりで使っても、「あなたは普段から天狗(調子に乗っている)だから失敗した」という皮肉に受け取られるリスクがあります。
目上の人には「弘法にも筆の誤り」や「猿も木から落ちる」を使う方が無難です。
類義語・関連語
「天狗の飛び損ない」と似た意味を持つ言葉には、動物や歴史上の人物を使った多くの表現があります。
- 猿も木から落ちる(さるもきからおちる):
木登りが得意な猿でも落ちることがある。最も一般的で広く使われる表現。 - 弘法にも筆の誤り(こうぼうにもふでのあやまり):
書道の達人である弘法大師(空海)でも、書き損じることがあるということ。 - 河童の川流れ(かっぱのかわながれ):
泳ぎの名手である河童でも、水に流されることがあるということ。 - 上手の手から水が漏れる(じょうずのてからみずがもれる):
どんなに上手な人でも、時には失敗することがあるというたとえ。
対義語
「天狗の飛び損ない」とは対照的な意味を持つ言葉は以下の通りです。
- 愚者の一得(ぐしゃのいっとく):
愚かな者でも、時には良い考えを出すことがあるということ。「千慮(せんりょ)の一失」と対になって使われることが多い言葉です。
英語表現
「天狗の飛び損ない」を英語で表現する場合、歴史的な詩人を使ったことわざが有名です。
Even Homer nods.
- 意味:「ホメロスでさえ居眠りをする」
- 解説:『イリアス』や『オデュッセイア』を書いた古代ギリシャの大詩人ホメロスでさえ、時には退屈な詩を書いたり、ミスをしたりするという意味。「弘法にも筆の誤り」に非常に近いニュアンスです。
- 例文:
Don’t be so hard on yourself. Even Homer nods.
(自分をそんなに責めるなよ。天狗の飛び損ないというだろ。)
天狗にまつわる豆知識
ちなみに、この言葉に使われている「天狗」は、ことわざや慣用句の世界では「慢心」や「自慢」の象徴として扱われることがほとんどです。
- 「天狗になる」:
得意になって自慢する、うぬぼれるという意味。鼻が高い天狗の姿から、鼻高々になる様子を指しています。
このため、「天狗の飛び損ない」という言葉にも、単なる「達人の失敗」という意味以上に、「自信過剰になっていると痛い目を見るぞ」という油断への戒めのニュアンスが、他の類語(猿や河童)よりも強く感じられることがあります。
まとめ
「天狗の飛び損ない」は、どんなに優れた能力を持つ人でも失敗することはある、という事実をユーモラスに表現した言葉です。
自分や他人がミスをした時に「完璧な人間はいない」と肩の力を抜くための言葉としても、また「得意なことこそ油断してはいけない」という戒めの言葉としても、心に留めておくとよい教訓と言えるでしょう。







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