ことわざ 慣用句

悪貨は良貨を駆逐する

(あっかはりょうかをくちくする)

質の悪いものが普及し、質の良いものが排除されること。

異形:悪貨は良貨を駆逐す

14文字の言葉 / 「あ」から始まる言葉
悪貨は良貨を駆逐する ことば
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意味

「悪貨は良貨を駆逐する(あっかはりょうかをくちくする)」とは、額面が同じで実質的価値が異なる二種類の貨幣が流通すると、人々は価値の高い「良貨」を手元に蓄え、価値の低い「悪貨」を支払いに使うため、市場に質の悪い貨幣だけが残るという法則を指します。

現在では経済の枠組みを超え、「劣ったものがはびこることで、優れたものが排除される」という社会現象や組織の腐敗を批判する際にも用いられます。

  • 悪貨(あっか):素材としての価値を意図的に下げた質の悪い貨幣。
  • 良貨(りょうか):素材そのものに十分な価値がある質の良い貨幣。
  • 駆逐(くちく):邪魔なものを追い払うこと。

語源・由来

「悪貨は良貨を駆逐する」の由来は、16世紀のイギリス国王エリザベス1世に仕えた財政家、サー・トーマス・グレシャムの名を冠した「グレシャムの法則」にあります。
ただしグレシャム自身がこの法則を唱えたわけではなく、名づけたのは19世紀の経済学者ヘンリー・ダニング・マクラウドです。

エリザベス1世の父ヘンリー8世と、その子エドワード6世の時代のイギリスでは、財政を補うために銀の含有量を下げた質の悪い貨幣が発行されました。
すると人々は、純度の高い「良貨」を地金として溶かしたり貯蔵したりして、市場には「悪貨」だけを流すようになりました。
この状況をグレシャムが女王への書簡で指摘したことが起源とされています。

この現象は古代から知られており、紀元前405年のアリストパネスの喜劇『蛙』にも、立派な硬貨が避けられ質の悪い銅貨ばかりが使われる状況の記述が見られます。

使い方・例文

「悪貨は良貨を駆逐する」は、経済現象の説明だけでなく、質の低いものが蔓延して優れたものが排除される状況全般で用いられます。
主に組織の腐敗、情報の劣化、市場の質の低下などを批判・警告する文脈で使われます。

例文

  • 不確かな噂の拡散は、まさに悪貨は良貨を駆逐する典型だ。
  • 実力者が去った今の職場は、悪貨は良貨を駆逐する状態にある。
  • 派手な意見ばかりが通り、悪貨は良貨を駆逐するように誠実な案が消えた。

誤用・注意点

「悪貨は良貨を駆逐する」を、「悪いことをすれば報いを受ける」といった勧善懲悪の意味で使うのは間違いです。
あくまで「質の悪いものが優勢になり、良いものが排除される」という、価値の逆転現象を指す言葉です。

また、この言葉は現状を肯定するものではなく、批判的なニュアンスを含みます。
特定の集団を指して「悪貨」と呼ぶことは、相手を強く否定することに繋がるため、慎重な判断が求められます。

類義語・関連語

「悪貨は良貨を駆逐する」と似た意味を持つ言葉や、関連する学術的な概念には以下のようなものがあります。

  • グレシャムの法則:
    「悪貨は良貨を駆逐する」の別名であり、経済学においてこの現象を指す正式な名称。
  • レモン市場:
    売り手と買い手の情報格差(情報の非対称性)により、質の高い商品が排除され、劣悪な商品やサービスばかりが流通してしまう現象。
    1970年に経済学者ジョージ・アカロフが、中古車市場を例に「逆選択」の仕組みとして提唱した。
  • 逆選抜(ぎゃくせんばつ):
    情報の格差がある状況下で、本来選ばれるべき優れた対象ではなく、むしろ望ましくない劣った対象が選ばれてしまうこと。
  • 正直者が馬鹿を見る(しょうじきものがばかをみる):
    正当に努力する者や規則を守る者が損をし、狡賢く立ち回る者が利益を得る不条理な社会状況。
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対義語

「悪貨は良貨を駆逐する」とは対照的な、優れたものが正当に評価されたり、悪いものが除かれたりする状況を指す言葉には、以下のようなものがあります。

  • ティエールの法則:
    通貨の価値が極端に不安定になった際、人々が質の悪い貨幣を拒絶して信頼できる貨幣を求めるため、良貨が悪貨を駆逐する現象。
  • 淘汰(とうた):
    不必要なものや質の劣るものが取り除かれ、優れたものや適したものだけが残ること。
  • 自然淘汰(しぜんとうた):
    環境に適応した優れたものが生き残り、適さないものが自然に消えていくプロセス。
  • 正直者は報われる(しょうじきものはむくわれる):
    不正をせず誠実に努力する人が、最終的には正当な評価や幸福を得るべきだという考え。

英語表現

「悪貨は良貨を駆逐する」を英語で表現する場合、以下の定型表現が用いられます。

Bad money drives out good

「悪貨は良貨を追い出す」
直訳通りの表現であり、英語圏でも非常に一般的なことわざとして定着しています。

In the information age, bad money drives out good, as fake news spreads faster.
(情報化社会では、悪貨は良貨を駆逐するように、偽ニュースの方が早く広まる。)

Gresham’s Law

「グレシャムの法則」
学術的、あるいは知的な文脈で、現象そのものを指し示す際に使われます。

We must ensure that Gresham’s Law doesn’t take hold in our workplace.
(職場にグレシャムの法則が根付かないようにしなければならない。)

17世紀イギリス、削られた銀貨が新しい銀貨を追い出す

グレシャムが女王に書簡を送ってからおよそ100年後のイギリスで、この言葉どおりのことが起きました。
当時の銀貨は、含まれる銀の重さが価値でした。
手で打って作った古い銀貨には、縁を削り取られて軽くなったものが多く出回っていました。

1662年、王立造幣局は、縁に模様や刻みを入れて削れないようにした機械打ちの銀貨を造り始めます。
ところが人々は、削られた古い銀貨を支払いに使い、重さのそろった新しい銀貨は手元にため込んだり、溶かして国外へ運んだりしました。
新しい銀貨が出回るようになったのは、古い銀貨が1695年に通用を止められ、翌年から大がかりな改鋳かいちゅう(= 貨幣を溶かして造り直すこと)が行われてからです。

縁の刻みで新しい「良貨」を守っても、削られた「悪貨」が使える間は、良貨は市場から消えました。
「悪貨は良貨を駆逐する」動きが止まったのは、悪貨そのものを使えなくしてからでした。

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