意味
「羊の歩み(ひつじのあゆみ)」とは、屠り場に向かって歩かされる羊のように、逆らうすべもなくじりじりと破滅への道をたどっていくという意味です。
転じて、単に過ぎ去っていく年月や時の流れそのものを指すこともあります。
- 歩み(あゆみ):一歩ずつ進むこと、またその歩調。
語源・由来
「羊の歩み」は、仏教経典『大般涅槃経』(北本)に見える比喩に由来するという説が有力です。
屠殺場へ連れていかれる羊は、逆らうすべもなく、ただ一歩ずつ死に近づいていきます。
この姿が、逃れようのない運命へと向かう人間の姿、また止めることのできない時の流れの比喩として、日本語のことわざに取り入れられた、と考えられています。
使い方・例文
「羊の歩み」は、死や終わりが近づく状況、また時の流れの重さを表す場面で使われます。
- 回復の見込みが薄いと告げられ、羊の歩みのような日々を過ごした。
- あっという間だった若い頃と違い、今の一年は羊の歩みのように重い。
- 交渉が決裂へ向かう空気は、羊の歩みさながらだった。
類義語・関連語
同じく屠殺場へ引かれる羊の姿に由来する言葉には、次のようなものがあります。
- 屠所の羊(としょのひつじ):
死や不幸を前に、気力を失った様子。
現在では、比喩として使うと差別的な表現になるとされる。
「羊の歩み」と「屠所の羊」の違い
どちらも『大般涅槃経』にある、屠殺場へ引かれる羊の姿を由来とする点で共通しますが、力点が異なります。
「羊の歩み」は死や時間が近づいてくる過程そのものに、「屠所の羊」はその状況に置かれた人の気力を失った様子に重きを置きます。
英語表現
a lamb led to the slaughter
屠殺場に引かれる子羊のように、無抵抗のまま運命を受け入れる人や状況を表す慣用句。
He went into the meeting like a lamb led to the slaughter, with no idea what was coming.
(彼は何が起こるか知らないまま、屠殺場に引かれる子羊のように会議に臨んだ。)
『源氏物語』浮舟の巻の「羊の歩み」
『源氏物語』の「浮舟」の巻で、二人の男性の間で思い悩んだ浮舟は、宇治川に身を投げようと思い詰めます。
夜は家を抜け出す道を考えて眠れず、夜が明けると川のほうを見やりながら、「羊の歩みよりもほどなき心地す」(羊の歩みよりも、死までの間が短い気がする)と感じます。
平安時代の終わりごろの注釈書『源氏釈』は、この一節のもとになった言葉として、涅槃経の比喩と、『千載和歌集』に載る赤染衛門の歌「けふもまた午の貝こそ吹きつなれ羊の歩み近づきぬらむ」を挙げています。











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