仏教由来 慣用句

屠所の羊

(としょのひつじ)

死や不幸が刻一刻と迫っていることのたとえ。


7文字の言葉 / 「と・ど」から始まる言葉
屠所の羊 ことば
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意味

「屠所の羊(としょのひつじ)」とは、死や不幸が刻々と近づいてきている状況をたとえた言葉です。
また、絶望的な状況を前に気力を失い、うなだれている人の様子を指すこともあります。

  • 屠所(としょ):家畜を屠ほふる場所、屠殺場。

語源・由来

「屠所の羊」は、仏教経典『大般涅槃経』(北本)にみえる比喩に由来するという説が有力です。
経の中では、牛や羊が屠殺場へ引かれていく姿が、寿命が刻々と減って死に近づいていくことのたとえとして挙げられています。
この比喩が日本語のことわざとして定着した、とされています。
なお「北本」とは、北涼の曇無讖どんむせんが漢訳した系統の涅槃経を指し、後に整理された「南本」と区別する呼び方です。

使い方・例文

「屠所の羊」は、死や不幸を前にした人の心境を表す際に使われます。

  • 重い病を宣告された彼は、屠所の羊のように肩を落として病室を出た。
  • 倒産が決まった会社に残る社員たちは、屠所の羊さながらの表情だった。
  • 逃げ場のない状況に、彼女は屠所の羊のごとくうなだれるしかなかった。

ただし現在では、比喩として使うと差別的な表現になるとされます。
食肉処理の仕事は部落差別と深く関わってきた歴史があり、今もそこで働く人への偏見が残っているため、「屠所」を不幸のたとえに使うことには配慮が要ります。
人の落胆ぶりを言うなら、「肩を落とす」「打ちひしがれる」などと言い換えられます。

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類義語・関連語

同じく屠殺場へ引かれる羊の姿に由来する言葉には、次のようなものがあります。

  • 羊の歩み(ひつじのあゆみ):
    死や時間が刻一刻と近づいてくる過程。

「屠所の羊」と「羊の歩み」の違い

どちらも『大般涅槃経』にある、屠殺場へ引かれる羊の姿を由来とする点で共通しますが、力点が異なります。
「屠所の羊」は死を前にした人の気力を失った様子に、「羊の歩み」は死や時間が近づいてくる過程そのものに重きを置きます。

英語表現

a lamb to the slaughter

屠殺場に引かれる子羊のように、抵抗する気力もなく運命を受け入れる人の心境を表す慣用句。

He walked into the boss’s office like a lamb to the slaughter, already knowing he’d be fired.
(彼は解雇されることを悟りながら、屠所の羊のように上司のオフィスへ向かった。)

「屠所の羊」のもとの比喩は「牛羊」

『大般涅槃経だいはつねはんぎょう』は、釈迦が亡くなる直前の教えを説いたとされる大乗仏教の経典です。
屠所へ引かれる羊の比喩は、北本の第38巻に出てきます。
寿命が一瞬ごとに減っていくことを心に思い描く「死想しそう」という修行を説く箇所です。
寿命は山から流れ落ちる水のように止まらず、朝露のように長くはもたないと述べたあと、次のように続きます。

如囚趣市步步近死。如牽牛羊詣於屠所。
(罪人が処刑の行われる市へ向かい、一歩ごとに死に近づくように、牛や羊が引かれて屠所に行くように。)

経のもとの言葉は羊だけでなく「牛羊」で、日本語のことわざには羊だけが残りました。
前半の「一歩ごとに死に近づく」は、同じ比喩から出た「羊の歩み」の意味そのものです。

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