怒りを遷す

『怒りを遷す』の文字サムネイル 個別解説
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ある出来事への怒りを、まったく関係のない人や物にぶつけてしまう。
そんな八つ当たりを戒める際に使われるのが、「怒りを遷す」(いかりをうつす)です。

意味

「怒りを遷す」とは、ある対象への怒りを、関係のない別の人や物に向けることという意味です。いわゆる八つ当たりを指し、本来は望ましくない行いとして戒めの文脈で使われます。

  • 遷す(うつす):ある場所や対象から、別の場所や対象へ移す。

語源・由来

「怒りを遷す」という言葉は、中国の思想家・孔子の言行録『論語』の「雍也篇」に由来します。
魯の国の君主であった哀公が、弟子の中で誰が最も学問を好んでいたかを孔子に尋ねたところ、孔子は「顔回という者が、学問を好んでおりました」と答えました。
そして、顔回の人柄について「怒りを遷さず、過ちを弐びせず」、つまり、怒りを他人に向けることがなく、同じ過ちを二度と繰り返すことがなかった、と評しています。
この「遷怒(せんど)」、すなわち怒りを関係のない相手に向けてしまう行いを戒める考え方が、「怒りを遷す」という言葉の背景にあります。
本来は「遷さず」と否定の形で理想の人格を語った言葉ですが、日本語では「怒りを遷す」という形で、戒めるべき八つ当たりの行為そのものを指す表現として使われています。

使い方・例文

「怒りを遷す」は、無関係な人や物に感情をぶつける行為を指摘したり、戒めたりする場面で使われます。

  • 仕事の失敗を家族に怒りを遷すのはよくない。
  • 部下に怒りを遷すような上司は、信頼を失う。
  • 八つ当たりだとわかっていても、つい怒りを遷してしまうことがある。

類義語・関連語

「怒りを遷す」と同様に、無関係な相手へ感情を向ける行為を表す言葉には以下のようなものがあります。

  • 八つ当たり(やつあたり):関係のない人や物に怒りをぶつけること。
  • 不遷怒(ふせんど):怒りを他人に向けない、という『論語』に由来する徳目。

顔回が体現した二つの徳

『論語』において、孔子から「学を好む」と評された弟子は、多くの門人の中で顔回ただ一人でした。
孔子が顔回を評価した理由は、知識の量ではなく、「怒りを他人に向けない」「同じ過ちを繰り返さない」という、感情と行動を制御する姿勢にありました。
この二つの徳目は「不遷怒、不弐過」という言葉で語られ、後世の学者たちによって、自己を厳しく律する人格の理想として繰り返し引用されてきました。
怒りという感情そのものを否定するのではなく、その矛先を無関係な対象に向けることを戒める考え方は、2500年近く前の思想でありながら、現代でいう「八つ当たり」の問題ともそのまま重なります。

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