鎧の袖がわずかに触れただけで、相手が呆気なく倒れてしまう。
そんな圧倒的な力の差を表すのが、「鎧袖一触」(がいしゅういっしょく)です。
意味
「鎧袖一触」とは、取るに足らない相手を、いともたやすく打ち負かすことという意味です。
実力差があまりに大きく、まともに戦う価値もないと言わんばかりの、やや高圧的な響きを持つ言葉です。
- 鎧袖(がいしゅう):鎧の袖の部分。
- 一触(いっしょく):一度触れること。
語源・由来
「鎧袖一触」は、江戸時代後期の歴史家頼山陽が著した歴史書『日本外史』に記された言葉に由来するとされています。
舞台となるのは、皇位継承や政権の主導権をめぐって貴族や源氏・平家の武士が争った保元の乱です。
弓の名手として知られた源為朝は、崇徳上皇方の総大将を務めた藤原頼長に対し、自らの武勇を頼りに強気の作戦を進言しました。
その中で為朝は、敵方についた平清盛らを名指しし、「臣(自分)の鎧の袖が一度触れれば、あの者たちはひとりでに倒れるだけだ」という趣旨の言葉を残しています。
本格的に矛を交えるまでもなく、軽く触れる程度で相手を圧倒できるという、豪胆な自信の表れでした。
使い方・例文
「鎧袖一触」は、実力差が歴然としている勝負や、一方的な圧勝で片づく場面で使われます。
- 横綱の実力は別格で、格下の力士を鎧袖一触で退けた。
- 世界王者にとって、国内の挑戦者など鎧袖一触だ。
- あの選手の腕前なら、格下相手は鎧袖一触だろう。
アニメ作品での使用例
『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』(サンライズ)
主人公陣営と敵対するエースパイロット、アナベル・ガトーが、格下のモビルスーツを瞬時に撃破した際の台詞として知られる。
なんと他愛のない…鎧袖一触とはこのことか…。
類義語・関連語
「鎧袖一触」と同様に、圧倒的な実力差を表す言葉には以下のようなものがあります。
- 赤子の手を捻る(あかごのてをひねる):
抵抗する力がないほど無力な相手を打ち負かす様子。 - 物の数ではない(もののかずではない):
比較の対象にすらならないほど格下である様子。
「鎧袖一触」と「赤子の手を捻る」の違い
どちらも圧倒的な実力差をたとえた言葉ですが、ニュアンスには違いがあります。
「鎧袖一触」は武力や実力で相手をねじ伏せる勇ましい響きを持つのに対し、「赤子の手を捻る」は赤ん坊のように無抵抗な相手を扱う容易さに重きを置いた表現です。
| 語句 | ニュアンス | 主に使う場面 |
|---|---|---|
| 鎧袖一触 (がいしゅういっしょく) | 武力・実力による圧倒的な差 | 勝負、対戦、競争 |
| 赤子の手を捻る (あかごのてをひねる) | 相手が無抵抗なほど非力なこと | 日常会話、たとえ話全般 |
英語表現
be no match for
「〜に到底かなわない」という意味の表現。実力差がありすぎて、勝負にすらならない相手を形容する際に使われる。
The rookie was no match for the reigning champion.
(新人は現チャンピオンの相手ではなかった。)
a walk in the park
散歩するくらい気楽で簡単なことを表す表現。相手が弱すぎて、労せず片づく状況を表す際に用いられる。
Beating that team was a walk in the park for the defending champions.
(あのチームを倒すことは、前回覇者にとって朝飯前だった。)
豪語の代償
保元の乱で源為朝が示した強気の作戦は、実際には総大将の藤原頼長に退けられました。
為朝は敵陣への夜襲を主張しましたが、頼長は貴族らしい正攻法にこだわり、結果として崇徳上皇方は後白河天皇方に敗れています。
乱後、剛弓の使い手として恐れられた為朝は捕らえられ、伊豆大島へ流されました。
敵を一蹴する勢いで語られた言葉とは対照的に、それを口にした本人の戦いは思うようには運ばなかったことになります。









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