ことわざや慣用句、四字熟語の中には、意味を知ると思わずニヤリとしてしまう、通好みの言い回しがまだまだ眠っています。誰もが知る定番の面白い言葉とは一味違う、あまり知られていないけど面白い表現を50個集めました。
動物のユーモラスな習性
身近な動物の姿や習性を切り取って、人の様子にたとえた言葉です。
- 鴨の水搔き(かものみずかき):
水面ではのんびり浮かぶ鴨も、水中では絶えず足を動かしている。その見えない努力を人にたとえた言葉。 - 蚤の夫婦(のみのふうふ):
ノミは実際に雌のほうが雄より大きい。その生態をそのまま、妻の体格が夫より大きい夫婦にあてはめた言い方。 - 鵜のまねをする烏(うのまねをするからす):
鵜のように水に潜って魚を捕ろうとしても、羽の油が違う烏は溺れるだけ。身の丈に合わない真似の末路。 - 兎の登り坂(うさぎののぼりざか):
前足が短く後ろ足が長い兎は、坂道を駆け上がるのが得意。得意分野で調子よく進む様子をたとえた言葉。 - 蟻の思いも天に届く(ありのおもいもてんにとどく):
地を這う小さな蟻でも、一心に願えば天に届く。弱小な者の努力もいつか実るという励ましの言葉。 - 蛞蝓に塩(なめくじにしお):
塩をかけられたナメクジがみるみる縮む様子から。すっかり元気をなくし、しょげ返る姿をたとえた言葉。 - 呉牛喘月(ごぎゅうぜんげつ):
暑さの厳しい呉の国の水牛は、太陽と間違えて月を見ただけで喘いでしまう。過去の失敗に必要以上に怯える様子。
血筋・身の程・老いを語る言葉
生まれ持った性質や、自分の立場をわきまえることについての言葉です。
- 瓜の蔓に茄子はならぬ(うりのつるになすびはならぬ):
瓜のつるからは瓜しか実らないように、平凡な親からは平凡な子しか生まれないという教え。 - 蟹は甲羅に似せて穴を掘る(かにはこうらににせてあなをほる):
蟹は自分の甲羅の大きさぴったりの穴しか掘れない。人も身の丈に合った振る舞いしかできないという戒め。 - 亀の甲より年の劫(かめのこうよりとしのこう):
長生きした亀の甲羅より、長年積んだ経験(劫)のほうが値打ちがあるという語呂合わせのことわざ。 - 麒麟も老いては駑馬に劣る(きりんもおいてはどばにおとる):
一日に千里を走るという名馬・麒麟でさえ、年老いれば足の遅い駄馬にも劣るという話。
釣り合わない話
形や見た目は似ていても、中身や価値がまるで釣り合わない様子を表す言葉です。
- 提灯に釣鐘(ちょうちんにつりがね):
どちらも吊り下げて使う点は似ていても、重さはまるで違う。釣り合わない組み合わせのたとえ。 - 蛸配当(たこはいとう):
空腹のタコが自分の足を食べるという俗説になぞらえた、利益がないのに無理やり出す見せかけの配当。 - 猿に烏帽子(さるにえぼし):
猿に人間の正装である烏帽子をかぶせても様にならない。似合わない格好や不釣り合いな地位のたとえ。 - 猫に鰹節(ねこにかつおぶし):
好物の鰹節を猫のそばに置けば食べられるのは当然。油断していると危険な誘惑に負けてしまうというたとえ。 - 鰯網で鯨を捕る(いわしあみでくじらをとる):
鰯を捕るための粗い網に、思いがけず鯨がかかる。ささやかな仕掛けで得た予想外の大きな幸運。
人物の生き方を映す四字熟語
中国の古典に由来し、人の生き方や地位への向き合い方を映す四字熟語です。
- 曲学阿世(きょくがくあせい):
『史記』儒林列伝に由来。学問の真理をねじ曲げてまで、権力者や世間に媚びへつらう学者の姿を指す。 - 鴻鵠の志(こうこくのこころざし):
秦末の反乱を率いた陳勝の「燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らんや」から。小鳥には大鳥の志が分からないという意味。 - 尸位素餐(しいそさん):
「尸」は祭祀で位牌代わりに座る人、「素餐」はただ飯を食う人の意。地位に見合う仕事をせず俸給だけ得る様。 - 羊頭狗肉(ようとうくにく):
店先に羊の頭を掲げておきながら、実際には犬の肉を売る商人の話に由来。看板と中身が食い違う様。 - 病膏肓に入る(やまいこうこうにいる):
病が体の急所「膏肓」に逃げ込み、名医でも手が出せなくなったという中国の故事から。物事への熱中にも使う。 - 洛陽の紙価を高める(らくようのしかをたかめる):
晋の左思の書いた文が評判となり、写本用の紙が値上がりしたという故事から。著作が大評判になること。
駆け引きと争いを描く四字熟語
優柔不断な態度や、駆け引き・争いの構図を描いた四字熟語です。
- 首鼠両端(しゅそりょうたん):
ネズミが穴から頭だけ出して周囲をきょろきょろ窺う様子から。どちらつかずで決断できない態度をいう。 - 鶏鳴狗盗(けいめいくとう):
鶏の鳴き真似が上手い者と、犬のように忍び込むのが得意な盗人。孟嘗君を救ったつまらない特技の逸話から。 - 蝸牛角上の争い(かぎゅうかくじょうのあらそい):
カタツムリの左右の角にそれぞれ国があり、領土をめぐって争ったという『荘子』の寓話から。 - 曳尾塗中(えいびとちゅう):
神聖な亀として祭られるより、泥の中を尾を引きずって生きたいと語った荘子の逸話から。自由な生き方を選ぶ心。 - 磨斧作針(まふさくしん):
学問を投げ出しかけた李白が、斧を研いで針を作ろうとする老婆の根気に感心し、学問に戻ったという故事から。
中国故事に学ぶ処世の知恵
中国の故事に由来し、危機への備えや因果応報を説く四字熟語です。
- 狡兎三窟(こうとさんくつ):
すばしっこい兎は逃げ穴を三つ持つという孟嘗君の逸話から。危機に備えて複数の避難策を用意しておく賢さ。 - 兎死狗烹(としくほう):
兎を捕り終えた猟犬は用済みとして煮て食われる。功労者でも用が済めば切り捨てられる、という冷徹な処世の現実。 - 曲突徙薪(きょくとつししん):
煙突を曲げ薪を遠ざけておけば火事は防げたのに、と忠告を聞かなかった家の話から。災いを未然に防ぐ大切さ。 - 邯鄲の歩み(かんたんのあゆみ):
都会人の洒落た歩き方を真似ようとした田舎者が、結局自分の歩き方まで忘れてしまったという話から。他人の真似の失敗。 - 鼓腹撃壌(こふくげきじょう):
満腹の腹をぽんぽんと打ち鳴らし、地面を踏み鳴らして喜ぶ老人の姿から。政治を意識しないほど太平な世の中。
男女・人間関係にまつわる言葉
夫婦や恋人同士の結びつきと、その反対の理不尽さを表す言葉です。
- 鴛鴦の契り(えんおうのちぎり):
おしどりの雄と雌は常につがいで離れないとされることから、仲むつまじい夫婦の契りをたとえた言葉。 - 比翼連理(ひよくれんり):
白居易「長恨歌」の「天にあっては願わくば比翼の鳥となり」の一節に由来。一心同体の男女の深い愛情を表す。 - 破鏡重円(はきょうじゅうえん):
戦乱で離ればなれになる夫婦が鏡を半分ずつ持ち合い、後に再会を果たしたという中国の故事から。 - 生木を裂く(なまきをさく):
まだ水分を含んだ生きた木を無理やり裂くように、仲むつまじい男女の仲を強引に引き離すことのたとえ。
失敗とごまかしを表す言葉
失敗をとぼけたり、うっかり取り繕おうとしたりする様子を表す言葉です。
- 屁を放って尻窄める(へをひってしりすぼめる):
音もにおいも出た後で尻を締めても意味がないように、失敗した後の取り繕いが無駄であることのたとえ。 - 猫糞を決め込む(ねこばばをきめこむ):
猫が排泄物を砂で隠す習性になぞらえ、悪事や拾い物を隠して素知らぬ顔をする様子をいう。 - 舌の根の乾かぬうち(したのねのかわかぬうち):
言い終えて舌がまだ湿っているうちに前言と正反対のことをする、身も蓋もない言行不一致への皮肉。 - 馬鹿の一つ覚え(ばかのひとつおぼえ):
一つだけ覚えたことを、場面もわきまえず得意げに繰り返す様子。融通の利かなさをからかう言い方。 - 生兵法は大怪我の基(なまびょうほうはおおけがのもと):
中途半端にかじった兵法や剣術ほど、実戦ではかえって大怪我のもとになるという教え。
皮肉と因果応報を表す言葉
中国の故事や日本の言い伝えに見られる、皮肉や因果応報を描いた言葉です。
- 白眼視(はくがんし):
中国の隠者・阮籍が気に入らない相手には白目をむいて応対したという故事から。冷ややかに人を見下すこと。 - 守株(しゅしゅ):
偶然切り株にぶつかって死んだ兎を見て、農夫が畑仕事をやめて切り株を見張り続けたという故事。まぐれの幸運に頼る愚かさ。 - 大山鳴動して鼠一匹(たいざんめいどうしてねずみいっぴき):
大きな山が轟音を立てて揺れたと思ったら、出てきたのはねずみ一匹。前触れの大きさに反して結果が小さいこと。 - 雉も鳴かずば撃たれまい(きじもなかずばうたれまい):
隠れていた雉も鳴き声を上げたせいで居場所が知れ、撃たれてしまう。余計な一言が身を滅ぼす戒め。
語感と構造が面白い言葉
音の響きや言葉の組み立て方そのものに面白みがある言葉です。
- 呵呵大笑(かかたいしょう):
禅の問答集『景徳伝灯録』にある、機知に富んだやり取りに大笑いする僧の様子から。からからと大声で笑うこと。 - 鎧袖一触(がいしゅういっしょく):
『日本外史』にある源為朝の「敵など鎧の袖が触れる程度で倒れる」という啖呵から。圧倒的な力の差をいう。 - 鰥寡孤独(かんかこどく):
妻を亡くした夫、夫を亡くした妻、親のない子、子のない老人という4つの立場を表す言葉。 - 麦秀の嘆(ばくしゅうのたん):
滅んだ故国の宮殿跡に麦が生い茂るのを見て、王族の生き残りが涙したという故事から。亡国を嘆き悲しむこと。 - 沈香も焚かず屁もひらず(じんこうもたかずへもひらず):
香木を焚いて良い香りを漂わせるわけでもなく、屁で臭わせるわけでもない。可もなく不可もない平凡な人物のたとえ。
同じ「面白い言葉」でも、生まれた道のりは違う
今回集めた言葉を見比べると、生まれ方が異なる二つの系統があることに気づきます。「鴨の水搔き」や「蚤の夫婦」のように、身近な動物の姿から生まれた和語の言い回しがひとつ。もうひとつは「首鼠両端」や「鶏鳴狗盗」のように、中国の史書や思想書にある一つの出来事を、わずか4文字に圧縮した四字熟語です。後者の多くは『史記』『荘子』『漢書』といった書物のエピソードが元になっており、当時の人物や事件を知らなくても、文字の組み合わせだけで状況が伝わるように作られています。同じ「面白い言葉」でも、生まれた土壌はまったく異なります。









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