意味
「隴を得て蜀を望む」とは、隴の地を手に入れた将軍が、隣の蜀の地まで欲しくなったという故事から、一つの望みがかなうと、すぐにその先の望みが生まれてしまうことを意味することわざです。
人の欲望には際限がないという、やや戒めを含んだニュアンスで使われます。
- 隴(ろう):中国古代の地名。現在の甘粛省東南部にあたる。
- 蜀(しょく):中国古代の地名。現在の四川省にあたる。
語源・由来
「隴を得て蜀を望む」は、後漢を建てた光武帝・劉秀の言葉に由来します。
隴の地を平定した際、家臣にあてた手紙で「人は足るを知らないことに苦しむものだ。すでに隴を平らげたのに、また蜀まで望んでしまう」という意味の言葉を残したという記録があります。
この言葉どおり、光武帝はのちに本当に蜀まで攻め落としています。
約200年後の三国時代、魏の曹操も、漢中を攻略した際に同じ言葉を口にしたと伝わります。
ただし曹操の場合は、家臣の司馬懿からさらに蜀を攻めるよう勧められた際、この故事を引き合いに出して自らの欲を戒め、進軍を思いとどまったという説があります。
同じ言葉が、一方では欲望のままに突き進んだ王の姿を、もう一方では欲を自制した将の姿を語る場面で使われた点が、この故事の興味深いところです。
使い方・例文
「隴を得て蜀を望む」は、一つの成功に満足せず、次々と欲を出す様子を戒めたり、自嘲したりする場面で使われます。
例文
- 売上目標を達成しても満足できず、隴を得て蜀を望むように新たな目標を掲げた。
- 欲しかった家を買った途端に車も欲しくなるとは、まさに隴を得て蜀を望むだ。
類義語・関連語
「隴を得て蜀を望む」と同様に、人の欲望に際限がないことを表す言葉には、次のようなものがあります。
- 欲に切りがない(よくにきりがない):
欲しいものを手に入れても、次から次へと新しい欲が出てくること。 - 一を聞いて十を望む(いちをきいてじゅうをのぞむ):
少し与えられただけで、それ以上の多くを欲しがること。
対義語
「隴を得て蜀を望む」とは反対に、今あるもので満足する心を表す言葉に、次のものがあります。
- 足るを知る(たるをしる):
自分にとって十分な量や程度をわきまえ、それ以上に欲張らずに満足すること。
英語表現
「隴を得て蜀を望む」を英語で表現する場合、際限のない欲を表す次のような言い回しが近いニュアンスを伝えます。
give someone an inch and they’ll take a mile
少し与えると、際限なく多くを求めてくる人の欲深さを表す定番表現。
Give him one extra day off, and he’ll ask for a week — give someone an inch and they’ll take a mile.
(一日休みをやれば一週間欲しがる。まさに隴を得て蜀を望むだ。)
the more you get, the more you want
手に入れれば入れるほど、さらに欲しくなる人間の欲望の性質を表す言い回し。
It seems that the more you get, the more you want, no matter how much success you achieve.
(どれだけ成功しても、隴を得て蜀を望むもののようだ。)
曹操が引いたのは隴ではなく漢中
「隴を得て蜀を望む」の由来は、後漢を建てた光武帝の言葉にあります。
光武帝は隴右を平定した後、家臣への手紙で「既に隴を得たのに、さらに蜀を望んでしまう」という趣旨のことを述べ、自らの欲深さを語りました。
その後、実際に武将を送って公孫述の治める蜀を攻めさせ、後漢は天下統一を果たしています。
三国時代、この故事を引用したのが曹操です。
ただし曹操が当時手にしていたのは隴ではなく、漢中でした。
司馬懿らから、そのまま兵を進めて蜀を攻めるべきだと進言された曹操は、光武帝の言葉を借りて「人は満足を知らないもので、隴を得てまた蜀を望むようなことは私はしない」という趣旨のことを述べ、蜀への進軍を見送ったと伝わります。
つまり「隴を得て蜀を望む」という言葉は光武帝と曹操の両方に結び付けられていますが、実際に隴を得たのは光武帝であり、曹操は漢中を得た立場からこの故事を引用したにすぎません。
同じ地名を得たからではなく、限りない欲望を戒める言葉として世代を超えて引用された点に、この故事成語の伝わり方の特徴があります。









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