子供が学校や公園で新しい言葉を覚えてきたり、周りの友達の振る舞いをそのまま真似し始めたりする姿を見て、親がハッとすることは多いものです。
周囲の人間関係や目にする風景が、成長過程にある子供の心にどれほど深い影響を与えるか。
そんな教育環境の重要性を説く言葉を、
「孟母三遷」(もうぼさんせん)と言います。
意味・教訓
「孟母三遷」とは、子供の教育には環境が最も大切であるという教訓です。
一般的には「孟母三遷の教え」という形でも広く知られています。
人間は周囲の影響を受けやすく、特に幼少期は接する人々や生活の場によって性格や習慣が形作られます。
そのため、子供を立派に育てようとするならば、親はそれにふさわしい適切な場所や教育環境を整えるべきであるという考えを示しています。
語源・由来
「孟母三遷」の由来は、古代中国の戦国時代の儒学者・孟子(もうし)とその母親にまつわる故事にあります。
母はわが子の教育にふさわしい環境を求め、次のように住居を移しました。
- 墓地の近く:
最初は墓のそばに住んでいましたが、孟子が葬式の真似事ばかりして遊ぶようになったため、母は教育に良くないと転居を決めました。 - 市場の近く:
次に市場のそばへ移ると、今度は商人の真似をして商売の駆け引きを始めたため、母はここもふさわしくないと再び場所を変えます。 - 学校の近く:
最後に学校(学問所)のそばへ移ると、孟子が祭礼の作法や学問の真似事をするようになったのを見て、母はようやく安住の地と定めました。
このように、周囲の環境が子供の習慣や興味を大きく左右することを見抜き、納得がいくまで引っ越しを繰り返した母親の情熱的な逸話が語源となっています。
使い方・例文
「孟母三遷」は、単に引っ越しを検討する場面だけでなく、学校選びや習い事、交友関係を整える際のアドバイスとしても使われます。
例文
- 良い教育環境を求めて他県へ移住するのは、まさに現代の「孟母三遷」と言える。
- 「孟母三遷と言うように、周りの友達から受ける刺激は一生の財産になるはずだ」と父が語った。
- 彼は子供の才能を伸ばすために強豪クラブのある街へ越したが、その熱心さは「孟母三遷」そのものだ。
- 勉強に集中できる環境を作るためにリビングを模様替えするのも、孟母三遷に通じる工夫だ。
類義語・関連語
「孟母三遷」と似た意味を持つ、環境が人に与える影響を説いた言葉を紹介します。
- 朱に交われば赤くなる(しゅにまじわればあかくなる):
人は付き合う友や環境によって、善くも悪くも変化するという例え。 - 麻の中の蓬(あさのなかのよもぎ):
曲がりやすい蓬(よもぎ)も、まっすぐ伸びる麻に混じって育てば、自然とまっすぐ育つこと。 - 近墨者黒(きんぼくしゃこく):
悪い友人と交われば、その影響を受けて自然と悪に染まってしまうという戒め。
英語表現
「孟母三遷」が持つ「環境が人を形成する」という概念を英語で表現する場合、以下の定型句が用いられます。
Environment makes the man.
- 意味:「環境が人を作る」
- 解説:周囲の状況や教育環境が人格形成に決定的な役割を果たすという、最も直接的な表現です。
- 例文:
We decided to move for our children’s future, because environment makes the man.
(子供たちの将来のために引っ越しを決めた。環境が人を作るからだ。)
Education starts with the surroundings.
- 意味:「教育は周囲の環境から始まる」
- 解説:教え込むことよりも先に、まずはふさわしい環境に置くことが教育の第一歩であるという考え方です。
- 例文:
According to the idea that education starts with the surroundings, we chose this school.
(環境こそが教育の始まりという考えに基づき、私たちはこの学校を選んだ。)
豆知識:三遷は「三回」の引っ越しではない?
「孟母三遷」の「三」という数字について、少し興味深い解釈があります。
この物語では「1.墓地→2.市場→3.学校」と場所を変えていますが、引っ越しの回数自体は2回です。
しかし、漢文における「三」は、具体的な数としての3だけでなく「何度も」「たびたび」という、回数が多いことを表す言葉として使われることがよくあります。
この故事においても、単に引っ越した数そのものよりも、「子供にふさわしい環境が見つかるまで、決して妥協せずに探し続けた母親の深い愛情と執念」にこそ、本来の焦点が当てられています。
まとめ
子供が育つ環境を整えることは、親から贈ることができる目に見えない大きな財産と言えるかもしれません。
どこで誰と過ごし、どのような刺激を受けて育つのか。
「孟母三遷」は、単なる引っ越しの勧めではなく、子供が毎日を過ごす「場所」が持つ影響力について、私たちに改めて考えさせてくれる知恵と言えることでしょう。




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