かつて多くの人で賑わっていた場所が、人気を失いすっかり静まり返っている様子。
このような状態を表すのが、「門前雀羅を張る」(もんぜんじゃくらをはる)です。
意味
門前雀羅を張るとは、訪ねてくる人がまったくなく、ひっそりと寂れているという意味です。
単に人がいないだけでなく、かつては権力や富があり多くの人が集まっていたのに、今では誰も寄り付かなくなったという栄枯盛衰の哀れな響きを含みます。
- 門前(もんぜん): 門の前、家の前
- 雀羅(じゃくら): 雀(すずめ)を捕まえるための網
- 張る(はる): 網などを広げて仕掛ける
語源・由来
中国の前漢時代に書かれた歴史書である司馬遷の『史記』汲鄭列伝(きゅうていれつでん)や、班固の『漢書』などに、以下の記述がみられます。
下邽の翟公、廷尉と為る。賓客門に填む。及び廃せらるるや、門外雀羅を設く可し。
前漢の役人であった翟公(てきこう)が、高い地位にあった時は訪問客で門が塞がるほどでしたが、失脚した途端に人が寄り付かなくなり、門の前に雀を捕る網を張れるほど閑散としてしまったという故事に基づきます。
使い方・例文
「門前雀羅を張る」は、かつて繁栄していた場所がすっかり寂れてしまった状況を描写する場面で使われます。
- 権力を失った彼の屋敷は、門前雀羅を張る有様だ。
- かつて賑わった観光地が、今や門前雀羅を張る状態である。
- 流行が過ぎ去ったその店は、門前雀羅を張る寂しさだ。
類義語・関連語
「門前雀羅を張る」と似た意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 閑古鳥が鳴く(かんこどりがなく):
客が来なくて商売がはやらず、ひっそりとしている様子。 - 閑散(かんさん):
人が少なく、ひっそりと静まりかえっている状態。 - 世態炎涼(せたいえんりょう):
勢いがある時はもてはやし、落ちぶれると冷たくあしらう世間の人情の移り変わり。
「門前雀羅を張る」と「閑古鳥が鳴く」の違い
| 言葉 | 焦点 | 状況 |
|---|---|---|
| 門前雀羅を張る | 権力の喪失等による訪問客の減少 | かつて栄えていたが見放されている状態 |
| 閑古鳥が鳴く | 商業的な客数の減少 | 単に客が来ず商売がうまくいっていない状態 |
対義語
「門前雀羅を張る」と反対の意味を持つ言葉には、以下のようなものがあります。
- 門前市を成す(もんぜんいちをなす):
訪問客が非常に多く、門の前が市場のように賑わっている様子。 - 千客万来(せんきゃくばんらい):
多数の客が次から次へとひっきりなしにやって来る状態。 - 殷賑(いんしん):
非常に賑やかで、盛んに栄えている様子。
英語表現
deserted
意味:かつて賑わっていた場所が、人が去りひっそりと寂れている様子
- 例文:
The once-crowded street now stands completely deserted.
かつては人で溢れていた通りも、今や閑散としている。
fall into obscurity
意味:かつて名声や権勢があったものが、忘れ去られて人目につかなくなること
- 例文:
After losing his position, the official fell into obscurity.
地位を失ったその役人は、人々の記憶から消えていった。
栄枯盛衰と「社会的証明」の逆回転現象
「門前雀羅を張る」現象は、心理学における「社会的証明の原理」によって説明されます。
社会的証明とは、アメリカの心理学者ロバート・チャルディーニらが提唱した、他者の行動を判断の手がかりとして自分の行動を決める心理傾向を指します。
権力や人気の絶頂期には、「多くの人が集まっている」という事実そのものが価値を示すシグナルとなり、さらに多くの人を引き寄せます(バンドワゴン効果)。
しかし、何らかの理由で人が減り始めると、今度は「人がいない」という事実がネガティブな社会的証明として機能します。
「誰も行っていないなら、価値がないに違いない」という心理が連鎖し、潮が引くように人が離れていきます。
翟公が失脚後に経験した訪問客の激減は、単なる世間の薄情さだけでなく、この集団心理が負の方向に作動した結果です。









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