曖昧模糊(あいまいもこ)とは、物事の内容や実態がぼんやりとしてはっきりせず、捉えどころのない状態。
「曖昧」と「模糊」、似た意味を持つ言葉を重ねて強調した四字熟語です。
意図的に言葉を濁す際や、記憶が薄れて定かでない状況など、日常のさまざまな場面で使われる表現です。
「曖昧模糊」の意味
物事の様子や意味、境界などがぼやけていて、はっきりしないさまを指します。
- 曖昧(あいまい):暗くて見えにくいこと。転じて、物事がはっきりしない様子や、疑わしいこと。
- 模糊(もこ):ぼんやりとしていて、輪郭などがはっきりしない様子。
この二つの熟語を組み合わせることで、「わけがわからない」「あやふやである」というニュアンスをより強めた言葉です。
「曖昧模糊」の語源
特定の歴史的な出来事や物語(故事)に基づく言葉ではなく、漢字本来の意味を組み合わせた構成の熟語です。
「曖」と「昧」は、どちらも「日(太陽)」に「愛」「未」がついた形をしていますが、これらは「暗い」という意味を持っています。太陽が雲などで隠れて薄暗い状態、転じて「事情がよく見えない」状態を表すようになりました。一方、「模」と「糊」には、形がはっきりしない、ぼやけているという意味があります。
これらを重ねることで、視界が遮られたように物事の輪郭がつかめず、あやふやな状態であることを表現しています。
「曖昧模糊」の使い方・例文
主に、人の態度や言動、記憶、あるいは物事の定義などが不明瞭である場合に使われます。単に「わかりにくい」だけでなく、意図的にぼかしている場合や、どうしても思い出せないような状況に対しても用いられます。
例文
- 責任の所在を追求されたが、彼は終始曖昧模糊な答弁に逃げ続けた。
- 幼い頃の記憶は曖昧模糊としていて、それが夢だったのか現実だったのか定かではない。
- このプロジェクトは定義が曖昧模糊なままでスタートしてしまったため、現場が混乱している。
文学作品での使用例
明治・大正期の近代文学では、心理描写や情景描写においてこの言葉が見られます。
夏目漱石『吾輩は猫である』
主人公である「吾輩(猫)」が、人間(書生)に初めて拾われた場面です。書生の顔から煙が出たり(タバコ)、お腹のあたりで音がしたり(読書の声)する不可解な様子に対し、何が起きているのか理解できない猫の心情が描かれています。
顔のあたりでがらいごらい音がする。これは書生が時々書物を読んで勉強する声であるという事はあとで知った。この時吾輩は曖昧模糊としてその真相を極める事は出来ん。
「曖昧模糊」の類義語
はっきりしない状態を表す言葉は他にもありますが、それぞれ焦点が当たる部分が異なります。
- 有耶無耶(うやむや):
あるのかないのかはっきりしないこと。特に、物事の決着をつけずにそのままにしておくこと。「曖昧模糊」が状態を表すのに対し、有耶無耶は「意図的にあやふやにする」という文脈で、結果や結末に対して使われることが多い言葉です。 - 五里霧中(ごりむちゅう):
深い霧の中にいるように、事情が全くわからず、どうしてよいか方針が立たないこと。「曖昧模糊」は対象がぼやけている状態を指しますが、五里霧中は「自分がどうすべきかわからない」という迷いの状態に焦点があります。 - 雲散霧消(うんさんむしょう):
雲や霧が消えるように、物事が跡形もなく消えてなくなること。不明瞭な状態そのものよりも、対象が「消えてしまった」ことを強調します。
「曖昧模糊」の対義語
物事がはっきりと明確であることを示す言葉が対義語となります。
- 明明白白(めいめいはくはく):
あきらかではっきりしていること。疑う余地が全くない様子。 - 一目瞭然(いちもくりょうぜん):
ひと目見ただけではっきりとわかること。 - 明快(めいかい):
筋道が通っていて、はっきりしていること。
「曖昧模糊」の英語表現
英語で「はっきりしない」状態を表現する場合、文脈によって単語を使い分ける必要があります。
vague
- 意味:「(形や記憶などが)ぼんやりした、漠然とした」
- 解説:記憶が不鮮明であったり、説明が大まかで具体的でない場合によく使われる最も一般的な表現です。
- 例文:
I have a vague memory of meeting him.
(彼に会ったことについて、曖昧模糊とした記憶がある。)
ambiguous
- 意味:「(意味が)多義的な、曖昧な」
- 解説:言葉や態度が二通り以上の意味にとれる場合や、意図的にどちらとも取れるような表現をした場合に使われます。
- 例文:
His reply was ambiguous.
(彼の返事は曖昧模糊としていた。)
「曖昧模糊」に関する豆知識
「曖昧」の日本における受容
「曖昧」という言葉自体は中国から伝わったものですが、日本では平安時代頃から使われています。当初は「暗くてよく見えない」という物理的な意味合いで使われていましたが、次第に「怪しい」「不誠実だ」といったネガティブなニュアンスを含んで使われるようになりました。
日本文化においては「以心伝心」や「空気を読む」ことが重視され、白黒はっきりつけない「曖昧さ」が美徳とされる場面もあります。しかし、「曖昧模糊」という四字熟語として使われる場合は、「実態がつかめない」「責任逃れ」といった否定的な文脈で用いられることが少なくありません。
まとめ – 不確かな状況への向き合い方
曖昧模糊とした状況は、私たちを不安にさせたり、判断を迷わせたりします。しかし、世の中のすべての事象が白黒はっきりと割り切れるわけではありません。
不明瞭であることを嘆くのではなく、「今はまだ輪郭が見えていない時期なのだ」と冷静に受け止めることも一つの知恵です。霧が晴れるのを待つように、あるいは少しずつ情報を整理して輪郭を浮かび上がらせるように、焦らず向き合う姿勢が大切と言えるでしょう。





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