日本人は、古くから「食」を大切にしてきた民族です。
四季折々の食材や、お祝いごとの料理。それらは単なる栄養源にとどまらず、人生の教訓や社会のルールを教える「たとえ」として、多くの言葉に残されています。
日常で何気なく使っているこれらの言葉も、元となった食文化を知ると、より味わい深く感じられます。
ここでは、餅、魚、野菜、果物、調味料など、ジャンル別に「美味しいことわざ」をフルコースでご紹介します。読んでいるだけでお腹が空いてくるかもしれません。
- 1. 甘味・お餅のことわざ
- 2. 魚・海産物のことわざ
- 腐っても鯛(くさってもたい)
- 海老で鯛を釣る(えびでたいをつる)
- 鯖を読む(さばをよむ)
- まな板の上の鯉(まないたのうえのこい)
- 鰯の頭も信心から(いわしのあたまもしんじんから)
- 3. 野菜・穀物・果物のことわざ
- 瓜の蔓に茄子はならぬ(うりのつるになすびはならぬ)
- 桃栗三年柿八年(ももくりさんねんかきはちねん)
- 青菜に塩(あおなにしお)
- 独活の大木(うどのたいぼく)
- 豆腐の角に頭をぶつけて◯◯
- 4. 味・調味料・飲み物のことわざ
- 手前味噌(てまえみそ)
- 味噌をつける
- 塩を送る
- お茶を濁す(おちゃをにごす)
- 良い加減(いいかげん)
- まとめ – 食は言葉をつくる
1. 甘味・お餅のことわざ
昔の人にとって、甘いものや餅(もち)は、ハレの日(特別なお祝い)のご馳走でした。そのため、幸福や利益の象徴として描かれることが多いのが特徴です。
餅は餅屋(もちはもちや)
- 何事も、その道の専門家に任せるのが一番良いということ。
- 家でつく餅も美味しいですが、本職の餅屋がついた餅の味や形には敵いません。
素人が下手に手出しをするより、プロ(専門家)をリスペクトして任せるべきだという、ビジネスでも使える教訓です。
棚からぼたもち(たなからぼたもち)
- 思いがけない幸運が舞い込んでくること。
- 「たなぼた」と略されます。「ぼたもち(おはぎ)」は、砂糖が貴重だった時代には大変なご馳走でした。
棚の下で寝ていたら、落ちてきたぼたもちが口の中に入ったという、あり得ないほどのラッキーを表しています。
絵に描いた餅(えにかいたもち)
- どんなに立派に見えても、実物が伴わなければ役に立たないこと。
- 「画餅(がべい)」とも言います。計画書や夢ばかり語って実行しないことを戒める言葉です。
食べ物は「食べてこそ」価値がある、というリアリズムが含まれています。
花より団子(はなよりだんご)
- 風流(外見)よりも実益(中身)を選ぶこと。
- お花見に行っても、美しい桜より美味しい団子のほうがいい。
「色気より食い気」という少し揶揄する意味と、「名より実を取る」という賢さを表す意味の両方で使われます。
2. 魚・海産物のことわざ
海に囲まれた日本ならではの、魚にまつわる言葉たちです。高級魚から大衆魚まで、身分や価値の違いを表すのによく使われます。
腐っても鯛(くさってもたい)
- 優れたものは、痛んでもその品格や価値を失わないこと。
- 鯛は「めでたい」に通じ、色も赤く姿も美しい「魚の王様」です。
たとえ新鮮さを失っても、雑魚(ざこ)よりは価値がある。元一流選手や、老舗ブランドの底力を表現する際などに使われます。
海老で鯛を釣る(えびでたいをつる)
- わずかな元手(投資)で、大きな利益を得ること。
- 「エビタイ」と略されます。小さなエビを餌にして、高級魚の鯛を釣り上げる様子から。
お土産を持って行って、それ以上の高価なお返しをもらった時などにも使われる、ちゃっかりした言葉です。
鯖を読む(さばをよむ)
- 自分の都合のいいように、数をごまかすこと。(主に年齢など)
- 鯖(さば)は傷むのが非常に早い魚です。魚市場で急いで数えているうちに、数をごまかしたり間違えたりしたことから、いい加減に数を数えることを指すようになりました。
まな板の上の鯉(まないたのうえのこい)
- 相手のなすがままで、自分ではどうすることもできない運命にあること。
- 鯉は包丁を当てられても暴れず、静かに死を待つと言われます。その潔(いさぎよ)い姿から生まれた言葉です。
鰯の頭も信心から(いわしのあたまもしんじんから)
- つまらないものでも、信じる心があればありがたいものに見えるということ。
- 節分に魔除けとして飾る「鰯(いわし)の頭」のような粗末なものでも、神様として崇めれば尊く見える。信仰心の不思議さを説いた言葉です。
3. 野菜・穀物・果物のことわざ
畑の実りもまた、人生の縮図です。
瓜の蔓に茄子はならぬ(うりのつるになすびはならぬ)
- 平凡な親からは、非凡な子供は生まれない。原因のないところに結果は生じない。
- 「蛙の子は蛙」と同じ意味です。ウリの種を蒔けばウリが育ち、ナスにはなりません。
血筋や遺伝の抗えなさを説いた言葉ですが、転じて「無理なことを期待しても無駄だ」という戒めにもなります。
桃栗三年柿八年(ももくりさんねんかきはちねん)
- 何事も成し遂げるまでには、相応の年月がかかるということ。
- 種を植えてから実がなるまでの期間を言ったもの。
続きとして「柚子は大馬鹿十八年」や「梅は酸い酸い十三年」など、地方によって様々なバリエーションがあります。
青菜に塩(あおなにしお)
- 人が元気なくしおれている様子。
- 新鮮でシャキッとした青菜も、塩をふりかけると水分が抜けてクタッとしてしまいます。
元気だった人が、失敗などをきっかけに急にシュンとしてしまう様子を、視覚的に表現した言葉です。
独活の大木(うどのたいぼく)
- 体ばかり大きくて、役に立たない人のたとえ。
- 山菜のウドは、茎が柔らかくて美味しいですが、大きくなりすぎると硬くて食べられず、柔らかすぎて木材にもなりません。「図体ばかりデカくて…」と悪口として使われます。
豆腐の角に頭をぶつけて◯◯
- そんな馬鹿なことをする奴は生きていても仕方がない、という罵倒語。または、「そんなことできるわけがない」という冗談。
- 古典落語などに登場する言葉です。柔らかい豆腐の角で◯◯なんて不可能です。
ダイレクトに「◯んでしまえ」と言うと非常に角が立ちますが、こう言うことで「それくらい間抜けだぞ」と笑いに変える、江戸っ子のユーモアです。 - 現代では言葉の暴力性やコンプライアンスの観点からも使用してはいけません。
4. 味・調味料・飲み物のことわざ
料理の味付けやお茶の作法は、人間関係や性格の比喩として使われます。
手前味噌(てまえみそ)
- 自分で自分のことを自慢すること。
- 「手前味噌で恐縮ですが…」とビジネス枕詞によく使われます。
昔は味噌を各家庭で作っていました。「うちの味噌が一番うまい」と自慢し合ったことから、自画自賛することを指します。
味噌をつける
- 失敗して評判を落とすこと。
- これも「手前味噌」から来ています。自慢の味噌が腐ったり、失敗したりして面目を失うことから。また、火傷をした時に味噌を塗って手当てをした(=火傷をするようなドジをした)という説もあります。
塩を送る
- 敵が苦しんでいる時に、弱みにつけこまず、逆に助けること。
- 戦国時代の「敵に塩を送る」という故事から。
海のない甲斐の国(武田信玄)が塩不足で苦しんでいる時、敵対していた越後の上杉謙信が「戦いは兵でするものだ」と言って塩を送ったという美談です。フェアプレー精神の象徴です。
お茶を濁す(おちゃをにごす)
- いい加減なことを言ったりしたりして、その場をごまかすこと。
- 茶道に由来します。作法を知らない人が、抹茶を適当にかき混ぜて濁らせ、それらしく見せたことから。
表面だけ取り繕っても、本質は見抜かれているという戒めを含みます。
良い加減(いいかげん)
- ちょうど良い具合。(お湯が良い加減だ)
- 無責任で適当なこと。(いい加減な仕事)
もともとは料理の味付けや、お風呂の湯加減が「ちょうど良い」ことを指す言葉でした。
そこから、「徹底せず適当なところで止める」というネガティブな意味に変化していきました。「良い加減」は、文脈によって褒め言葉にも悪口にもなる面白い言葉です。
まとめ – 食は言葉をつくる
「棚からぼたもち」を待ち望み、「絵に描いた餅」にならないよう計画し、時には「鯖を読んで」世の中を渡り歩く?
私たちの日常会話は、美味しいことわざで溢れています。
これほどまでに食べ物にたとえた言葉が多いのは、日本人が食事の時間を大切にし、食材の一つひとつに神様や教訓を見出してきた証拠と言えるでしょう。
今日の食事の席で、「これは手前味噌だけどね」なんて、食卓の話題にしてみてはいかがでしょうか。









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