日本人は、古くから「食」を大切にしてきた民族です。
四季折々の食材や、お祝いごとの料理。
それらは単なる栄養源にとどまらず、人生の教訓や社会のルールを教える「たとえ」として、多くの言葉に残されています。
日常で何気なく使っているこれらの言葉も、元となった食文化を知ると、より味わい深く感じられます。
餅、魚、野菜、果物、調味料など、ジャンル別に「美味しいことわざ」をフルコースでご紹介します。
読んでいるだけでお腹が空いてくるかもしれません。
1. 甘味・お餅のことわざ
昔の人にとって、甘いものや餅(もち)は、ハレの日(特別なお祝い)のご馳走でした。
餅は餅屋(もちはもちや)
- 何事も、その道の専門家に任せるのが一番良いということ。
- 家でつく餅も美味しいですが、本職の餅屋がついた餅の味や形には敵いません。
素人が下手に手出しをするより、プロ(専門家)をリスペクトして任せるべきだという、ビジネスでも使える教訓です。
棚からぼたもち(たなからぼたもち)
- 思いがけない幸運が舞い込んでくること。
- 「たなぼた」と略されます。
棚から牡丹餅が落ちてくるように、労せずに思いがけない幸運を得ることを表しています。
絵に描いた餅(えにかいたもち)
- どんなに立派に見えても、実物が伴わなければ役に立たないこと。
- 「画餅(がべい)」とも言います。
計画書や夢ばかり語って実行しないことを戒める言葉です。
食べ物は「食べてこそ」価値がある、というリアリズムが含まれています。
花より団子(はなよりだんご)
- 風流(外見)よりも実益(中身)を選ぶこと。
- お花見に行っても、美しい桜より美味しい団子のほうがいい。
「色気より食い気」という少し揶揄する意味と、「名より実を取る」という賢さを表す意味の両方で使われます。
2. 魚・海産物のことわざ
海に囲まれた日本ならではの、魚にまつわる言葉たちです。
高級魚から大衆魚まで、身分や価値の違いを表すのによく使われます。
腐っても鯛(くさってもたい)
- 優れたものは、痛んでもその品格や価値を失わないこと。
- 鯛は「めでたい」に通じ、色も赤く姿も美しい「魚の王様」です。
たとえ新鮮さを失っても、雑魚(ざこ)よりは価値がある。
元一流選手や、老舗ブランドの底力を表現する際などに使われます。
海老で鯛を釣る(えびでたいをつる)
- わずかな元手(投資)で、大きな利益を得ること。
- 「エビタイ」と略されます。
小さなエビを餌にして、高級魚の鯛を釣り上げる様子から。
お土産を持って行って、それ以上の高価なお返しをもらった時などにも使われる、ちゃっかりした言葉です。
鯖を読む(さばをよむ)
- 自分の都合のいいように、数をごまかすこと。
(主に年齢など) - 一説に、魚市場で鯖を数えるとき、わざと急いで数をごまかしたことからといわれます。
鯖は腐りやすく急いで売りさばくため、数え方がいい加減だったことからとする説もあります。
まな板の上の鯉(まないたのうえのこい)
- 相手のなすがままで、自分ではどうすることもできない運命にあること。
- まな板の上で料理されるのを待つ鯉にたとえた言葉です。
鯉はまな板に載せられると、観念してじっとしているといいます。
鰯の頭も信心から(いわしのあたまもしんじんから)
- つまらないものでも、信じる心があればありがたいものに見えるということ。
- 節分に魔除けとして飾る「鰯(いわし)の頭」のような粗末なものでも、神様として崇めれば尊く見える。
信仰心の不思議さを説いた言葉です。
3. 野菜・穀物・果物のことわざ
畑の実りもまた、人生の縮図です。
瓜の蔓に茄子はならぬ(うりのつるになすびはならぬ)
- 平凡な親からは、非凡な子供は生まれない。
ある原因からは、それ相応の結果しか生じない。 - 「蛙の子は蛙」と同じ意味です。
ウリの種を蒔けばウリが育ち、ナスにはなりません。
子は親に似るもので、血筋は争えないことを言った言葉です。
桃栗三年柿八年(ももくりさんねんかきはちねん)
- 何事も成し遂げるまでには、相応の年月がかかるということ。
- 桃と栗は芽生えてから3年、柿は8年で実を結ぶということ。
あとに「梅は酸い酸い十三年」「柚は九年の花盛り」などの句を続けることもあります。
青菜に塩(あおなにしお)
- 人が元気なくしおれている様子。
- 新鮮でシャキッとした青菜も、塩をふりかけると水分が抜けてクタッとしてしまいます。
元気だった人が、失敗などをきっかけに急にシュンとしてしまう様子を、視覚的に表現した言葉です。
独活の大木(うどのたいぼく)
- 体ばかり大きくて、役に立たない人のたとえ。
- 山菜のウドは、茎が柔らかくて美味しいですが、大きくなりすぎると硬くて食べられず、柔らかすぎて木材にもなりません。
「図体ばかりデカくて…」と悪口として使われます。
豆腐の角に頭をぶつけて◯◯
- ふがいない者をののしって言う言葉。
- 柔らかい豆腐の角で◯◯なんて不可能です。
- 現代では言葉の暴力性やコンプライアンスの観点からも使用してはいけません。
4. 味・調味料・飲み物のことわざ
料理の味付けやお茶の作法は、人間関係や性格の比喩として使われます。
手前味噌(てまえみそ)
- 自分で自分のことを自慢すること。
- 「手前味噌で恐縮ですが…」とビジネス枕詞によく使われます。
昔は味噌を各家庭で作っていました。
「うちの味噌が一番うまい」と自慢し合ったことから、自画自賛することを指します。
味噌をつける
- 失敗して評判を落とすこと。
敵に塩を送る(てきにしおをおくる)
- 敵が苦しんでいる時に、弱みにつけこまず、逆に助けること。
- 戦国時代、今川・北条の両氏に塩を止められて苦しむ甲斐の武田信玄に、敵対していた越後の上杉謙信が、商人に命じて塩を売らせたという故事から。
謙信は信玄に送った手紙で「争う所は弓箭に在りて、米塩に在らず」と書いたと『日本外史』にあります。
お茶を濁す(おちゃをにごす)
- いい加減なことを言ったりしたりして、その場をごまかすこと。
良い加減(いいかげん)
- ちょうど良い具合。
(お湯が良い加減だ) - 無責任で適当なこと。
(いい加減な仕事)
「良い加減」は、ほどよい程度という意味のほかに、徹底せず投げやりなさまや、「かなり」「相当」という意味でも使われます。
文脈によって褒め言葉にも悪口にもなる言葉です。
まとめ – 食は言葉をつくる
「棚からぼたもち」を待ち望み、「絵に描いた餅」にならないよう計画し、時には「鯖を読んで」世の中を渡り歩く?
私たちの日常会話は、美味しいことわざで溢れています。
これらのことわざ・慣用句は、餅などの甘味、魚介、野菜・穀物・果物、調味料の4つのジャンルにまたがっています。
今日の食事の席で、「これは手前味噌だけどね」なんて、食卓の話題にしてみてはいかがでしょうか。









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