生活が苦しい時や、将来への不安が募る時。そんな時にこそ、立ち止まらずに手を動かし続けることで道が開けるという教えがあります。
古くから人々の励みとなってきた
「稼ぐに追いつく貧乏なし」(かせぐにおいつくびんぼうなし)という言葉です。
意味・教訓
「稼ぐに追いつく貧乏なし」とは、常に精を出して一生懸命に働いていれば、貧乏に苦しむことはないという意味です。
どれほど生活が苦しくても、怠けずにコツコツと働き続けていれば、やがて生活は安定し、貧しさを振り払うことができるという勤労の奨励を説いています。
ここでの「稼ぐ」とは、単に大金を儲けることだけではありません。
日々の仕事を怠けずに、着実にこなしていく「勤勉さ」そのものを指しています。
まるで「働く人」と「貧乏神」が追いかけっこをしているかのようなユーモラスな情景ですが、働き者の足が速ければ、貧乏神は決して追いつくことができないのです。
語源・由来
「稼ぐに追いつく貧乏なし」の由来は、特定の偉人が作ったものではなく、古くから庶民の間で語り継がれてきた生活の知恵です。
この言葉は、江戸時代に作られた「尾張(名古屋)いろはかるた」の読み札として広く知られています。
- 尾張いろは:「か」の札が「稼ぐに追いつく貧乏なし」
- 江戸いろは:「か」の札は「勝って兜の緒を締めよ(かってかぶとのおをしめよ)」
また、言葉自体の歴史は古く、戦国時代末期の1599年頃に記された『北条氏直時分諺留(ほうじょううじなおじぶんことわざどめ)』という文献には、すでにこの言葉が登場しています。
戦乱や飢饉など、生活が不安定だった時代だからこそ、人々は「手を動かし続けること」に希望を見出し、この言葉を支えにしてきたのでしょう。
使い方・例文
「稼ぐに追いつく貧乏なし」は、生活への不安を感じている人を励ます場面や、仕事への意欲を高める場面で使われます。
家庭内では家計を支える合言葉として、職場では新入社員や部下に対する心構えとして用いられることが多い言葉です。
例文
- 不景気でボーナスが減ったと嘆く夫に、妻は「稼ぐに追いつく貧乏なしと言うでしょう。今は我慢して働きましょう」と励ました。
- 新人の頃、社長に言われた「稼ぐに追いつく貧乏なしだ。迷ったら手を動かせ」という言葉が、今も私の仕事の指針になっている。
- 祖母は常々「稼ぐに追いつく貧乏なし」と口にして、晩年まで畑仕事を楽しんでいた。
文学作品・メディアでの使用例
『わたしの渡世日記』(高峰秀子)
昭和を代表する名女優が、自身の半生を綴ったエッセイでの一節。
がむしゃらに働いていた当時の自分を振り返り、この言葉を引用しています。
稼ぐに追いつく貧乏なし、と言うけれど、当時の私は、まわりっ放しのコマみたいにキリキリ舞いをしながら稼いでいたから収入は悪くなかった
類義語・関連語
「稼ぐに追いつく貧乏なし」と似た意味を持つ言葉には、勤勉さや努力の重要性を説くものが多く存在します。
- 稼ぐが勝ち(かせぐがかち):
仕事に精励し、利益を得るほうが結局は得策であるということ。 - 天は自ら助くる者を助く(てんはみずからたすくるものをたすく):
他人に頼らず、自力で努力する人には、天の助けがあり幸福が訪れるということ。 - 早起きは三文の徳(はやおきはさんもんのとく):
朝早く起きて働けば、わずかであっても必ず利益があるという教え。 - 働かざる者食うべからず(はたらかざるものくうべからず):
働く能力があるのに働かない怠け者は、食べる権利がないということ。
「貧乏暇なし」との違い
よく似た言葉に「貧乏暇なし(びんぼうひまなし)」がありますが、これは意味が大きく異なります。
- 稼ぐに追いつく貧乏なし:
一生懸命働けば、貧乏から脱出できる。(ポジティブ・結果) - 貧乏暇なし:
貧乏だから、生活のために働き詰めなければならない。(ネガティブ・原因)
前者は「働くことの効用」を説いていますが、後者は「貧しさゆえの忙しさ」を嘆く言葉です。混同しないように注意しましょう。
対義語
「稼ぐに追いつく貧乏なし」とは対照的な意味を持つ言葉は、怠惰や不運を嘆く言葉です。
- 怠け者の節句働き(なまけもののせっくばたらき):
普段怠けている人に限って、皆が休む祝日などにわざわざ働くこと。 - 運根鈍(うんこんどん):
対義語ではないが、成功には「運」と「根気」と「鈍(粘り強さ)」が必要だという言葉。
ただ稼ぐだけではダメだという対比で使われることがある。
英語表現
「稼ぐに追いつく貧乏なし」を英語で表現する場合、勤勉(Industry)が貧困を防ぐというニュアンスになります。
Industry keeps poverty away.
- 意味:「勤勉は貧乏を追い払う」
- 解説:最も一般的な直訳に近い表現です。”Industry” は「産業」だけでなく「勤勉」を意味します。
- 例文:
Keep working hard. Industry keeps poverty away.
(働き続けなさい。稼ぐに追いつく貧乏なしだよ。)
Poverty runs after idleness.
- 意味:「貧乏は怠け者の後を追う」
- 解説:こちらは逆に「怠けていると貧乏神が追いかけてくる」という、日本語のニュアンスに近い表現です。
成功者の豆知識
この言葉は、明治・大正期の実業家であり、京浜工業地帯の生みの親とも言われる浅野総一郎(あさのそういちろう)が生涯の座右の銘としていたことでも知られています。
彼は事業に失敗し、裸一貫で東京へ出てきた際、冷たい水を売り歩く商売から始めました。
来る日も来る日も休まず働き続け、やがて巨大な財閥を築き上げましたが、その根底には常に「稼ぐに追いつく貧乏なし」の精神があったと言われています。
また、江戸時代の言葉遊びとして、「稼ぐに追い抜く貧乏神」という洒落(しゃれ)も存在しました。
これは「いくら働いても、それ以上に貧乏神の足が速くて追い抜かれてしまう(=生活が楽にならない)」という、庶民の皮肉や嘆きをユーモラスに表現したものです。
まとめ
「稼ぐに追いつく貧乏なし」は、不安な時こそ体を動かし、目の前の仕事に打ち込むことの大切さを教えてくれる言葉です。
現代社会では「効率」や「スマートさ」が重視されがちですが、時にはこの言葉のように、泥臭く働き続ける姿勢が現状を打破する一番の近道になることもあります。
仕事や家事に行き詰まったとき、ふとこの言葉を思い出して手を動かしてみると、心にかかった霧が晴れていくのを感じられることでしょう。






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