A案とB案、どちらを選んでも何らかの不都合が生じてしまう。
あるいは、二人の友人が喧嘩をしてしまい、どちらの肩を持っても角が立ってしまう。
日々の生活の中で誰もが直面する、こうした「板挟み」や「逃げ道のない状態」のことを、「ジレンマ」(じれんま)と言います。
どちらを選んでもマイナスの結果が予想されるため、決断を下せずに立ち往生してしまう感覚は、古今東西、多くの人々を悩ませてきました。
日本語には、この「ジレンマ」という複雑な状況や心理を的確に言い表したことわざや四字熟語が数多く存在します。
- 意味・定義
- 二つの災難に挟まれている状況
- 前門の虎、後門の狼(ぜんもんのとらこうもんのおおかみ)
- 虎の口を逃れて狼の口に遭う(とらのくちをのがれておおかみのくちにあう)
- 両立が不可能で困っている状況(トレードオフ)
- あちら立てればこちらが立たぬ(あちらたてればこちらがたたぬ)
- 二律背反(にりつはいはん)
- 虻蜂取らず(あぶはちとらず)
- 進むことも退くこともできない状況
- 進退窮まる(しんたいきわまる)
- 進退維谷(しんたいこれきわまる)
- 板挟み(いたばさみ)
- 抜き差しならない
- 心が揺れて決断できない心理状態
- 使い方・例文
- 類義語・関連語
- 対義語
- 英語表現
- 語源と背景
- まとめ
意味・定義
「ジレンマ」とは、相反する二つの事柄の間に挟まれ、どちらも選べずにいる状態を指します。
基本的には、二つの選択肢(前提)があり、そのどちらを選んでも望ましくない結果になるという、論理的な袋小路を意味します。
現代ではより広く、二つの価値観が衝突して身動きが取れなくなることや、人間関係の板挟みで苦しむ心理状態を表す言葉として定着しています。
二つの災難に挟まれている状況
前門の虎、後門の狼(ぜんもんのとらこうもんのおおかみ)
一つの災難を逃れても、また別の災難が待ち構えていること。
あるいは、前からも後ろからも危険が迫り、どうにも逃げ場がない究極の窮地を指します。
家の表門には恐ろしい虎が、裏門には貪欲な狼がいるという状況から、どちらへ逃げても命の危険があることを例えています。
虎の口を逃れて狼の口に遭う(とらのくちをのがれておおかみのくちにあう)
一つの災難をようやく切り抜けたと思った瞬間に、また別の災難に遭遇してしまうこと。
「前門の虎、後門の狼」と似ていますが、こちらは「やっとの思いで逃げ出した先が、また地獄だった」という、時間の経過を伴う絶望感に焦点が当たっています。
両立が不可能で困っている状況(トレードオフ)
あちら立てればこちらが立たぬ(あちらたてればこちらがたたぬ)
一方の都合を良くしようと配慮すれば、もう一方が悪くなってしまうこと。
二つの事柄が対立関係にあり、両方を同時に満足させることができない矛盾した状況を表します。
家族と仕事のバランス、品質とコストのせめぎ合いなど、日常で最も頻繁に使われる表現です。
二律背反(にりつはいはん)
互いに矛盾する二つの命題が、どちらも同じだけの妥当性を持って主張されていること。
もともとは哲学用語ですが、現代では「自由を守るためには、監視を強めるという自由を制限する行為が必要になる」といった、構造的な矛盾を抱えたジレンマを指す際に用いられます。
虻蜂取らず(あぶはちとらず)
二つのものを同時に手に入れようとして欲張り、結局どちらも得られないこと。
ジレンマの状況下で、どちらか一方に決めきれず「両方」を取ろうとした結果、失敗してしまうという教訓を含んでいます。
進むことも退くこともできない状況
進退窮まる(しんたいきわまる)
前に進むことも、後ろに下がることもできなくなり、どうにも処置のしようがない状況。
自分の置かれた立場が悪くなり、八方塞がりになってしまった状態を指します。
進退維谷(しんたいこれきわまる)
進むことも退くこともできず、非常に困り果てること。
中国最古の詩集『詩経』に見られる言葉で、「維(これ)」はつなぎの言葉、「谷」は行き止まりや苦境を意味します。
四字熟語として、非常に深刻なジレンマを表現する際に使われます。
板挟み(いたばさみ)
対立する二つの勢力の間に立たされ、どちらの味方もできずに苦しむこと。
上下の板に挟まれて身動きが取れない状態になぞらえています。
特に、上司と部下、親と配偶者といった人間関係のジレンマで多用されます。
抜き差しならない
事態が深刻になり、退くに退けない、あるいは身動きが取れない状態。
「抜き」も「差し」もできない、つまり剣を抜くことも収めることもできないような、抜き打ちの緊張状態や切迫した状況を表します。
心が揺れて決断できない心理状態
葛藤(かっとう)
心の中に相反する二つの欲求が同時にあり、どちらを選ぶか迷ってもつれること。
「葛(くず)」と「藤(ふじ)」のツルが複雑に絡み合い、なかなか解けない様子が語源です。
二の足を踏む(にのあしをふむ)
思い切って一歩を踏み出すことができず、ためらうこと。
一度は進もうと決めたものの、不安や恐れが生じてしまい、決断が鈍るジレンマを表します。
右往左往(うおうさおう)
混乱して、あっちへ行ったりこっちへ行ったりすること。
ジレンマに直面し、冷静な判断ができずにうろたえる様子を指します。
使い方・例文
「ジレンマ」やそれに関連する言葉は、選択肢がどちらも同等に重要、あるいは同等に困難である文脈で使われます。
- 勉強をしなければならないのは分かっているが、今日を逃すと遊べない友人もいて、「ジレンマ」を感じている。
- 「部活を優先すれば勉強が疎かになり、あちらを立てればこちらが立たぬ状態だ」と兄が嘆いていた。
- 自分のミスを正直に話せば叱られ、隠していればいつか発覚する。まさに「進退窮まる」状況だった。
- 彼は、地元の期待に応えたいという思いと、都会で挑戦したいという願いの間で「葛藤」を続けている。
例文
彼の提案は、コスト削減と品質向上という、まさに「二律背反」な課題を突きつけている。
「前門の虎、後門の狼という状況だが、ここで立ち止まっていても解決はしない」と部長は言った。
どちらの友人も大切だから、喧嘩の仲裁に入るのは「板挟み」になって辛いものだ。
類義語・関連語
「ジレンマ」と似た意味を持つ言葉には以下のようなものがあります。
- 八方塞がり(はっぽうふさがり):
どの方向へも進むことができず、手の打ちようがないこと。 - 絶体絶命(ぜったいぜつめい):
追い詰められて、逃げ場のない困難な立場にあること。 - 袋小路(ふくろこうじ):
行き止まり。物事がそれ以上先へ進めない状態。
対義語
「ジレンマ」とは対照的な意味を持つ言葉は以下の通りです。
- 一挙両得(いっきょりょうとく):
一つの行動で、二つの利益を同時に手に入れること。 - 一石二鳥(いっせきにちょう):
一つの石を投げて二羽の鳥を落とすように、一つの労力で二つの成果を得ること。 - 順風満帆(じゅんぷうまんぱん):
追い風を帆いっぱいに受け、物事が非常に順調に進むこと。
英語表現
「ジレンマ」を英語で表現する場合、以下の言葉が使われます。
dilemma
- 意味:「ジレンマ、板挟み」
- 解説:日本語の「ジレンマ」の直接的な語源。
二つの望ましくない選択肢のどちらかを選ばなければならない状況を指します。 - 例文:
I am in a dilemma about whether to stay or leave.
(残留するか去るか、ジレンマに陥っている。)
between a rock and a hard place
- 直訳:岩と固い場所の間
- 意味:「絶体絶命、板挟み、進退窮まる」
- 解説:前からも後ろからも逃げ場がない、非常に苦しいジレンマの状態を表す慣用句です。
- 例文:
Choosing between my job and my family puts me between a rock and a hard place.
(仕事か家族か選ぶのは、板挟みの状況で非常に苦しい。)
double bind
- 意味:「二重拘束」
- 解説:二つの矛盾した命令を同時に受け、どう対応しても否定されてしまうような逃げ場のないコミュニケーション状態を指します。
- 例文:She was caught in a double bind by her boss’s conflicting instructions.
(彼女は上司の矛盾した指示により、二重拘束の状態に陥った。)
語源と背景
この言葉は、古代ギリシャ語で「2」を意味する di(ディ)と、「前提・命題」を意味する lemma(レンマ)が組み合わさって生まれました。
もともとは論理学の用語で、相手がどの道を選んでも、最終的には自分の望む結論(あるいは相手にとって不利な結論)へ導くための推論形式(両刀論法)を指していました。
中世以降、哲学や心理学、そして一般の日常会話へと広がり、現代のような「二つの選択肢の間で身動きが取れなくなる」という意味で定着したのです。
ちなみに、選択肢が三つある場合は「トリレンマ(trilemma)」と呼ばれます。
まとめ
どちらを選んでも痛みを伴う「ジレンマ」は、私たちの人生において避けては通れない壁かもしれません。
しかし、古くからこれほど多くの「板挟み」を指す言葉が生まれてきた背景には、人類が常に矛盾や葛藤と向き合い、それを言葉にすることで何とか客観視し、乗り越えようとしてきた歴史があります。
自分が今どのようなジレンマにいるのかを適切な言葉で定義することは、混乱した状況を整理し、一歩を踏み出すための助けになることでしょう。






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