軒先だけを貸したつもりが、気づけば家全体を乗っ取られている。
好意につけ込まれ、貸した側と借りた側の立場が逆転してしまうことを、
「庇を貸して母屋を取られる」(ひさしをかしておもやをとられる)と言います。
意味
「庇を貸して母屋を取られる」とは、ほんの一部を貸したばかりに、最後には全体を奪い取られてしまうことのたとえです。
軒先という小さな場所を貸す程度の親切が、相手のずうずうしさを招き、やがて家そのものを失う事態にまで発展します。
手を貸した側の油断と、恩を仇で返される苦々しさがにじむ言葉です。
- 庇(ひさし):窓や出入り口の上に張り出した小さな屋根。
- 母屋(おもや):屋敷の中心となる建物。
語源・由来
「庇を貸して母屋を取られる」は、特定の物語に由来するものではなく、日本の家屋の造りをたとえに用いた言葉です。
庇は母屋から外へわずかに突き出しただけの空間です。
そこを間借りさせるくらいなら構わない、という気のゆるみが入り口になります。雨宿りに軒先を貸したはずの相手が、少しずつ内へ入り込み、ついには家の主要部分まで奪ってしまう。小さな譲歩が住まい全体の喪失につながる流れを、建物の構造になぞらえています。
「軒を貸して母屋を取られる」とも言います。庇と軒はほぼ同じ部分を指し、どちらも同じ意味で使われます。
使い方・例文
親切でした譲歩につけ込まれ、貸した側と借りた側の立場が逆転してしまった場面で使われます。
- 居候させたら家計まで仕切り出した。庇を貸して母屋を取られるとはこのことだ。
- 業務委託先に主要事業まで握られ、庇を貸して母屋を取られた形だ。
- 一部屋貸しただけなのに、庇を貸して母屋を取られないか心配だ。
油断への戒め
「庇を貸して母屋を取られる」は、奪われた側の不運を嘆くだけの言葉ではありません。
もともとは、安易に貸してしまった側の脇の甘さへの戒めを含みます。
一方的に被害を訴える場面だけで使うと、本来のニュアンスから少しずれます。
類義語・関連語
「庇を貸して母屋を取られる」と同じように、信頼や好意を裏切られることを表す言葉には、以下のようなものがあります。
- 飼い犬に手を噛まれる(かいいぬにてをかまれる):
日頃面倒を見ていた相手から、思わぬ裏切りを受けること。 - 恩を仇で返す(おんをあだでかえす):
受けた恩に害で報いる仕打ち。 - 獅子身中の虫(しししんちゅうのむし):
味方のふりをして、内部から害をなす者。 - 後足で砂をかける(あとあしですなをかける):
世話になった相手に迷惑をかけて去る振る舞い。
「庇を貸して母屋を取られる」と「飼い犬に手を噛まれる」の違い
どちらも信頼した相手からの裏切りを指しますが、何を奪われるかに重心の違いがあります。
| 語句 | 裏切りの中身 | 重く失うもの |
|---|---|---|
| 庇を貸して母屋を取られる | 譲歩につけ込まれての乗っ取り | 立場や財産そのもの |
| 飼い犬に手を噛まれる | 目をかけた相手の反逆 | 信頼と面目 |
英語表現
Give him an inch and he’ll take a mile.
一インチ譲れば一マイル取られる、というたとえ。
わずかな譲歩を許すと相手の要求が際限なくふくらむ様子を表し、「庇を貸して母屋を取られる」の構図にそのまま重なる表現。
Give him an inch and he’ll take a mile.
(少しでも譲れば、どこまでもつけ込まれる。)
小さな承諾が呼ぶ大きな要求
玄関に足を入れる、と訳される交渉術が、社会心理学で実際に確かめられています。
1966年、アメリカの心理学者フリードマンとフレイザーは、まず家庭を訪ねて、窓に貼る小さな安全運転のステッカーへの協力を頼みました。
これを引き受けた人たちに後日、庭へ大きな看板を立てさせてほしいと依頼すると、最初の小さな頼みを断らなかった家ほど、大きな看板の設置にも応じる割合が高くなりました。
小さな要求をいったん通すと、次の大きな要求も受け入れられやすくなる傾向は「フット・イン・ザ・ドア(玄関に足を入れる手法)」と呼ばれています。








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