意味
「尽忠報国」は、自分の忠義を出し尽くして、国から受けた恩に報いることを意味する四字熟語です。
「尽忠」と「報国」という、動詞と目的語の組み合わせを二つ重ねた成り立ちで、忠義を尽くす行為とその先にある国への奉仕を一続きに表します。
個人の感情や利害よりも国家への献身を優先する、強い覚悟を伴う場面で使われる言葉です。
- 尽忠(じんちゅう):忠義を尽くすこと。
- 報国(ほうこく):国から受けた恩に報いること。
語源・由来
「尽忠報国」は、南宋の武将・岳飛(がくひ)にまつわる逸話でよく知られています。
金との和睦を進める朝廷から謀反の疑いをかけられた岳飛は、取り調べの場で自ら着物の背を開いて見せました。
そこには「尽忠報国」の四文字が深く彫り込まれていたと、正史『宋史』の何鋳伝に登場します。
当時の南宋は、北方の金と和睦するか戦い続けるかで朝廷内の意見が割れており、主戦派だった岳飛は和睦派から警戒される立場にありました。
忠義を尽くして国に報いるという生き方を、文字通り自分の身に刻んでいたという逸話です。
使い方・例文
「尽忠報国」は、国家や組織のために身を尽くす覚悟を表す、格式張った場面で使われます。
- 彼は尽忠報国の志を胸に、若くして軍人の道を選んだ。
- 社員に尽忠報国を求めるような古い体質が、若手の離職を招いている。
使う場面での注意
「尽忠報国」は、近代日本では国への絶対的な服従を国民に求めるスローガンとして繰り返し使われた歴史を持ちます。
そのため現在では、歴史や文学を語る文脈を離れて日常的に使うと、古めかしく、あるいは国家主義的な響きを伴って受け取られることがあります。
目上の人物や組織への忠誠を軽い調子でほめる場面には向かず、時代背景を踏まえたうえで使うのが無難です。
類義語・関連語
「尽忠報国」と同様に、忠義や献身を尽くす姿勢を表す言葉には、次のようなものがあります。
- 滅私奉公(めっしほうこう):自分の利益を捨てて、公共のために尽くすこと。
- 忠君愛国(ちゅうくんあいこく):君主に忠義を尽くし、国を愛すること。
「尽忠報国」と「忠君愛国」の違い
どちらも国家への忠誠を表す四字熟語で、近代日本では並んで使われることも多い言葉ですが、力点が異なります。
「尽忠報国」は忠義を尽くす行為そのものに重心があるのに対し、「忠君愛国」は君主への忠誠と国への愛情という二つの対象を並べて示す言葉です。
| 語句 | 力点 | 示す対象 |
|---|---|---|
| 尽忠報国 (じんちゅうほうこく) | 行為・実践 | 国 |
| 忠君愛国 (ちゅうくんあいこく) | 心情・態度 | 君主と国の両方 |
英語表現
for king and country
君主や国家のために尽くすという、愛国的な覚悟を表す言い回し。
Many soldiers said they were fighting for king and country.
(多くの兵士たちは、王と国のために戦っていると語った。)
duty, honor, country
米国陸軍士官学校の校訓としても知られる、国家への献身を凝縮した言い回し。
He lived his whole life by the motto “duty, honor, country.”
(彼は生涯「義務、名誉、国家」という信条を貫いた。)
岳飛の背に彫られた四字
岳飛が実際に背に彫っていたのは「尽忠報国」でしたが、後世には「精忠報国」という言葉で広く記憶されています。
この食い違いには理由があります。皇帝の高宗は岳飛の働きをたたえ、「精忠岳飛」の文字を刺繍した旗を贈りました。
中国語では「精」と「尽」の発音が近く、両者は徐々に混同されていきました。
さらに清代の小説『説岳全伝』で、岳飛の母が息子の背にこの文字を彫ったという場面が描かれ、史料には見当たらないこの逸話とともに「精忠報国」の呼び方が広まりました。









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