意味
「弓を引く」は、目上の人や恩を受けた相手に逆らい、敵対することを意味する慣用句です。
文字どおりには弓に矢をつがえて射る動作を指しますが、そこから転じて、力の差がある相手にあえて刃向かう行為のたとえとして使われます。
語源・由来
「弓を引く」は、弓に矢をつがえて射る動作を指す言葉でしたが、武士の社会では弓を構えること自体が敵対の意思表示となったため、目上の者や主君に逆らう意味へと転じました。
本能寺の変で主君の織田信長を討った明智光秀の行いは、しばしば「主君に弓を引いた」と語られる、この慣用句の代表的な例です。
使い方・例文
「弓を引く」は、世話になった相手や上の立場の人に逆らう場面で使われます。
- 彼はかつての恩師に弓を引く形で、独立して同業の会社を立ち上げた。
- 部下が上司に弓を引くのは、よほどの覚悟がいる。
「弓矢を引く」は誤り
「弓を引く」を「弓矢を引く」と言うのは誤りです。矢は弓につがえて放つものであり、弓と矢をまとめて「引く」対象にするのは、動作として正しくありません。
類義語・関連語
「弓を引く」と同じように、味方や目上の者への反抗を表す言葉には、次のようなものがあります。
- 反旗を翻す(はんきをひるがえす):
味方だった者が、それまで従っていた相手に逆らい敵対すること。 - 牙を剥く(きばをむく):
それまで従順だった者が、突然荒々しい態度で相手に立ち向かうこと。
「弓を引く」と類義語の違い
いずれも味方や目上の者への反抗を表しますが、力点が異なります。「弓を引く」は主従関係にある相手への敵対そのものを、「反旗を翻す」は集団的な離反や謀反を、「牙を剥く」は態度の急変による攻撃性を強調します。
| 語句 | 力点 | 主な使われ方 |
|---|---|---|
| 弓を引く (ゆみをひく) | 主従関係での敵対 | 個人対個人の反抗 |
| 反旗を翻す (はんきをひるがえす) | 集団的な離反・謀反 | 組織・勢力の対立 |
| 牙を剥く (きばをむく) | 態度の急変・攻撃性 | 突然の態度豹変 |
英語表現
turn against
それまで味方だった相手に敵対するようになることを表す言い方。
After years of loyal service, he suddenly turned against his mentor.
(長年忠実に仕えたあと、彼は突然恩師に弓を引いた。)
bite the hand that feeds you
世話になった相手を裏切ることを表す言い方。
Quitting to join a rival company felt like biting the hand that feeds you.
(ライバル会社に移ることは、恩人に弓を引くような行為に感じられた。)
夕顔のそばで鳴った弦
「弓を引く」は歴史的に、矢をつがえずに弦だけを鳴らす「鳴弦」と呼ばれる作法も指していました。弦の高い音で邪気や物の怪を追い払うと考えられ、出産や病気の際、夜間の警護など、さまざまな場面で行われた儀礼です。『源氏物語』の「夕顔」の巻には、急に亡くなった夕顔のそばで、光源氏が弦を鳴らすよう命じる場面が出てきます。矢を放たずに構えるだけで敵意や力を示すという発想は、のちに「弓を引く」が反抗を意味する言葉に転じたことともつながっています。









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