意味
「不知火(しらぬい)」とは、九州の八代海や有明海で、夜間に無数の光が点々と揺らめいて見える現象を指す言葉です。
旧暦8月1日にあたる八朔前後の、月の出ない夜によく見られるとされ、俳句では秋の季語として親しまれています。
正体不明の怪しい火と考えられてきたこの現象の仕組みが科学的に解明されたのは1937年のことです。
澪(みお)と呼ばれる水路が入り組む遠浅の海で夜に大きく潮が引くと、干潟の上の冷たい空気と澪の上の暖かい空気の間に温度差が生まれます。
そこに風が吹くと空気の渦の列ができ、渦がレンズのように働いて沖の漁火(いさりび)を横に伸ばして見せることが、現地での観測と実験によって確かめられました。
語源・由来
「不知火」の由来は、景行天皇の九州巡幸を伝える『日本書紀』の説話にあるとされます。
天皇の船が日暮れの海上で行く先を見失った際、遠くに見えた火を頼りにたどり着いたのが八代県の豊村でした。
『日本書紀』の景行天皇十八年五月の条には、次のようにあります。
天皇問其火光之處曰「何謂邑也。」國人對曰「是八代縣豐村。」亦尋其火「是誰人之火也。」然不得主。茲知非人火。故名其國曰火國。
(天皇がその火の見えた場所を尋ねると、土地の者は「八代県の豊村です」と答えた。さらに、その火が誰の火かを尋ねたが、火の主は分からなかった。人の火ではないと知り、この国を火の国と名づけた。)
この主のわからない火を「しらぬ火」と呼ぶようになった時期ははっきりしませんが、中世には一般的な呼び名になっていたとみられます。
同じ「火国」の由来をめぐっては、健緒組が土蜘蛛を討った際に天から火が降ったという『肥前国風土記』の伝承もあり、地名の起源には複数の説が伝えられています。

使い方・例文
現地の八代海沿岸では、今も旧暦八朔の夜にこの光を見ようと人が集まり、地域の風物詩となっています。
- 秋の夜、沖合いに揺らめく不知火をカメラに収めた。
- 俳句の季語として、不知火は昔から詠まれてきた。
- 彼は少年の頃、海辺で不知火を見たことを覚えている。
類義語・関連語
同じように、正体のはっきりしない光を夜に見るという言い伝えには、次のような言葉もあります。
- 狐の嫁入り(きつねのよめいり):
日照り雨を指すことわざとして知られるが、夜の山野で狐火が連なって見える現象を指すこともある。
「デコポン」の本当の品種名は「不知火」
スーパーなどでよく見かける「デコポン」は商品としての呼び名で、正式な品種名は「不知火」といいます。
1972年に「清見」と「ポンカン」を交配して育成されたこの柑橘は、熊本県宇土郡不知火町(現在の宇城市)で栽培されたことにちなんで名付けられました。
「デコポン」は、糖度13度以上・酸度1度以下などの基準を満たしたものだけに使える、熊本県果実農業協同組合連合会の登録商標です。

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